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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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そっち系のお手伝いさん

「文福、嘉承の直系には【業火】があるから、聖水は要らんが、それでも喜代水の総意は有難く思う。受け取るかどうかは、不比人次第だが、父として、嘉承家当主として感謝する。ありがとな」

「茶釜君、私も不比人の叔父として、瑞祥家の当主として、喜代水の厚意に感謝するよ。本当にありがとう」


お父さまたちが、小野の峰守おじいさまの時と同じように、文福叔父様にそれぞれの公爵家の当主としてお礼を述べて下さったので、喜代水と叔父様の面目は立った。肝心の喜代水の総意の受け取りについては、私がきちんと考えて、後でお返事申し上げるということに落ち着いた。実際、私はまだまだ【業火】が使えそうにないので、()()()()を引き受けてくれる彼らの存在が有難いのは確かだ。


「叔父様、ありがとう。喜代水の皆さんにもお礼をお伝えしてください」


私が、ぺこりと頭を下げてお礼を申し上げると、叔父様は、いつものほんわりとした平和な雰囲気で、お数珠を持った手で頭をぽんぽんとして下さった。そして、ニコニコしながら辞去された。


「いやあ、濃い夫婦だね、ふーちゃんの叔母さんと叔父さん。あ、ふーちゃんて呼んでいいよね。それで、僕が言うことではないけど、喜代水の総意はもらっといた方がいいと思うな。あの連中、特に五百羅漢(らかん)は使えるから」


土御門さん、父様に無理やり召喚されてから二時間も経っていないというのに、打ち解けるのが早くないか。さっきも皆と声を合わせていたし。


「貴様が言うことでないと思うなら、口にするな。それから、ふーちゃんではなく、嘉承の君だ」


北条侯爵は、いまだに土御門さんに対して厳しい態度を崩さない。


「ふーちゃんでいいですよ。それより五百羅漢って何ですか?」


時影おじさま、ごめん。七歳児は、好奇心には勝てないんだよ。


「魔力持ちの僧兵の上位の500人だよ。450年ほど前に飛影山ひえいざん園略寺えんりゃくじが焼き討ちにあった話、知ってる?」


ごめんなさい。聞いたこともありません。私の顔に浮かんだ疑問符を読んで、土御門さんが、説明してくれた。この人、何やかんや言っても、実は付き合いのいい人かもしれない。


「当時の武族の中に、ちょっと過激なリーダーがいてね。当時の園略寺の僧兵は少数精鋭の魔力持ちの集まりだったんだけど、彼らの戦闘力を削ごうとして、何万もの兵で夜襲をかけて寺に火を放ったんだよ。その生存者を全て受け入れたのが喜代水だよ。それ以来、二度と同じ敗北を経験しないように、魔力、心身ともに鍛錬を積み上げた存在の上位500に君臨する屈強な魔力持ちが五百羅漢。いわば、魔力持ちの軍隊みたいなもんだね。で、その中でも更に強い連中が十八羅漢。彼らは、喜代水に伝わる錫杖に魔力を流して、杖を振り回して戦う武闘派なんだよ。その上の十六羅漢になると、もう馬鹿みたいに強くて、陰陽寮の陰陽師が総力戦に出ても、今の戦力では勝てるかどうか。そして、その最高位にいるのが、ふーちゃんのあの茶釜の文福叔父様ってわけ」


・・・昔から何とかは爪を隠すと言うけれど、叔父様は隠し過ぎだよ。なんだか気が遠くなりそうなところに、土御門さんが、また爆弾宣言をした。


「あ、それと最後のぽんぽんで、ふーちゃんに、何か加護がついたよ」


うわああああっ、もう加護はいいです。霊泉先生みたいに命を削ってもらうようなやつだと、ほんと無理だから。


「やったな、不比人。文福の加護というと【火伏】しかないだろ。これでサブ子の火に負けることはないぞ」

「兄様、頼子です」


お父さまたちが、いつものお約束のくだりを楽しんでおられる横で、北条侯爵が顔色を変えた。


「【火伏】の加護?」


まずい。まずいよ。私は、まだ火の両家の次代の忠誠をもらえていないから、他の火の魔力持ちの加護というのは、いらぬ誤解を招いてしまうかもしれない。小野一族の忠誠で南条家が焦っているように、叔父様と喜代水の申し出を、北条と西条がどう取るか考えていなかった。


