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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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そうだ、喜代水に行こう

小野家の三人のおかしな提案を戸惑いながらも承諾したお父さまは、牧田に動物図鑑を書斎から持ってきてもらって、どの猫にするかと遅くまで悩んでおられた。私のにゃんころは、明楽君も明楽君のお母様も知っているので、使えないからだ。その辺の三毛猫とかでいいんじゃないのと言うと「ダメだよ、ふーちゃん、あの子たちは、ほとんどが雌猫だから、雄の三毛猫は目立っちゃうでしょ。隠密行動には向かないよ」と真顔で答えられた。あの三人の頓珍漢なお願いは、お父さまの脳内で、いつのまにか立派な隠密行動に変換されていた。どう考えても、七歳児をつけ狙うストーカーの行動なのに、お父さまは人が良すぎて心配になっちゃうよ。


お祖父さまと父様と三侯爵は、小野家や陰陽寮の二人と帰化申請希望者のスクリーニングの方法について討論を始め、あげくに、曙光帝国の学習指導要綱を元に戻すべきだと言う話にまで発展していたので、私と真護は、さっさと退出させてもらった。何でも、お祖父さまの世代では、歴史の時間に厄災や世界の物の怪について学んだそうだ。ところが、父様の世代の少し前に、指導要綱が変わり、厄災や物の怪の章がなくなったので、父様の世代は、お祖父さまより「そっち系」の知識を持っていない。いわんや、私の世代をやってところだ。高博士のような人の帰化申請を認めてしまったことや、その扶養家族が妖蛾を連れてきたことは事実で、帝国の平和を乱す話なので、確かに水際対策も学習指導要綱も大幅な改善が必要だ。


そういう面倒くさい・・・じゃなくて、難しいお話は、大人たちに任せて、私と真護は、もう夕食の時間だよ。明日、学校が終わったら、喜代水に行って、稲荷屋に行くから、英気を養わないとね。


結局、大人たちが就寝したのは何時だったのか、朝、食堂に行くと私だけだった。牧田にお父さま達が何時に解散したのか訊くと「午前3時過ぎでございます」と言われた。絶対に、またあの怪しい蔵から、大量にお酒を出して来て、酒盛りをしていたに違いない。


「牧田、あんなフリーダム一族に付き合う必要ないよ。そういう時は、さっさと寝ちゃえばいいから」


牧田は、いつも背中をびしっと正しているから、分かりにくいけど、お祖父さまより年上だ。そんな人を遅くまで働かせるか、ブラック嘉承家。


「ありがとうございます。皆様がお出かけの間に休ませてもらっていますから、大丈夫ですよ」

「牧田、今度ね、陰陽寮のお仕事を請け負うことになったから、それで儲かったら、料理長と美食ツアーに行こうね。慰安旅行だよ」


私がそう言うと、牧田がにっこりと、本当に嬉しそうな顔をしてくれた。えへへ。


「若様、ありがとうございます。楽しみにしておりますね」


そうだよ。私の代になったら、牧田や料理長だけでなく、家人全員を定期的に慰安旅行に連れていってあげなくちゃ。脱ブラック嘉承家だ。



その日の学園は、前日の騒ぎが幻かと思うほどに平和だった。四条先生はまだクラスに戻ってこないが、優花先生のおかげで、私たちの授業にも学園生活にも何の支障もなかった。むしろ男子生徒の学習意欲が高まっていたかな。四条先生、ドンマイ!


「ふーちゃん、四条先生、どっかで埋まってるのかな」


真護が口にしてはいけないことを口にした。東久迩先生が何処かで聞いているかもしれないから、滅多なことは言うなよ。土の魔力持ちには、【潜伏】の使い手がいる。土御門さんが、北条家に潜り込んで逃げたときに使ったと思われる魔法だ。


「腐っても四条だから大丈夫だって、お祖父さまが仰ってたから、もう忘れよう」


今の私と真護の魔力レベルでは、東久迩先生を敵には回せない。四条先生、ごめんなさい。文福叔父様にお願いして、喜代水で供養して頂きますから、きれいさっぱり、ささっと成仏してください。


「私は、もう行くよ。真護は先に帰ってて」


真護にそう言うと、「ふーちゃん、僕の分も【風壁】張ってよ」とゴネられた。そうしてあげたいのは山々だけど、私も長時間の【風壁】となると苦戦する。それを二人分というのは、正直きつい。


