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4話

 目覚めたその日のうちに由希は退院することになった。

 まひろと一緒に自宅までの道中、由希は先ほどまひろに聞きそびれたことを思い出した。

「さっきはどうして謝ったんだ?」

 由希の問いかけにまひろは答えるか、迷っていた。無理させる必要もないので、由希は話題を変えた。

「今日は大丈夫だったのか?」

「え?」

「ほら、いつも放課後は用事があるって言ってどこかへ行ってたじゃないか。その用事は今日は無かったのか?」

「……うん、大丈夫」

 由希の思惑とは裏腹に、まひろの表情は沈んだままだった。

 どうしたものかと、悩む由希だったが、意外にもまひろの方から口を開いた。

「こういう時のために私はそれをしていたから」

「……どういう意味?」

 再びまひろが言葉に詰まった。

 しかし、それはどうすれば上手く説明できるかを考えている間だった。

 今はそれだけで、由希にとっては十分だった。

 やがて由希の自宅とまひろの自宅との分かれ道に差し掛かり、お互い立ち止まった。

「まあ、言いたくなったら教えてくれればいいから」

「……ありがとう」

「いや、お礼を言うべきなのは俺の方だ」

「え?」

 まひろは目を丸くして由希を見た。

「俺が目覚めるまで隣に居てくれて、ありがとうな」

 由希に言われたことがよほど意外だったようで、まひろは更に目を大きく開いた。

 そして、照れくさそうに顔を伏せて、

「.......どういたしまして」

「じゃあ、また明日な」

「うん」

 別れ際に由希がまひろの顔をこっそり盗み見ると、ちょうどまひろも由希の顔を覗き見たようで、目があった。

 夕日のせいかもしれないが、まひろの白い顔が赤く染まっているように見えた。

 由希まで照れくさい気持ちになりながら、まひろと別れて家路に向かった。

 帰宅すると、慣れた我家の匂いに出迎えられ、たった一日入院しただけなのにひどく懐かしく感じた。

 由希は自室に戻り、着替えもせずにベッドに寝転んだ。

 何をするでもなく、ぼんやりと見慣れた天井を見つめる。

 叔父夫婦はまだ帰って来ておらず静かな家の中で、ようやく由希は自分が日常に帰ってきたのだと感じた。

 そうすると、今度はこの前の出来事が本当にあった事なのか信じられなくなってきた。

 気絶する前の記憶を思い起こす。

 周りの者がひとりでに動いたり、破壊されたりしていた。

 言うまでもなく非現実的だ。

 しかし当時は、自分の中に信じられないくらいの大きな衝動がわいてきていて、それを不思議とも思わなかった。

 そんな事を考えてくると、否応なく嫌な思い出まで蘇ってくる。

 次々と巻き込まれている不良たちの姿。彼らは自業自得とはいえ、決して軽くはない報いを受けた。

 胃の中に湧き上がる不快感を感じながら、由希は改めて自問する。

 あれは、本当に現実だったのか

 由希が彼らを傷つけたという事実。

 それは果たして本当に起きてしまったことなのだろうか。

 由希は病院の事情聴取での警官たちを表情を思い出した。あの時はもどかしく思えた彼らの様子が、今は却ってそうあって欲しいものになっていた。

 そわそわと落ち着かない気持ちになって、やがて、由希はたまらずベッドから起き上がり、家を出た。

 由希が向かったのはあの時の事件現場だった。本当にそれが実際に起きたことなのか、確かめずにはいられなくなったのだ。

 部屋でうとうとしていたせいで、外はもう暗くなっていて、学校へ向かう道は人通りがなかった。

 現場にたどり着くと、由希は目の前の光景に愕然とした。

 学校の校舎を出て、裏道に入った路地。

 そこはまるで、天地がひっくり返ったようなありさまだった。

 立ち入り禁止を示す黄色いテープの向こうで、かろうじて生き残った電灯が、闇の中の無残に破壊された車や、壁、地面を照らしている。

 あまりの惨状に、由希は膝から崩れ落ちた。

 これを、自分がやったというのか?

