ティーハ
「マルク・・・こっち来て・・・」
ティーハはマルクを手招きしていた。
何だろうとマルクは戦々恐々としながらティーハについていく。
無口で無表情なティーハからは、今から何をしようとしているのかは語られはしないが、ティーハの猫の耳としっぽがゆらゆらぴくぴくしているのを見ると楽しそうだということが分かる。
(混血種は正直怖いけれど、ヴァキタス様も言ってた通り先入観で物事を見ちゃいけないよね)
「ティーハ、一体何をするの?」
勇気を出してマルクが質問すると、ティーハは立ち止まりマルクを振り返った。
「マルクは・・・旅団の一員になった」
「うん」
「・・・でも・・・マルクは・・・何もできない。役立たず」
「うっ」
確かにマルクの黄色い羽毛で包まれた丸い体は動きが緩慢で、歩くよりも転がった方が早いほどである。
マルク本人は別に転がりたくて転がっている訳ではないのだが。
飛べない鳥人マルクはティーハによって役立たずの烙印を再度押された。
「だから・・・芸を覚えれば・・・旅団の一員として、役には立つかな・・・っと」
「ティーハ~」
ごそごそと何かの準備を始めるティーハを涙目で見つめるマルク。
(やっぱりヴァキタス様の言った通り優しい世界はあるんだ)
感動に打ち震えるマルクの前にティーハは鉄でできたワッカを用意する。
そして、ワッカに火をつけた。
「跳べ」
「む、無理だよ~」
そのワッカは明らかにマルクの体の大きさよりも小さく、まして跳躍力の無いマルクには飛べるはずも無かった。
「大丈夫・・・マルクなら。跳べる・・・信じてる」
「そ、そうかな~?」
火の輪を見つめるマルク。
隣で信じて見ている人がいるだけで、マルクは何だか跳べそうな気がした。
だが、いざ跳ぼうとなると躊躇し、その場で右往左往している。
ティーハはそんなマルクを見て一言、
「失敗しても丸焼きになるだけ・・・鳥の丸焼き・・・おいしそう・・・」
「うわ~ん」
泣きながら逃げ出すマルクの後ろ姿を見送り、ティーハは小さく舌打ちした。
(やっぱり混血種は怖いよ。ヴァキタス様~)
マルクはよろよろ走りながらそんな事を思う。