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【リレー小説】ヤバいものを飲み込んだかわいい生き物が瞬間移動能力に目覚めて異世界を超えて逃げ回る【アンソロジー】  作者: しいなここみ、柴野いずみ、雨澤 穀稼、アホリアSS、腰抜け16丁拳銃/クロモリ440、城河 ゆう、歌池 聡、キハ、弓良 十矢 No War、島猫。、ひだまりのねこ
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第陸話(作者:城河 ゆう)


「もうちょっと……あとちょっ――よし、採れたっ! あ――」


 果実のなった木の上で、幹にしがみつきながら、必死に枝先へと手をのばしていた私は、果実を掴んだ瞬間、思わずガッツポーズをしてしまった。


 ――両手で。


 体を支えていた手を放してしまい、バランスを崩した体は、当然重力に引かれて落下を始めるわけで……


「わわわ、ぷ、〖プロテクシむぎゅう」

「びゃぅんっ!」


 ほとんど反射的に腕を伸ばし、防護魔法(プロテクション)で身を守ろうとした瞬間。

 突然目の前に顕れた、白くて柔らかい“ナニか”が顔にぶつかって、魔法がキャンセルされてしまった。


「いたた……いったい何が………………いぬ?」


 たぶんぶつかった衝撃で弾き飛ばされたのだろう。

 少し離れた場所に、白いもふもふの――犬っぽい動物が横たわっていた。


 真っ白な毛並みに、少し長めの耳……この辺ではあまり見た事ない種類だけど――


「――スカーフ巻いてるって事は、誰かの飼い犬かな?」

「ひゅぅぅん……――っ!?」


 木の根元に座り込みながら、様子を観察していると、目を回していた犬(?)が、ヨロヨロと立ち上がって、周囲を見渡した後、私を見つけてジッと見つめてくる。


 ――手元の果実を。


「……えっと」

「ひゅん……」


 切なそうな声で鳴きながら――果実をジッと見つめている。


「……あげようか?」

「――!? ヒュン!ヒュゥン!」


 私が言うと、トトトっと2本足で駆け寄ってきて、両手?で果実を受け取り、美味しそうにかじりついた。


 うん、お腹空いてたみたいだ。


 2本足で歩く犬なんて聞いた事ないから、別の生き物かな?

 魔物って感じではないんだけど……


「私、ミリーって言うんだけど、あなたの名前は? どこから来――」


 なんとなく、こっちの言葉を理解してそうな感じがして、話しかけた次の瞬間。


 急に複数の気配が周囲に現れて、思わず臨戦態勢を取る。


「――今度は森の中、ですか。 世界樹の実の気配を追える以上、見失う事は無いでしょうが、流石に面倒になってきました。 そろそろ、戻ってきて貰えませんか……ヒュンタ?」


 木々の向こうから姿を見せたのは、軽騎士風の格好をした男達だった。


「へぇ……あなた、ヒュンタって言うんだ」

「ひゅぅぅぅん……」


 横目で“ヒュンタ”に声をかけるが、男達に怯えるように、私の後ろに隠れてしまう。


「そこのあなた。 ヒュンタ――その、足元にいる動物をこちらに渡して貰えませんか? その子の主人の元に返したいので」

「飼い主の使いの人達ってわけ?」

「そう言う事です」


 超笑顔で「もちろんですよ」等とのたまうが、こうして話してる間にも、少しずつ周囲を囲まれ始めている。


 この子の怯えようを見ても、単純に逃げ出したペットを捕まえに……って感じじゃないんだよねぇ。


 ――さて、どうしようか。


「この子は……あんまりあなた達と行きたくなさそうだけど?」

「そう言われましても、私達も『連れ戻せ』と命令されて来てますので、渡していただかなくては――困りますねぇ」


 そう言いながら、腰の剣や杖を抜く男達。


 そのままジリジリと、距離を詰めてくる。


「ねぇヒュンタって言った? もし言葉がわかるなら、まだ包囲されてないあっちに逃げな」

「ヒュゥン!?」


 小声で声をかけると、ビックリしたようにこちらを見てくるヒュンタ。

 やっぱり、ある程度言葉を理解してるのかな?


「んじゃ、しっかり逃げなよ? ――そうら!」

「――なっ!?」


 羽織ったコートの内側から、閃光弾を取り出し、放り投げると同時、腰の両側に提げたホルスターから相棒を抜き、瞬時に引き金を引いて撃ち抜く。


 そして、強烈な光が周囲を照らす一瞬の間に、弾倉を非殺傷のゴム弾に替え、今度は怯んだ男達の頭部を撃ち抜いていった。


 途中何発か、反撃の氷弾等が飛んできたが、〖プロテクション〗で弾きつつ、時に直接撃ち抜きながら、周囲に弾をばら蒔くことしばし――


「さて、これで後はあんただけだね」


 ――立っているのは、私と、最初に話しかけてきた奴だけになった。


「――ぐぅぅ……って!団長まで伸びてるじゃないですか! 油断しすぎでしょう!?」

「非殺傷弾とは言え、暫くは寝てると思うよ?」


 顔をひきつらせながら声を荒らげる男。


 ん? ってか今、団長って言った?


「アンタがリーダーじゃなかったの?」

「……私は副団長です。 団長は、その、強面過ぎてヒュンタに嫌われてるので」


 副団長と名乗った男のどことなく煤けた雰囲気に、なんとも言えない空気が流れる。


「……あ、そうなんだ……苦労してそう、だね。 ――んで? アンタはまだやるの?」

「いえ、油断があったとは言え、この人数差を物ともしない相手となれば、これ以上は無益でしょう。 ……肝心のヒュンタも逃がしてしま……った……し?」


 まぁ、一応、これでもA級の冒険者だし?

 ――と、得意になったが、すぐに違和感を覚えた。


 副団長の視線が、私ではない所――具体的には、私の少し後方の足元に注がれていたからだ。


 不思議に思って、チラッと後ろを伺った私――絶句。


「ひゅぅぅぅぅん……」


 そこには、逃げたと思っていたヒュンタが、目を回しながらフラフラしていた。


「あんたなんで逃げてな――って、まさかさっきの閃光弾かぁ!」


 あまりにもあんまりな展開に、ついついヒュンタの方に向き直りツッコミを入れてしまう。


「――ひゅっ!? ヒュンっ!」

「――あっ、ちょっ……って、消えたぁ!?」


 私の大声に驚いたのか、ビクッと飛び上がったヒュンタは、直後、短い鳴き声をあげて目の前から消え去った。


 いや、あいつ、結局なんだったの? ただの犬でないことは確かだけど。


「……はぁ、結局、また逃げられましたか」

「え? あ――」


 いつの間にか背後に来ていたらしい、副団長が私の肩をポンっと叩く。

 それと同時に、強烈な眠気のようなものに襲われて、身体に力が入らなくなった。


『高い戦闘力に、変わった武器。 見目も麗しいですし、連れていきましょうか』


 頭の中に霧がかかっていくように、徐々に意識が遠くなる中、副団長の声が聴こえたような気がした……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] もはや人さらい集団(笑) 面妖な技を使うのですね。
[良い点] セダに続いてまた女の人が連れて行かれたー! 魔法騎士団が悪人にしか見えなくなって来ました(笑)
[良い点] 連れて行くんですねΣ(゜Д゜) 第二話のセダさんといい、王に献上されるのでしょうか? そんなことをしてもいいのかー!?魔法騎士団! 団長のびてるし(笑) とにかくヒュンタが可愛かったです…
2022/10/24 08:29 しいな ここみ(ログアウト中)
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