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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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そういう人多いよね

時間軸が戻りました。

「土御門さん、二年前に何があったのかは分かったけど、明楽君が播磨さんと施火さんを襲った犯人だったっていう説明になってないよ。葉月さんも五十嵐さんも風の魔力持ちを探知できなかったんでしょ」

「ふーちゃん、【風壁】だよ。あの子の潜在能力は葉月より高くて、魔力も桁違いに大きい。僕は彼の魔力を測定した陰陽師だよ。それに、小野は風持ちの中でも、【風壁】を最も得意としている一族だよね」


確かに、土御門さんの言う通り、上位の魔力持ちが【風壁】で身を隠すと下位の魔力持ちの【遠見】では探知できない。ただ、いくら潜在能力が高いとはいえ、【風切り】で上位の陰陽師二人を攻撃した後で、これまた上位の陰陽師から身を隠せるほどの【風壁】を、当時五つの子供が使えるとは思えない。確実に魔力切れを起こして気絶するか、制御を習得していないはずだから、下手をすれば絶命の可能性だってある。


はる、落ち着いて考えろ。いくら魔力量が大きくて優秀でも、当時の明楽は五つだぞ。お前も明楽本人に会っているなら分かるだろ。不比人と違って、明楽は同じ年齢の子供に比べてかなり小柄だ。魔力の制御を習うどころか、魔力を隠して生きてきた子供が、ある時、上位の陰陽師を倒すほどの大きな魔力を続けて使ったのか。奇跡的に出来たとしても、普通は死ぬ・・・」

「それは分かっています」


お祖父さまが、土御門さんの見解に異を唱えようとされたのを、土御門さんが遮った。とんだ怖い者知らずだよ。魔王を遮るなんて、西都には、大馬鹿者か東条しかいないよ。


「それは、根拠のない自信か、それともお前が、あの後、数か月消えた理由から辿り着いた結論か?」


静かな低い声で土御門さんにそう訊くと、嘉承の父が組んでいた足を直して、椅子に深く凭れて、腕を胸のまで組んだ。まずい。これは嵐の前の静けさだ。父様は、ご機嫌が麗しくないらしい。この人、地味にファザコンなところがあるから、土御門さんのお祖父さまに対する態度が気に入らないのかな。


「土御門、お前、全部話す約束で、ふーが、瘴気の蛇に魔力を与えたよな」


私だったよ。私との約束を反故にする態度だから怒ってるんだ。これは、絶対に逆らったらダメなやつ。土御門さん、冥王に、本当に冥府の門まで送られちゃうから。反抗的な目つきや受け答えはダメだよ。心配で、思わず隣のお父さまの手を握る。お父さまは、にっこりして下さったので、安心して見ていればいいってことなのかな。とりあえず、私は、どこぞの侯爵家の嫡男と違い、空気を読む七歳児なので、黙って二人の会話を聞くけどね。決して、怖くて及び腰になっているわけじゃないよ。


「敵わないなぁ。西都の公爵は、西都から一人じゃ出られないくせに、何でも知っているんだから。閣下、ふーちゃんとの約束は必ず守りますよ。ただもう、限界に近くて」


土御門さんは、そう言うと、いきなり気絶した。何で?


「父様、何かした?」

「何で、俺なんだよ」


驚いて、思わず父様を問い詰めてしまった。本当に冥府の門に送り飛ばしたかと思ったよ。


「魔力切れだな」


お祖父さまが、土御門さんを抱き起しながら、牧田を呼んだ。


「でも、さっき、山ほどお菓子を食べたから回復したんじゃないの?」

「ふー、山ほどお菓子を食べて、けろっと回復するのは、お前だけだ。普通は、応急処置になる程度で、その後、何日か静養が要るんだよ」


父様から齎された衝撃の事実。私の魔力切れは、いつもお菓子で治るから、皆もそうだと信じていたよ。驚き過ぎて言葉も出ない私の頭を優しく撫でながら、お父さまが説明して下さった。


「土御門君が、少し言ったけど、魔力持ちには二種類あって、ほとんどは一旦、変換した魔力を自分の中の魔力に馴染ませて放出するタイプでね。でも、変換した瞬間に放出できるタイプも少数派だけど存在するんだよね。君のように思考が魔力になるって言う人達ね。このタイプは昔から回復力が素晴らしく高いと言われているね。魔力切れの後の回復の速さは、魔力器官の質というか頑丈さが一番の要因なんだけど、体内で循環させられる量や速さも人によって違うし、そもそものところで持っている魔力量が違うから千差万別だけどね」

