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海底の楽園  作者: 来蓬
2/4

この世界は

〈前回のあらすじ〉

朝陽「このシリーズは……ってまだ世界観の説明がされてないから何も言えない。海底の楽園、山で暮らす少女の朝陽が主人公です」

明日香「前回のあらすじとしては山で暮らす少女、朝陽の日常を描いたわね。朝は猟師として獲物を捕まえ、ビジネスパートナーの明日香の家で朝食を食べ、田植えを手伝ったり、その家の子供の小太郎の面倒を見たり。そして夕方、朝陽は空を見上げて偽りの空と言ったのよね。そんな風に空を見上げて感傷に浸ることなんてある?」

朝陽「感傷に浸るというか……目に入ったらあぁ、偽物だなぁと思うようなそんな感じだよ。食品サンプルを見た時と同じ」



 偽りの空とは一体どういうことなのか?ではここでこの世界について説明しよう。ここは海底の楽園。未来で存在するかもしれない……


 "地球全ての大地が海に沈んだ世界"


 60年前に天変地異が予測され、大混乱に陥った。他の星への移動も考えられたが、まだ実用段階ではない。その上宇宙開発は莫大なお金がかかるため、逃れられたとしても一部の富裕層のみとなるだろう。それは選民思想だと大暴動まで起こった。この混乱を収めたのが森暁(もりあきら)。彼は海に沈んでも壊れぬドームを大地の上に作る技術を開発した。そして……


 "天災、ノアの方舟"


 大地が海へ沈む時に起こった大地震。対策はしていたものの、その規模と長さから一定数の死者が出た。しかしそれは富める者も貧しい者も若い者も年老いた者も皆等しく無差別に死に追いやった。本来ならば皆死んでいたのだ。生き残った者は生きていることに感謝し、復興を進めて今日に到る。


 "とはいえ大地が海に沈むなんてSFではよくある話である!"


 ではこの世界は他のSFと何が違うのか?それは森暁が技術提供の見返りとして世界に求めた改革、楽園改革にある。これは一体何なのか?それは朝陽の生活を見ながら説明していこう。



***



 朝陽は朝起きると水を汲んだ。しかしその後は昨日と違い、ビジネスパートナー明日香の家ではなく、近隣の山までやってきた。朝陽の山と違って竹やぶが広がっている。山に入る前、麓に男性が立っていた。中年ほどの年頃でよく日に焼けている。外人の血が入っているのか青い目が輝いていた。


「よぉ、"景山"ちゃん!」


 "景山"朝陽の方も男性の名前を呼んだ。


「竹内さん、お久しぶりです!」


「たけのこ掘り、手伝いに来てくれてありがとな。"名を継いで"独立したけど、困ったことはなかったか?」


 竹内圭介。猟師仲間であり、朝陽にとって頼りになるお兄さんのような存在だ。さて景山朝陽という名字が分かったが、名を継ぐとは一体どういうことか?この世界のルールの一つを説明しよう。


 "この世界では職業の継承が名字の継承となる"


 つまり……


 "名字の継承は血縁によるものではない"


 楽園改革の一つ。後継制度。血縁によらない完全な養子縁組制。家業を継がせる後継者を選び、その者が名字と財産を継ぐ。子供の方も自分で親を選べるという仕組みだ。しかしそれに伴う色々な問題はどうするのかと思うだろう。まぁ、それもまた後ほど説明しよう。この世界に血縁で家業や財産を継ぐ世襲制というものはない。読者の皆様はそれが分かっていれば十分である。

 景山朝陽もまた血の繋がらない師匠から猟師としての名字、景山を受け継いだ。竹内もそうである。この世界で名字を持つ者は職を受け継いだ者しかいない。つまり名前しか持たない者もいる。そして朝陽や竹内が持つ山も受け継いだものである。


「地面に違和感……よし!たけのこだ!」


 説明はこのくらいにして朝陽と竹内はたけのこ掘りに勤しんでいた。朝陽が足で地面を掘ると少しだけだが、たけのこの先が出ていた。竹やぶに陽の光が遮られているので、山は薄暗い。地面を掘らなければ先が出ているのは見えなかっただろう。


