どんだけあるんだよ
「曙光玉というのは、実は、国宝なんだよ。今は、陰陽寮が陛下から12個お借りしているけど、実際、使うことなんか、めったにないんだよね。基本的に、魔力判定の時には、魔水晶を使うし。僕が、陰陽寮から、曙光玉が持ち出されたのを見たのは、瑞祥の君と、二の君の着袴の儀に、当時の陰陽頭に随行した時だったな」
「あの玉、12個もあるの?」
「陰陽寮にはね。陛下のお手元には、20個くらいあるって聞いてるよ」
「うちの蔵には、もっとあるぞ」
ん?今、お祖父さまが、変なことを仰ったよね。曙光の国宝が、陛下のお手元にあるよりも、うちの蔵にあるって、どういうこと?
「長人様、今、何かすごいことを聞いたんだけど」
「曙光玉だろ、うちにあるぞ。何個か分けてやろうか?」
いやいやいや、お祖父さま、国宝でしょ。その辺のリンゴとかミカンをあげるレベルで話しちゃダメだよね?言われた土御門さんも、呆然としている。
「あれは、置いておくと地味に魔力を吸うから、管理が面倒なんだよな。土御門、いるんなら、好きなだけ持ってっていいぞ」
父様も気軽に同意する。え、本当に、そんな簡単にあげていいものなの?
「あの、お祖父さま、何でうちに曙光玉があるの?」
「やんごとなき方が、始祖の守り用に彼の朝臣に無理やり送り付けた・・・ああ、下賜されたからだな」
出たよ、いつもの不比等と、やんごとなき愉快なお父上様。
「ちなみに、うちにいくつあるの?」
「俺が、嘉承を継いだ時には、目録には、約100個って書いてあったけど、後で、蔵から30個入りの箱が50箱出てきた。あれ、ふーの代になる前に、牧田に数字を直してもらわないとな。1500個、箱に入ったやつと、袋入りが約100個。探したら、もっと出て来るかもな」
「そんなの1600個もあったら、一気に国宝の価値が下がっちゃうじゃん」
衝撃の事実に、私の心のツッコミが、思わず口をついて出てしまった。
「やんごとなき方は、始祖様には少々過保護だったみたいだね」
ふふっとお父さまが、ほんわりと微笑まれたが、少々で済ませていいレベルの話なのかな。国宝にもなるほどの価値と効力をもったものをお守りに1600個って、愛情が尋常じゃないくらい重すぎて、私が不比等ならドン引きしていたはずだ。そんな面倒くさそうなものは、私の代になったら、さっさと陰陽寮に全引き取りしてもらおう。あの蔵、やっぱりヤバかったよ。曙光玉以外にも、おかしなものが出てきたら陰陽寮に送りつけよう。
「ふーちゃん、君、今、ロクでもないこと考えてるよね?」
「イイエ、マッタク、ナンニモ」
「まぁ、いいけどね。それで、嘉承公爵が仰ったけど、あの玉は、魔力を吸うんだよ。ふーちゃんは、思考が魔力になるって言ってたよね。それは、僕たちの頭の中に、魔素を魔力に変換する器官があるからなんだけど、ほとんどの魔力持ちは、変換後の魔力を体内で循環させて、一旦自分自身の魔力に馴染ませるんだよ。それから、目や手とか使って放出する。だから、陰陽師は魔力持ちの体内に曙光玉を埋め込んで、体内に循環させている魔力を全て吸わせるんだ。変換するそばから吸われていくから、魔力変換器官が過剰な行使にオーバーヒートを起こして、最後には、耐えきれずに壊れる。魔力の大きさで差があるんだけど、初期魔法しか使えない人なら数分、上位魔法が使えるレベルの魔力持ちで、だいたい2日後には体内に循環させていた魔力も完全に消えるから、その頃に、曙光玉を取り出す。これが、陰陽師の魔力消しだよ」
「曙光玉を埋め込む?」
どうしよう、陰陽寮の暗部、裏の仕事に触れた気分だよ。考えるだけで鳥肌がたつ。
「うん、そう。魔力の大きさに合わせて埋め込む数も増えるね」
うわわああ。絶対、聞いちゃダメなやつだった。私なんて、無駄に魔力がある方だから、12個全部埋められちゃうじゃん。
