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宣戦布告ですの?

「マリアーシャ嬢」


 あれからというものの、ルサハルト王子はわたくしに声をかけに来るようになり、殿下が不機嫌になることも多くなりました。しかし、人前では押さえているご様子で、殿下の成長に胸が熱くなってしまいます。


「……マリアは僕のものだ」


「そうですわ、殿下。わたくしは殿下のものでございます」


 小声で耳元にささやきかける殿下に、わたくしも小声でお返しします。

 陛下から一度苦言を呈していただいているものの、ルサハルト王子の言動は改善が見られません。



「君のような優秀な婚約者がいて、王太子殿下がうらやましいよ。私も君のような女性を伴侶にできたらなぁ……」


「ありがたいお言葉、恐れ多いですわ。しかし、貴国にも素晴らしい女性が多くいらっしゃるでしょうに」


「いやぁ、本当に羨ましい」


 いい加減うっとうしくなってきたところに、ルサハルト王子はわたくしに宣戦布告なさいました。



「ダイア殿下は、君や私と違って優秀じゃないからね。他国でも問題を君がカバーしていると噂だよ」


「は?」


 思わず淑女の仮面をかなぐり捨てそうになりましたわ。なんなんですの? 侵略でもしてほしいのでしょうか?


「いや、君も私のような会話レベルの合う人間を伴侶にした方が幸せになれると思うよ?」


「……まぁ? わたくしの殿下は優秀ですわよ?」


 わたくしが攻撃魔法を放つ前にと、陛下たちの手によってわたくしたちは引き離され、殿下でぐるぐる巻きにされたわたくしは、殿下の私室にぽいと投げ込まれました。


「マリアーシャ嬢。愚息は好きにしていいから、お願いだから落ち着いてくれ」


「ふふ、陛下ったら。わたくし、落ち着いておりますわよ?」


「……すまない。誰か早急にメルティア嬢を呼んでくれ!! マリアーシャ嬢の操作方法に一番詳しいのは、メルティア嬢のはずだ!!」


 走り出す文官たちの姿を横目に、わたくしは算段を始めます。


「ふふふふふ……」


 わたくしのかわいい殿下を罵倒した罪、どうやって償っていただこうかしら? やはり、侵略でしょうか?












「無理です」


「は?」


 わたくしの制御のために呼び出されたメルティア様。恰好が乱れていて、いつもよりも男らしさと儚い色気が漂っています。女性だけの舞台でも作って劇でもさせたら、ぼろもうけができそうですわ。


「ここまでマリアーシャ嬢を暴走させたのはきっとルサハルト王子が初めてでしょう。殿下の浮気でもここまでは怒っていなかった記憶です。一度、侵略戦争でもふっかけて、あちらの国にも世界中にもマリアーシャ嬢の危険性を周知した方が平和になると思います」


「侵略は望んでおらぬ。なんとかならぬか?」


「……陛下の”なんとかならぬか”はなんとかしろと同意になりますよ。……仕方ありません。怒りの発散方法を変更させてみましょうか」


 髪をかき上げながらわたくしに近づいてくるメルティア様。周囲のメイドは鼻血を噴出して倒れ、王妃たち貴族女性は、ハンカチを構えることで乗り切りました。殿下が思わずといった様子でわたくしの前に立ちはだかります。


「マリアーシャ嬢」


「なんですの? メルティア様。わたくし、わたくしの殿下を馬鹿にされて簡単に許すことはできませんわよ?」


「……君は、ルサハルト王子だけに怒っているのか? 寛大だな?」


「と、おっしゃると?」


「ルサハルト王子が言っていたそうじゃないか。”他国でも”と」


「……メルティア様は世界を統一せよとおっしゃるのね?」


 わたくしの反応に、陛下が「やめろぉぉぉぉ」と頭を抱えます。


「いや、違う。いつも優秀な君がこの解決方法に気が付かないとは」


「……なにがおっしゃりたいのですの?」


 メルティア様の言葉に思わずいらっとすると、続きを語られました。


「早急に、噂を払拭すればいい。君は得意だろう? 世論を操作することなんて。”ダイア王太子は優秀だ”という噂を流し、馬鹿にするルサハルト王子を馬鹿にしてしまえばいい。それに、そんな世論を柱に、ルサハルト王子の評判を落としてしまえばいい。評判の落ちた第二王子なら、君が多少言い返そうと問題ないだろう?」


 メルティア様がそう言って手を差し出してきます。小動物のように唸る殿下をそっと撫で、その手を取りました。


「素敵なご提案をありがとうございます。滅茶苦茶にしてやりますわ!!」


 陛下たちがほっと息を吐いた様子が視界の端にうつりました。



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