「真護、今度、実物大のハンザキの人形を作ってあげるから。何なら、うちの慰安旅行にも連れて行くし」


この大盤振る舞い、どうよ。


「ほんとに?それなら、家で大人しく留守番してるよ」


チョロ過ぎだよ、真護。私にずっとついて行くという宣言はどうした。でも、まぁ、家でいてくれる方が、安全だしね。私と真護の話がついたところに、塩見君と笹倉君が、ものすごい勢いで教室に入って来た。


「ふーちゃん、凄いよ。校門のところに陰陽頭と一位の陰陽師が立ってる。ふーちゃんを待っているんだって!」


二人が言い終わらないうちに、校舎の外で、女子の黄色い悲鳴も聞こえた。しまった。今朝は、二人とも朝食の時間に食堂に現れなかったから、待ち合わせ場所と時間を相談するのを忘れていたよ。


「ふーちゃん、まずいよ。騒ぎを起こすと鬼が出る」


ほんと、それだよ、真護。東久迩先生に見つかる前に、さっさと逃げよう。真護にも【風天】を付与して、全力で校門に向かった。


校門では、西都公達学園の生徒たちに囲まれた賀茂さんと土御門さんが、握手やサインをねだられていた。突然現れた私たちに気づいた土御門さんが、「ふーちゃん、肩で息しているみたいだけど、平気?」と心配してくれた。心配するなら、一緒に逃げてください、今すぐに!

がしっと二人の手を握ると【風天】で逃げた。これが本当の韋駄天だよ。真護、あとは任せた。将来の嘉承の最側近として、皆を宥めて騒ぎを納めておいてくれ。


「うわぁ、何これ、おもしろい。西都の風の魔力持ちって、ほんとデタラメな魔力の使い方をするよね。葉月や五十嵐に見せてやりたいなぁ」

「ふーちゃん、これは【風天】の応用かい?」


土御門さんは、面白がって、賀茂さんは分析をしていた。性格が出てるよね。喜代水の近くまで来たので、【風天】を解いた。さすがに、鬼も喜代水では出ないよね。


「そうです。これがあると歩かなくていいので楽なんです」

「ふーちゃん、普通の魔力持ちは、歩いた方が楽だって言うよ」

「すみません。私、体力より魔力があるんで」


そう言うと、賀茂さんと土御門さんが「でしょうねぇ」と目で語っていた。どうせ、私は見るからに運動音痴の子豚ですよ。


三人で二分ほど歩くと、喜代水の門前通りについた。文福叔父様が話してくれた明楽君のお母様の元同僚の明日香さんという人が、毎日掃き掃除をしているという門前だ。確か、明楽君のお母様に文句を言った人達が、原因不明の病気になったり事故にあったって言ってたっけ。その話を賀茂さんと土御門さんに話すと、二人の顔が真剣なものに変わった。


「まずいなぁ。妖蛾、かなり育っちゃってますよ、義之さん」

「そうだな。事故や病気を招くなんて聞いたこともないがな。むしろ、僧侶の方がこういう話は詳しいかもな。ふーちゃん、貫主の叔父様に紹介してくれるかい?」


賀茂さんが固い表情で言った。もちろん、稲荷屋に一緒に行って、浄化のお手伝いをしてくれる僧侶を二、三人ほど派遣してもらうのが目的だけど、陰陽寮の二人のことを叔父様に紹介するつもりでもいるよ。


「もちろんです。おじさまは、西都では勇者で、私が大好きな叔父なんです」

「へえ、そうなんだ。西都には大公爵が二人もいらっしゃるのに何で勇者なの?」

「頼子叔母様と結婚されたからですよ」


私がそう答えると、土御門さんと賀茂さんは顔をひきつらせた。


「そ、そうだね。それは、本当に勇気がいるよね」

「殉教者って言うのかも。宗教家だけに」


頼子叔母様、陰陽寮にまで怖がられているよ。何をしたんだ。三人で話していると、喜代水の長い坂道も終わって、ようやく境内についた。私は、もちろん【風天】でズルしてるよ。


「ごめんくださーい」


最近、この挨拶ばっかりだよ。今日は、ちゃんと人間の姿だけど。


「あれー、嘉承の若様だー。いらっしゃいませー。貫主様に会いに来られたんですかー」


お寺の小僧さん達が、わらわらと出てきた。喜代水は、古い大きな寺院で帝国一の修行僧の数を誇る。常時、数百人の僧がいて、そのうちの五百人が僧兵とも呼ばれる五百羅漢だ。