 いまだに信じられない。ここまでの現実を目の当たりにしても、いや、むしろ改めて見たからこそわからなくなっていった。

 呆然としながら、由希は頭の片隅でこれが人通りの多くない場所で良かったと思った。もっと被害が大きくなったことであろうし、何よりこの光景を前に呆然と膝をついているのはどう考えても不審極まりないからだ。

 そうして由希が僅かに安堵していると、

「こんなところで何してるのかな、ヒーローのお兄さん」

 由希が驚いて振り向くとそこには少女が一人、立っていた。

「聞いてる?ヒーローのお兄さん」

 少女の言葉はあまりにも理解不能だった。

「えっと、ヒーローってなんのこと?多分人違いをしてるんじゃないかな」

「ええ、嘘!」

 由希の返答に、少女は大げさに驚いて、そのまま由希に近づいてきた。

「ちょ、ちょっと」

「うぅ~ん?」

 少女はまるで博物館の展示品を見るかのように由希の顔を検分して、

「うん、やっぱりヒーローのお兄さんだ。嘘はいけないよ、嘘は」

 少女は確信を持って言ってるようだったが、由希はますます混乱する。

「だから、違うって」

「ああ、もしかして、お兄さんがあたしのことを忘れちゃってるのかな?」

「え、ええ?」

「ひっどーい!こんな美少女の顔を忘れるなんて!」

 そういうと、女の子は徐に、由希に顔を近づけてきた。

「だから、何なんだって.......」

「思い出した?」

 由希はその少女の顔を間近に見た。

 髪は肩くらいまでのツインテール。

 大きな目に夜の闇の中でも分かるくらい長い睫、すっきりとした可愛らしい鼻。柔らかそうな唇の間からは、小悪魔を思わせる八重歯がきらりと覗いていた。

 なるほど、自分で言うだけあってかなりの美少女だった。年は、由希と同じくらいに見える。

 しかし、やはり見覚えはない。

「えっと、小学校の同級生か......その辺?」

「その辺ってどの辺さ?」

「えー......っと」

「もう、なんでわかんないの!」

 少女が悔しそうな感じで、両手を組んだ。

 すると、細身の割に豊かな双丘が持ち上げられ、彼女の胸元から谷間が覗いた。

 由希はいけないと思いつつも視線がそこに吸い寄せられるのを止められなかった。

 彼女はなんというか、肌色面積の多い服を着ていた。胸元と肩が開いたトップスと、短いスカート。

「あ……」

 ようやく少女の姿が由希の記憶に結びついた。

「もしかして、この前男子生徒に絡まれてた……」

「おお、正解!」

 両手を叩いて、大げさなくらい少女は喜んだ。

「良かったー、本当にお兄さんの記憶から消されちゃったのかと思ったよ」

「まあ、なんとか」

「でも……変なタイミングで気づいたね?」

「いや、それは別に……たまたまだよ」

「ふーん、そっか」

「う、うん」

 由希は話を逸らすようにして尋ねた。

「それで……そういう君こそ何しに来たのさ」

「うーん、それはね」

 少女は人差し指を口にあてながら、考えるようなジェスチャーをして、

「お兄さんに会いに来たんだよ」

「え?」

 またぞろ、由希は面食らった。

 その様子をみて、少女が楽しそうにくすくすと笑った。

「あたしさ、お兄さんのこと好きになっちゃったの」

「は、はあ?いきなり何を言ってるんだよ」

「だってお兄さんも……使えるんでしょ?」

「使えるって……何を?」

 由希は相変わらず少女の言っている意味が分からなかったが、少女は尚も楽しそうに続けた。

「いやあ、本当にびっくりしたんだよ……あんな人目のある時間帯に、あんな派手にやっちゃうんだから。あたしだったら、ああはしないかな」

「何を、言って......」

「うふふ」

いつの間にか、少女の笑みは危険な色を帯びていて、由希は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

 不意に、視界の端に違和感を覚えた。

 生き残った街灯に照らされている残骸たち。

 それらの影が動いている。まるで集団で活動する虫たちのように蠢き、やがて一つ一つが地面から浮かび上がった。

「な……!?」

 由希はそれらの物体が、自分に敵意を向けているのを感じた。

「さ、楽しも。お兄さん♪」

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