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海底の楽園  作者: 来蓬
3/4

自由で平等

〈前回のあらすじ〉

朝陽「このシリーズは未来で存在するかもしれない、地球全ての土地が海に沈んだ世界。そして海底でも耐えうるドームを作り上げた森暁は技術提供の見返りとして世界に対し、楽園改革を行った。そんな世界、海底の楽園での話。山で暮らす少女の朝陽が主人公」

竹内「前回は朝陽がたけのこ掘りに向かったところで景山朝陽という名字が明かされ、楽園改革の一つである後継制度について説明があった。そして朝陽がたけのこを明日香のところにおすそ分けに行ったところで、小太郎と明日香に血縁がないことが明かされた。ではなぜ明日香の家に小太郎がいるのか?というところだな」

朝陽「楽園改革、後継制度などについては毎回この後のコーナーで紹介してくれるって」

竹内「俺たちにとっては基本の知識だけど、いざ説明しろって言われたら難しいよな」


〈楽園改革〉

・後継制度

 血縁によらない完全な養子縁組制。家業を継がせる子供を選ぶ。子供の方も自分で親を選ぶ。そして後継者が名字と財産を継ぐ。


 "明日香と小太郎に血縁はない"


 ならば何故明日香の家に小太郎がいるのか。それは楽園改革のうちの一つ、親子改革によるものだった。


 "親子改革"


 それは生まれた時にある格差を無くすためのもの。血縁とは関係なしに子供を育てる。子育て費用は全て税金。大人になると次の子供を育てるための税金を取られる。育児に参加すると税金を免除される。育児については家庭科とは別でその科目が設置され、義務教育で受けている。

 後継制度と親子改革により、世襲制はなくなった。子供たちは育ててもらった恩から両親に負い目を感じる必要も、両親の職を継ぐ必要もない。育てる彼らには税金が免除されるというメリットがすでにある。税金の免除という形ではあるが、子育てにお金が発生しているとも言える。それならば子育ては仕事だし、それ以上でもそれ以下でもない。


 "生まれた時から自由で平等"


 子供たちが貧困に苦しむことも、裕福に甘やかされ過ぎることもない。また両親との関係に悩まされることもない。


 "これこそまさしく楽園"


 素晴らしきこの世界を森暁の楽園改革と海底に沈んだ現状を示し、"海底の楽園"と呼称するようになった。



***



「よし!たけのこの炊き込みご飯だ!」


 たけのこを下茹でした後、炊き込みご飯にする。もう夕食の時間だ。そうしてでき上がると小太郎は子供らしく無邪気に喜んでいる。しかし彼は明日香と血縁がないことは知っているし、自分を育てているのは仕事、お金のためだと知っている。だからこそお金を払うだけの働きをしていないと、いわゆる虐待やネグレクトだと子供たちが判断すれば児童相談所に報告することができる。もしそれで引き離されたとしても子供たちが一人になることはない。育てる人間は他にいるのだから。


「はい、小太郎の分ね」


 明日香は小太郎の白い茶碗に炊き込みご飯をよそぐ。子供扱いをすることもあるが、明日香の方も大人としてちゃんと分かっている。子供は自分の仕事ぶりを見る監査官であるということを。そのため、子供だからといって無下にしない。一人の人間として、大人と同じように扱うこともある。


「いただきます」


 準備が終わり、三人で食卓を囲む。畳にちゃぶ台、そして炊き込みご飯。その調和を見るだけで温かな気持ちになる。朝陽は一口食べると笑みが溢れた。たけのこの食感と甘みが口に広がる。美味しい。しかし職と名を継ぎ、順風満帆に見える朝陽にも懸念があった。

 職に就いた朝陽には納税の義務がある。今度は自分が子供たちのためのお金を払わなければいけないのだ。猟師として山菜や肉、交換でお米は手に入るが、商売はしないので手元にお金がない。これでは税金が払えない。もちろん税金免除のために子供を育てるという手もある。しかし彼女の家は山の中。子供を育てるのに適した環境ではない。となると出稼ぎくらいしか手段がないが、ちょうど彼女はそれに最適なツテを持っていた。