「そうなんです。叔父様に取次いで頂けませんか」

「はーい、少々、お待ちくださいねー」


そう言いながら、また小僧さん達がわらわらと堂内に消えていった。


「あの子たちも妖だね。さすが喜代水。完全に調伏している」


何か今、賀茂さんが怖いことを言った。急いで聞かなかったことにしないと。あの小僧さんたちは、昔から、私がお菓子を持って遊びに来るたびに、ふかふかの座布団やお茶を出してくれたり、一緒に遊んでくれたりと甲斐甲斐しく面倒をみてくれる優しい人たちだからね。そう言えば、あの人たち、全然年を取っていないとか、何年も髪型が1ミリも変化していないとか考えちゃダメなんだよ。うちの牧田と同じで、変な疑問は抱かずに丸っと受け入れないと。


「ふーちゃん、いらっしゃい」


色々と考えて悶々としていると、文福叔父様がいつものニコニコ笑顔で現れた。妖じゃなくて、優しい小僧さん達も後ろに控えている。


「叔父様、ごきげんよう。今日は、うちのお客様とお願いがあって来ました」

「そうなんだ、まぁ上がってよ。ふーちゃんとお客さんたちにお茶の用意ね」


叔父様が小僧さん達に頼むと「はーい」と言いながら、またわらわらと消えた。・・・消えたよ、消えたよ。やっぱり優しい小僧さん達、人間じゃなかったの?


私が硬直していると、その横で、陰陽寮の二人も、叔父様を凝視して固まっていた。狸の妖とでも思っているのかな。祓わないでよ、私の大好きな叔父様なんだから。


「陰陽寮の方とお見受けしますが」


文福叔父様が二人に声をかけたので、慌てて紹介をした。


「叔父様、陰陽頭の賀茂さんだよ。土御門さんは、もう面識あるよね。今、二人とも瑞祥のお家で泊まっていらして、今日は、私の付き添いで来て下さったんだよ」

「そうなんだ。甥がお世話になっています。貫主かんすの茶釜です」


叔父様がぺこりと頭を下げると、賀茂さんと土御門さんもフリーズが解けて、慌ててお辞儀をした。


「陰陽頭の任を預かっている賀茂義之です。こちらこそ、ふーちゃんには、大変お世話になっておりまして」

「ごきげんよう。貫主殿。ふーちゃんは、命の恩人なんで、失礼なことはしませんよ」


何それ?私がきょとんとしていると、土御門さんが頭を撫でてくれた。


「ほら、大魔王に強制召喚されたちゃったでしょ。配下の地獄の四侯爵は大魔王の後ろで殺る気満々だしさ。怖い鬼もいたし。ふーちゃんがいなかったら、僕は死んでたと思うな。嘉承家、曙光玉を1600個も隠し持っているんだから」

「晴明、今、何と言った?国宝の曙光玉が何個だって?」


賀茂さんが狼狽えた。そうだよね。陛下が20個しかお持ちでないものを、何で嘉承は1600個も持っているんだって話だよね。


「ふーちゃん、今ちょっとショックが大きすぎて、言葉が出ないから、後で相談させて」

「はい、何かすみません」


私達の謎の会話を叔父様は、面白そうに聞いている。


「ああ、土御門君、嘉承公爵の召喚ね、あれ、ご招待だと【風壁】で守ってくれるから無傷だけど、強制だとボロボロになりますから、死ぬかと思いますよね」

「叔父様、詳しいね」

「そりゃあ、どっちも何回か経験しているからねぇ」


どっちも経験済なんだ。それも何回も。やっぱり、叔父様は勇者だったよ。土御門さんも同じことを思ったのか「あれを何回も?普通は死ぬよ」とかブツブツ言っている。


喜代水の長い回廊を抜けると、見事な庭園に面した大きな座敷につく。ここは、叔父様がお客様を迎えるところだ。


「まぁ、とにかく座って、お茶でも飲んで下さい。それから、ふーちゃんのお願いを聞かせてもらうよ」


叔父様がそう言った途端に、小僧さんたちが、お茶を持ってきてくれた。ほんとに妖なのかなぁ。じーっと見ていると、小僧さん達が気がついて、にまっと笑って、みたらし団子を私の前だけに、そっと置いてくれた。そうだよ、この優しい小僧さん達は、昔からお菓子はくれるし、全力で遊んでくれるし、面倒見のいい存在だ。妖でも人でもどうでもいいよね。別にお菓子をくれたからじゃないよ。それに、消えるくらいなら、人間だって消えるもんね。小野の二の君とか、南条侯爵家の織比古おじさまとか。

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