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海底の楽園  作者: 来蓬
6/6

善意と悪意は平等に

〈前回のあらすじ〉

 このシリーズは未来で存在するかもしれない、地球全ての土地が海に沈んだ世界。そして海底でも耐えうるドームを作り上げた森暁は技術提供の見返りとして世界に対し、楽園改革を行った。そんな世界、海底の楽園での話。東京にやってきた少女の朝陽が主人公。

 前回、朝陽はバイトを順調にこなしていたが、先輩と衝突している年上の後輩を見かける。ある日の帰り道、その後輩が道の植え込みに座り込んでいるのを発見する。浮浪児はいないが、浮浪した大人はいる。朝陽は自分の身にも迫る恐れに彼を拾って帰ってきた。瑞希は反論したが、結局受け入れることにした。瑞希もまたその恐れを理解していたからだ。三人の生活は一体どうなる!?


〈楽園改革〉

・後継制度

 血縁によらない完全な養子縁組制。家業を継がせる子供を選ぶ。子供の方も自分で親を選ぶ。そして後継者が名字と財産を継ぐ。

・親子改革

 生まれた時にある格差を無くす。子育て費用は全て税金。大人になると次の子供を育てるための税金を取られる。育児に参加すると免除される。育児については義務教育で教えてもらっている。


「そういえば、あなたの名前は?」


 朝陽は家に泊めようとしている男の名前を知らないことに気がついて、こう聞いた。


「恭平」


「OK、恭平。それじゃあ、瑞希はベッド、恭平はロフトの上の布団、私はベッドの隣の床で寝よう」


 朝陽は場所を順番に指差した。瑞希は反論しようと言葉を発する。


「えっ、でも……」


 しかし、瑞希の声はそれを上回る声量で遮られた。


「えっ、俺の事、呼び捨て?」


「そりゃそうでしょ。私は苗字持ちで貴方を拾った身。どう考えても私の方が序列が上でしょ?」


「……」


「そこで睨まれても。雨風に曝されない寝床があるだけ良しと思って」


 朝陽は、話は終わったとばかりに自分の荷物を取るため、ハシゴに向かおうとする。そこを瑞希が呼び止めた。


「ちょっと待って。床で寝るなんて……」


「流石にずっと床で寝る訳じゃないよ?明日には布団が手に入るだろうし、今日だけなら大丈夫だから」


「でも、ベッドとロフトのハシゴの間なんて狭いし、寝返りをうってぶつけるかも……」


 瑞希はそう言いつつも、代替案として一緒にベッドで寝ようとまでは言えなかった。朝陽を信用できない。正確には恭平を連れてきた朝陽、そして、恭平自身を信用できなかったから。


「大丈夫!私、寝相いいから!」


 朝陽のグーサインに、瑞希はどこからその自信が湧いてくるんだと呆然としてしまった。その間に朝陽は自分の荷物を取るためにハシゴを駆け上がってしまった。



***



 結局、朝陽が言った通りの場所で各々眠った。と言っても、瑞希は知らない男性がいて眠れる訳が無かった。そして、恭平は朝陽が連れてきてくれたとはいえ、彼女を信用できず、眠れなかった。唯一、朝陽だけが床で爆睡していた。ベッドの足やハシゴにぶつかった形跡もない。寝返りはうっているようなのにと、瑞希はベッドから朝陽を見て驚いた。