***



「ふぁ……」


 朝陽は自分の家に戻ってくると素朴な木の机に肘をつきながらあくびをした。スマホを眺めている。朝陽の家も電気自体は通っている。ただ家電を置くのは大変なので、明日香の家で使わせてもらっているのだ。


「あれ、瑞希いるじゃん。ボイスチャットできるかな?」


「……もしもし、どうかしたの?朝陽ちゃん」


「この夏は瑞希の家にお邪魔するし、調子はどうかなって思って」


 発言からも分かる通り、朝陽のツテというのは瑞希のことである。同じ高校の同級生。といっても実際に会った回数は数少ない。高校の授業などもほとんどがネットを通じて行われているため、住んでいる場所も違うからだ。学生間の交流もネット。


「調子って言っても……いつも通り勉強して受験に備えてるけど」


 瑞希は十七歳。大学を受験する受験生である。同い年の友人ではあるが、四月生まれの朝陽は十八歳で、名と職も継いでおり、高校卒業のみを目指している。つまり瑞希と朝陽では同じ高校でもそれぞれのコース、学力が全く違う。


「私が家に来られて邪魔だとは思うだろうけど、精一杯家事とか手伝うから!」


 ボイスチャットでこちらの姿は見えないというのに朝陽は大きく頷いている。


「家事とか手伝ってくれるだけでありがたいよ。朝陽ちゃんだって出稼ぎに来る時の家賃を抑えたかったんでしょ?私はまだ子供として扶養内で一人暮らしさせてもらってるし。ロフト付きの部屋を使わせてもらってるけど、結局ロフト使ってなかったからちょうどいいよ」


「はしごなら任せて。山で暮らす私の身のこなしを見せてあげるよ!」


「落ちないでね」



***



 村での日々は平穏に田植えをして過ぎ去り、東京へ行く日がやってきた。山の麓に集まって朝陽を見送る。


「じゃあ、竹内さん。うちの山、お願いしますね!」


「おぅ、任せとけ!」


 猟師仲間の竹内さんはニカッと笑って頷いた。逆に明日香さんは怪訝そうな顔をして小言を言う。


「全部持った?新幹線のチケット持ってる?」


「スマホの電子チケットなので、ちゃんと持ってますよ……」


 朝陽は呆れつつもちゃんと答える。朝陽が東京へ行く手段は新幹線だ。まずは電車に乗るための駅へ行くのに低い山を一つ越える。もちろん色んな移動手段があるが、朝陽にとっては徒歩で問題ない。


「乗る電車、間違えないようにね」


「はい、じゃあ、行ってきまーす!」


 小言お姉さんその二、茉莉さんの言葉を朝陽は聞き流し、別れの挨拶をする。


「いってらっしゃいー!」


 小太郎が大きく手を振る。朝陽は笑顔で手を振り返す。そして背を向け、歩き出した。朝陽が振り向いたのは低い山を越える前、山道を歩いている時に振り返って村を見下ろした。太陽に照らされ、まだ田植えが終わったばかりの田んぼが広がっている。朝陽は稲刈りの時期には帰ってくるとそう思いながらまた歩き出した。朝陽はもう振り返らなかった。


〈次回予告〉

小太郎「昔は親子改革無かったの?えー!?両親二人だけで子供一人、場合によってはそれ以上を育てるの?子供が自立するまで?長くない?大変でしょ」

明日香「それに加えて養育費も大体が両親持ちだったみたいよ。大変だったでしょうね」

小太郎「子供は人類みんなの宝だからみんなで育てる必要があるって学校でそう習ったよ?お金もそうだし、育てる期間だってみんなで分け合うって。子供は両親二人で育てるかー……変なのー」

明日香「次回『いざ東京へ』」

小太郎「東京かー。いずれは東京に行って誰かに育ててもらうのもありかも!」


〈作者のお知らせ〉

 半年から一年ほど(長くて来年、2025年の三月末まで)創作活動を休止させていただきます!賞に向けて前作を推敲したくてですね……この連載と同時進行は難しそうなんですよ。あとはプライベートが忙しくて……創作活動を辞めるつもりはないので、必ず戻ってきます!首を長くしてお待ちいただけると幸いです。

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