「よくやった!たけのこは足を使って探すもんだ。ほんの少しの引っかかり……それを感じ取ることが大事だからな。よく探し当ててくれた!」


 竹内は駆け寄ってきて朝陽を褒める。二人はたけのこの周りの地面を掘り始めた。


「そろそろ引っ張っても……」


 地面を掘って少ししたら朝陽がそう言った。それを聞いても竹内はまだ地面を掘っており、言葉にしなくても意味は分かったが声に出してくれた。


「いや。こりゃ大物だ。引っ張るなんてもったいない。根元ギリギリまで掘るぞ」


「えー」


 朝陽はあからさまに落胆の声を上げる。


「おい景山ちゃん、掘る手を止めるな」


「同じ作業ばかりで飽きてきた……探す時は楽しいんだけどなぁ」


 愚痴を吐きつつも朝陽は作業を再開した。もちろん竹内の方は手を止めることなく、苦笑しながらこう言った。


「全部が全部楽しいってわけにはいかないだろ」


「なんか面白い話して」


「その前フリで話をして面白かった試しがあるか?」


「ない」


「即答じゃねぇか……」


 軽口を叩きあっていたが、朝陽は会話を切り上げる。


「あっ、これはもう根元じゃない!?」


「そうだな」


「あとひと踏ん張り」


 終わりが見えたことで二人は黙り込み、集中して作業を続ける。


「よっ、ほっ!」


 竹内がたけのこの底に鋤を入れて、てこの原理の要領でたけのこを掘り出す。朝陽がたけのこを掴んで、背中に背負っている籠の中に入れ込む。


「まずは一つ目!やっぱ、たけのこは甘く煮たいよね!」


「もう食べることを考えてやがる……」


 そんな調子で二人はたけのこを掘っていった。



***



 太陽が上がって昼間になると朝陽は収穫を終え、たけのこを背負って竹内の山から明日香の家までやってきた。


「明日香さーん」


 朝陽は明日香の家を提供してもらっている身なので、もちろんたけのこのおすそ分けにやってきたのだ。


「たけのこでしょう?準備はしてあるわ」


 食い気味で明日香が玄関から出てきた。そして朝陽の背中の籠をあっという間に回収する。朝陽は呆気に取られながらもその後をついて土間に入った。


「そんなに楽しみだったの?」


「早めに下処理した方が美味しさを損なわずに済むってだけよ」


 明日香は淡々と喋りながらも手は動かしていて、すでにたけのこの土を洗い流して鍋に放り込んでいる。


「早めにやって美味しく食べたいってことでしょ?それは楽しみにしてたのと同義では?素直じゃないねー」


 朝陽の方も手を動かし始めたが、同時に口も動かして明日香をからかう。しかし明日香が反論するより前に違う声が割って入ってきた。


「たけのこ!?」


 明日香の家の子供、小太郎がサンダルを履いて土間に降り、駆け寄ってくる。


「宿題は終わっ……」


 「宿題は終わったの?」と明日香は言いかけたが、途中でやめる。朝陽が来た時に小太郎の出迎えがなかったのはさっきまで宿題をしていたからだ。


「いえ、いいわ。別に宿題が終わってなくてもその責任は小太郎が取るわけだし」


「ちゃんと終わったよ!」


 明日香の発言に小太郎がムスッと不満げな顔をしたので、朝陽がフォローに入る。


「明日香さんは小太郎くんのことを一人の人間として尊重してるんだよ。それはそうとして宿題終わらせて、こっちの手伝いにも来てくれるなんてありがとね!小太郎くんはたけのこで何食べたい?」


「うーん……炊き込みご飯!」


「いいねぇ!小太郎くんが明日香さんの家に来てから"初めて"の5月、たけのこの季節がやってきたもんね」


 朝陽の発言から考えるとつまり、去年の5月には小太郎は明日香の家にいなかった。前述の説明でお気づきかもしれないが……


 "明日香と小太郎に血縁はない"


 では何故明日香の家に小太郎がいるのか?この世界では職業の継承で名を継げる。小太郎は明日香の後継者ということなのだろうか?いや違う。


 "それは楽園改革の一つ、親子改革によるものだ"


〈次回予告〉

竹内「後継制度、40歳の俺としては生まれた時からあったから違和感ないけどな」

朝陽「昔は血の繋がった子供に家業を継がせたりしていたらしいけど。子供がそれをやりたいかも分からないのに。よく上手くいってたよねー」

竹内「次回『自由で平等』!お楽しみに!」

朝陽「なんて胡散臭い言葉なんだ……」


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