「ただね、西都の侯爵レベルの魔力量を持つとか、ふーちゃんみたいに魔力を馴染ませずに放てるタイプの魔力持ちだと、曙光玉が吸える魔力量を超えて魔力変換できるから無理なんだよ。ていうことで、皆さんは陰陽寮ではお助けできないんで、同士討ちでよろしく!」
よっと片手を上げて、気軽な感じで土御門さんは言うけど、同士討ちって、同胞を殺れってことだよね。いやいやいや、それは無理だよ。絶対に無理。
「土御門、曙光玉1600個全部やるよ。全部埋めたら、陰陽師でも南条や東条の一人や二人、何とかなるだろ」
父様が、めちゃくちゃ物騒なことを言ったよ。この人、無駄に長い足を組んで、椅子の肘置きで頬杖をつきながら、こともなげに、さらっと言うから冗談を言ったように見えないんだよ。
「敦ちゃん、それひどいよ。さっきから、御前もそうだけど、私に当たりが強くない?」
織比古おじさまが、よよよとウソ泣きをしている横で、享護おじさまは真顔だった。
「敦ちゃん、1600個も体に埋まらないよ。多分、120個もあればいける」
「いけて、どうするんだ、お前は」
父様が、高速でつっこんだ。こういう時だけ、無駄に計算が速いな、東条は。
「ねぇ、続きの話していい?風は、もう黙っててよ。敦ちゃんも含むからね」
英喜おじさまが、うんざりしたように言うと、土御門さんが、小声で私に話しかけてきた。
「ここの一族、当代公爵が相手でも遠慮がないね。いつもこんな感じ?」
私が頷くと、土御門さんは、「へえ」と言いながら薄っすら笑った。
「はい、じゃあ、風が止んでる間に、さっさと報告を進めちゃうよ。」
おじさまが報告書を読み上げた。
速水家の断絶が裁判で決まった直後、速水侯爵は、領地に帰ることは許されず、陰陽寮で魔力を消された。これは当時の一位の陰陽師だった賀茂が執行した。土御門は、厄災の魔物を調伏して日が経っていなかったことと、原因となった凪子の同級生という理由で、魔力消し部隊からは外された。
「土御門君は、賀茂君の判断に納得がいかなくて揉めたんだよね」
「うん、そう。賀茂さんは優しいからね。僕のメンタルを心配してくれての判断だったって分かるけど、あの時は、陰陽頭が重傷で、上位は魔力が回復しなくて陰陽寮が崩壊しそうだったし、僕は僕で、凪子と鷹邑を失って頑なで、あいつらに関わることは、どんなことでも、最後まで僕が関わってやらないとって、そういう思いだけで、生きてたからさ」
「それで、君は、賀茂君の制止を無視して、皆を追いかけて速水まで行ったんでしょ。そこで、何を見たのか訊いてもいいのかな」
西条侯爵が静かに訊ねた。きつく組んだ手をテーブルに置いて聞いていた土御門さんは、大きくため息をついて、目を瞑った。
「僕が言わなくても、もう西条侯爵は全て調べ上げたんでしょ。でも、僕自身の言葉で言わせて欲しい。多分、貴方が辿り着いた答えも含めて説明したい」
そうして、土御門さんは、何故か私を見つめた。
「ふーちゃん、僕ね、誰にも言ったことがないんだけど、風の魔力持ちが大嫌いなんだ」
土御門さんの突然の告白に、東条侯爵は、真護を自分に引き寄せ、南条侯爵は、半分立ち上がりかけたところを、父様に目で抑えられた。
「風は、いつでも、どこでも、いつのまにか深く入り込んで、大事なものを僕から奪っていくんだよ。あの日ね、先に発った仲間を追いかけて速水に着くと、当時の三位の播磨と、五位の施火が、気を失って倒れていたんだ。あいつら、全身、切り刻まれて血だらけになっていた。【風切り】だと思う。速水は水だから、あの家に所縁のある者は誰も使えないよね。鷹邑は、とうに死んでいないのに、誰が陰陽師に向かって【風切り】を放ったんだろうね」
何の感情も映さない青灰色の目は、まだ私を捉えたままだ。
「僕は、あの子だと思うんだ」
次回から二年前の話になります。よろしくお願いします。




