投機
黄緑色の腕章。くすんだ紅色の指輪。
取り止めのないおしゃべりの続き。
押し合いへし合いひしめき合い。
コイの大群が滝へと殺到した。
滝壺には堅牢な妖が待ち構える。
ラスベガスから香港を引っぺがすのには骨が折れる。
紙の端と端をくっつけて、くるくると丸める。
縁を手前に折り曲げたらひとまず終いにしよう。
続きは寝ぼけたコインが立ちあがったら。
希望が見出せるのは、丁半つかぬ間だけ。
そうは思えぬのも無理はない。
あれに出会わなければ分からないだろう。
洞窟の奥に潜む自身の亡霊に。
鏡。ピカピカに磨かれた鏡。
覗き込まなければ忘れていたであろう記憶に。
覗き込む?
そんなことをしなくても流れ込んだであろう。
否応がなしに。
届くのは本当に一瞬だ。
次々と運ばれてゆく段ボール。
並々と注がれた御神酒。
進化の系譜を逆向きに辿れ。
枝葉のついた木。
嘘という嘘。
暴れるコイの尻尾を追う。
古代ギリシアの大地が揺れている。
喉がカラカラだ。辛うじて出てきた唾を呑み込む。垂れ下がった紐の色は?
遺されたものは?
暮れゆく神殿にはジリジリとした夏の残香が。
明けゆく宵にはローズマリーの香りが。
滝壺の裏には崩落した炭鉱路が。
重ねてはダメだ。重ねては。絶対に。
泥に塗れて散った栄華が。
吹きこぼれている鍋の下には。
チカチカと点滅する街あかりのそばには。
収歛するドーナツの真横には。
オリオン座はまだ見ぬ自由を望む。