「朝陽、起きて」


 瑞希は寝ている朝陽を跨ってキッチンに向かうことができるが、礼儀として朝陽に声をかける。


「ん?おはよう」


 朝陽は起き上がると伸びをして、立ち上がった。


「恭平、起こしてくる。朝ご飯は何?」


「食パンかな」


「あれ?私が送ったお米は?」


 瑞希はキッチンへ向かう足を止めて朝陽の方を向いていたが、視線を逸らした。


「えっと、今日はお米炊いてなくて……」


「OK」


 朝陽は以前からお米炊いてなかったなと察したが、それは言わなかった。大人しくハシゴを上る。


「恭平、起きてー」


 ハシゴを上りきらずに朝陽はちょっと顔を出して声をかけた。恭平は目を瞑りながらも全く寝ていなかったが、それを悟られないように手だけ振って起きると合図した。

 朝陽が下に降りると瑞希が冷凍のパンをトーストしてくれていた。ほどなくすると恭平も降りてきて、折りたたみのテーブルの上で朝食を食べる。テーブルは三人で食べることを想定された大きさではないため、三つのお皿をなんとか詰めて置いている。そして、朝食を食べ終わると朝陽はこう言った。


「恭平、布団買うから付いてきて」


「なんで俺が……」


「瑞希の勉強の邪魔になるから。夜いるってだけでも邪魔なんだから起きてる時くらいは外にいないと。私だって昼間はバイトでいないし。これからはできる限り外にいるように」


「はぁ?」


「文句があるなら夜も家から追い出すけど」


「……」


 恭平は圧倒的に不利だった。朝陽と恭平の二人は外に出かけた。瑞希は勉強の前に仮眠をしようと、椅子に座ってデスクへ顔を伏せた。

 朝陽と恭平の二人はとある家具店までやって来た。恭平は朝陽の後ろを二歩離れた位置で付いてきていた。朝陽は布団のエリアで立ち止まると恭平に話しかけた。


「どうせ余裕はあるから恭平の分の税金もちょっとは払ってあげる。あの様子じゃ失業の保険にも入ってないし、税金滞納してるんでしょ?」


 本来なら失業しても保険に入っていれば生活費と税金代が出るはずなのだが……ここは自由の楽園。保険に入るのも個人の判断次第。社会福祉も、公衆衛生も、年金も、全ては民間の保険に委ねられている。


「犯罪にならないくらいには毎月の最低限の税金を払うから」


 税金の滞納は長期間に及ぶと犯罪になる。だって、最初から平等だったでしょう?貧困や飢餓を知らず、教育だって受けてきたのに。大人になって子供達のため、人類のための税金を払えないのはお前の責任。


「……」


「これ、良さそう。寝てみよ」


 恭平が黙り込んでいるのをいい事に、朝陽は試しに使える商品の布団に寝転がった。


「その間に仕事、探しなよ。税金のためのその場しのぎのバイトはしないで、転職活動に専念してさ。正規でも非正規でも長く働けて、自分で税金が払えるように」


 朝陽は寝っ転がりながら恭平を見上げている。しかし、恭平は見下されている気分だった。彼は歯を噛み締めて、こう呟いた。


「偉そうに……自分のことは自分で好きにする」


「そう」


 朝陽は恭平の呟きをそれだけで片付けた。彼女はその後、二つほど試してみて一番目に試した布団を購入した。



***



 それから朝陽はバイト、恭平は外出、瑞希は家で勉強。そんな日々が三日続き、瑞希はやっと眠れるようになってきた。しかし……


「はい、確保ー」


 真夜中。瑞希はドタバタとした音と朝陽の声で目が覚めた。急いで起き上がると、恭平が朝陽に組み敷かれていた。うつ伏せの恭平の上に朝陽が乗っていて、恭平の腕を掴み、ガッチリと技を決めている。恭平は身動きが取れないようだった。

 そして、床には恭平の手から落ちたのであろう物が転がっていた。瑞希と朝陽の財布だ。


〈次回予告〉

瑞希「やっぱり拾うんじゃなかった……」

朝陽「でも、私が言った通り、何かあったからちゃんと確保してるじゃん」

瑞希「それは普通安心させるための言葉であって、本当に何かあったら捕まえることを想定してるとは思わなかったよ……」

朝陽「次回『捨てる神あれば拾う神あり』」

瑞希「……私たちが捨てる神?」

朝陽「えぇ……そっちかなー?」

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