「時影、そう深刻に取るな。不比人にしてみれば、お抱えの祓い屋がついたようなもんだ。北条家の地位を脅かすものではない」


嘉承の父、土御門さんのさっきの説明によると、喜代水は僧兵が何百人もいる武力集団みたいなんだけど、便利なお祓い屋さん扱いでいいの?百鬼夜行の超武闘派の公家の姫たちといい、西都、実はかなりヤバい人が多くないか。


「それより、凪子の件だ。西条と東条と南条が来たら、土御門、約束通り、説明しろよ」

「嘉承公爵、妹さんの去り際の男前のお言葉、聞いてました?何で、ギャラリーを増やすんですか!」

「悪いな、土御門。俺がサブ子に合意したことは、あいつが生まれてきてから一度もない」

「兄様、頼子です」


うん、土御門さん、ちゃんと馴染んでるね。見事にうちのお父様たちのお約束ループに嵌っているよ。父様が三侯爵家の当主を呼ぶのは、評定の嘉承一族だから、仕方がないんだよ。北条が聞いた話を他の三家が知らないというのはありえないから。特に今は、南条は小野の影に危機感を持っているし、北条は雅子姫のことで立場がまずいし、西条も、さっきの喜代水の話には良い顔はしないだろうし。そう考えると、東条は問題がなくて平和でいいなぁ。


三家の当主達の到着を待っている間に、また牧田が食堂に戻って来て、応接室の方に移動するかとお父さまたちに確認をしていたが、ソファだと数人は眠りこけるだろうから、食堂で話を続行するそうだ。眠りこけるって、それ、どう考えても私と真護じゃん。信用ないなぁ。


「父様、私と真護は午後の早い時間から寝るほど赤ちゃんじゃないよ。明楽君に関係した深刻な話なんだから」

「いや、お前たちじゃなくて、誠護おじさまと享護だ」


・・・やっぱり、東条も問題だったよ。


三侯爵家を待つ間に手持無沙汰だったのか、土御門さんが、土の魔力でミニチュアの十六羅漢を作ってくれた。それと対になるように陰陽寮の陰陽師も十六体。顔も衣装もそれぞれ違い、陰陽師の十六体には賀茂のよっちゃんや、土御門さん本人、芦屋さんもいる。無駄に凝りまくったミニチュアに陰陽寮第一位の実力に見合う洗練された魔力の錬成と制御の高さを見た気がした。


「ふーちゃん、これでチェスやろうよ~」


そう言いながら、チェスボードまで、しれっと作成したよ、この人。敵地(仮)で、ちょっとリラックスし過ぎじゃないの。北条の時影おじさまの顔がさっきから怖いんですけど。


「ああ、ちゃんと十六体ずつあるんだね。ふーちゃん、これ、土の魔法の上位制御の練習方法なんだよ。土御門君が相手なんて良いチャンスだよ。練習させて頂いたら?」


げげっ。これ、ミニチュア人形じゃなくて、土の魔力持ちの制御訓練をするチェスの駒だったのか。確かに、土の魔法の制御は、大物、例えば巨大ゴーレムなんかの方が、大雑把な動きしか出来ない分、大味な制御で操ることが出来る。それに比べて、お父さまが、小野家の庭に作り出したような小さいものは、作りが小さい分、集中しないといけないし、精密な制御が必要になってくる。それを遠隔で、こともなげに人の魔力に乗せて、三体も同時に操り、挙句にそこに私たちの意識まで入れることが出来るのは、曙光帝国でも、お父さまくらいだと思う。


「お父さま、私、チェスはやったことがないんだけど」


チェスどころか、将棋だって知らないよ。


「じゃあ、私が横で教えてあげるから、ふーちゃんは、その通りに駒を動かせば・・・」

「彰人、時影にやらせろ」


いきなり嘉承の父が、お父さまを遮った。


「不比人、時影と組んで土御門の相手をしろ。時影とお前が勝てば、北条の雅子には情けをかけてやる」

「負けたら?」


「その時は、雅子は北条家から完全に除籍だ。今後、一族との付き合いも許さない」

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