「お祖父さまや、父様も魔力切れを起こすと、静養がいるの?」

「要るぞ。最近は、年のせいか、回復に時間がかかって翌日まで頭痛が続くな」

「俺は、あんまり起こした記憶がないが、切れた時は、一回寝ないとダメだな」


そうなんだ。お父さまの方を見ると、お父さまは、パタパタと片手を振って恥ずかしそうにされた。


「私は、切れる前に父様か兄様が、いつも魔力を下さるから、実は、この年になっても魔力切れになったことがないんだよね」


魔王と冥王の過保護ぶり!ていうか、属性が違うのに魔力ってあげられるものなんだ。知らなかったよ。


「ふーちゃん、違うよ。普通は一日じゃ治らないから。インフルエンザみたいに、熱が出て、すごく頭が痛くなって、三日くらい寝込むんだよ」


お祖父さまと父様の説明を聞いて納得しつつある私に、真護が慌てて説明をしてくれた。


「いや、真護の三日も早い方だ。本当の普通は、少なくとも一週間はかかる」


研究職の北条侯爵が言うんだから、間違いなく、「普通は」なんだろうな。私と真護と、側近の同世代の子供たちは、五歳から始まる魔力の訓練が遅れていて、制御はもちろん、魔力の基本知識が圧倒的に欠けている。厄災の事後処理に、親や18歳以上の兄弟姉妹を取られてしまい、本来、家や一族で行われるべき教育を受けていないからだ。真護は、かろうじて姉の絢子姫の知識を受け継いでいるが、絢子姫は二歳上なだけなので、彼女の知識も完全ではない。私は、従兄のお兄さま達から魔力の制御を教わっているが、お兄さま達も大学の休みの時は、帝都まで出向いて復興作業に従事されているので、同世代では、実は一番知識を持っていないと思う。


牧田が現れたところで、お父さまが大きめのゴーレム二体とストレッチャーを出して下さった。ちゃんと揃いの制服とヘルメットを被ったレスキュー隊員だった。毎回、お父さまのこだわりには妥協がない。あのストレッチャーも、絶対にいい固さに調整されているはずだよ。


「牧田、土の人だから、瑞祥の客間にご案内してくれるかな」


お父さまが牧田に指示をした。確かに魔力切れで頭が痛いときに、嘉承の、特に風チームが近くにいたら静養にならないよね。うん、瑞祥でゆっくりしてて。

レスキュー隊のゴーレムが土御門さんを食堂の外に運んだところで、牧田が綺麗な礼をしてドアを閉めた。ドアも閉められているし、何より本人に意識がないので気にする必要はないのに、何故か小声で気になることを訊いた。


「じゃあ、土御門さんも、一週間くらい寝込んじゃうの?」

「いや、あれは、何年かかるかなぁ」


何年?魔力切れの回復に何年もかかるの?


「土御門は魔力器官を損傷している。ちゃんと診ないと確定できないが、かなり酷い状態だと思うぞ。そうですよね、父様?」


嘉承の父がお祖父さまに訊ねた。


「そうだな。あの馬鹿が。俺にどうやって葛葉くずはに説明させる気だ」

「葛葉って?」

「土御門の母親だ。俺らの同級生。時影、親父に事情を話して帝都まで葛葉を迎えに行くように伝えてくれ」

「御意」


北条のおじさまが立ち上がって礼をすると、あっと言う間にいなくなってしまった。北条家にしてみれば、雅子姫が許されたとはいえ、信頼を取り戻すために何でもする気なんだろう。お祖父さまもそのつもりで、北条侯爵に頼んだはずだ。


「お祖父さま、土御門さんのお母様をお呼びするほど、良くないの?」

「あれは、魔力器官が焼け爛れているな」


お祖父さまの言葉に、ぞくっとする。焼け爛れているって尋常じゃないよね。焼き切れたら、先の陰陽頭のように、全身から血が吹き出て、もう二度と魔力が作れなくなっちゃうんだよね。焼け爛れているっていう場合はどうなるんだろう。


「厄災を調伏した時に、晴明が一人で抑えたらしいからな。賀茂義之が忠行の魔力を全部使って賀茂別雷命で調伏しただろう。ヤツが抑えていたのは、厄災と賀茂別雷命の魔力の両方だからな。よく変換器官が焼き切れなかったもんだ。義之が、厄災を調伏できるギリギリのところで、晴明の魔力変換器官を焼き切らないように制御していたんだろうな。新しい陰陽頭は、若いのに中々見どころがある」

「そうなんですよ、父様。よっちゃんは、優秀なのに、昔から、ものすごい努力家なんです」


お父さまが嬉しそうに頷かれた。へぇ。よっちゃん、凄い人だったんだ。


「でも、賀茂のよっちゃんってさ、菅原みっちーと同じ系列だよね」


東条のおじさまが謎の発言をすると、お父さまと真護以外の全員の失笑を誘った。ん?


「菅原みっちーって、帝国の頭脳って言われる宰相のことだよね?どっちも優秀なのに、努力家ってこと?」

「どっちも名家の出身で、間違いなく優秀だけど、彰人の近くに置くとやべえヤツって意味だな」


父様の説明に、お父さまが苦笑された。


「お父さまの周り、そういう感じの人、多いよね」

「それ、僕たちの担任の四条先生みたいな人ってこと?」


真護がそう言うと、今度は皆が大爆笑した。

土御門さんが倒れて運ばれて行ってから、重かった空気が、少し明るくなった。やっぱり真護は空気を変える天才だったよ。

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