作戦実行
「一番平和的な案なんだけど、真実の愛は婚約者と、みたいな劇をまた見せてみたら?」
「それは素敵なことになるかもしれないわ!」
わたくしが思わず、メルティア様に駆け寄るとメルティア様は困ったように一歩引きました。
「一応、殿下は僕を男だと思っているんだろう? 離れておいた方がいい」
「それもそうね。気を遣ってくれてありがとう」
「ふふふ、どんな劇にしようかしら?」
わたくしがるんるんと劇の案を書いていると、メルティア様は首を傾げて問いかけていらっしゃいました。
「え、もしかして、前回殿下に見せた話の脚本を手掛けたのって……」
「ふふん、わたくしよ?」
運命の愛だと婚約者に婚約破棄を叩きつけたところ、実は運命の愛の相手は婚約者で、小娘は偽物。小娘は殿下にたくさんの嘘をついていて……。
「ふふふ、せっかくだから、真実も織り交ぜて差し上げましょう? あの小娘、他の人にもちょっかいをかけているみたいだから。せっかくだから、運命の相手をこっぴどく振った殿下に罰が降って反省してもらって、と」
「相変わらず恐ろしい情報網だね」
「ありがとう、わたくしの脚本を手掛けた劇、見にきてね?」
「ありがたく見に行かせてもらうとするよ」
「す、素敵な劇だったわね?」
観劇が終わり、リリールナが殿下に擦り寄ろうとすると、そっと距離を取られました。どことなくリリールナの顔色も殿下の顔色も良くないですわ。そんなお二人に偶然を装って声をかけます。
「まぁ、ごきげんよう? お二人揃って観劇ですか?」
わたくしがご挨拶をすると、殿下の顔は明るく華やぎました。
「マリアーシャ! 君に会いたくてたまらなくなっていたんだ! この後、食事に行かないか? 有名な店を予約してあるんだ!」
「まぁ……でも、運命のお相手でいらっしゃるリリールナ嬢はよろしいのですか?」
「彼女は運命の相手でもなんでもなかったんだ」
「では、ご一緒させていただきますわ。ごきげんよう、リリールナ嬢」
「待って、その店! 私のために予約したんでしょお!?」
叫ぶリリールナを放置して、わたくしは殿下にエスコートをされ、立ち去ります。思った以上に御しやすい殿下にわたくしは笑みを浮かべてしまいました。知能指数が離れていると会話が成立しないと言いますが、わたくしにとってはそんなところもとてもお可愛い殿下でございます。廃嫡されることのないよう、守って差し上げますわ! 政務の諸々はわたくしがこなせば問題ないですもの。ふふふ、本当にかわいらしいわ。