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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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きらきらと陰陽師

「土御門君、まずは、服を用意させるよ。それとお腹はすいていないかな」


お父さまが、衣食の提供を申し出たので、頼子叔母様と北条侯爵は納得がいかないという顔をしたが、ここでは、お父さまが家長なので、言葉を吞み込んだ。


「流石は西の大公爵。お優しいことで。それなら、ここにあるだけのお菓子をもらえると有難いな。北条侯爵家に忍び込んで逃げ出すのに、そこそこ魔力を使ったところで、嘉承公爵に追いかけられて必死に逃げたから、魔力がもう限界に近くて」


敵地(仮)にあって、叔母様と北条侯爵の二人の高位の魔力持ちから鬼のような視線を受けているというのに、土御門さん、なかなか豪胆な人だな。魔力が切れそうだという割には、相変わらず、気障に髪をかき上げながらキラキラしている。南条家の家風と気が合いそうな人だわ。


「ちい兄様、こんな男に情けは無用ですわよ」

「そうだ、彰ちゃん、下手に魔力を回復されたら、また逃げられる」

「万が一、魔力切れで儚くなられても、我が寺で引き取って、責任を持ってご供養しますから、心配は要りませんよ」


土御門さんは、わざと叔母様と北条侯爵を怒らせるような態度を取っているように見える。からかって相手の反応を見て面白がるような、そういう態度だ。食えない人だな。それより、いつもの朗らかな文福叔父様の笑顔が、どんどん黒くなっていくのはどうしてなんだろう。片手にお数珠を持って、にこにこしながら土御門さんににじり寄る姿は、叔母様と北条侯爵よりも、何故か不穏な感じがする。


そこに、絶妙のタイミングで、万能家令の牧田が大量のお菓子を載せたワゴンを押して食堂に入って来た。


「土御門君、とりあえず、ここに座って」


人数的に言うと、ここには土御門さんとは異なる火の魔力持ちが六人もいるので、絶対的に不利のはずが、あくまで余裕の態度をくずさない。気がついたら、後ろに数珠と錫杖(しゃくじょう)を持って立っていた文福叔父様には、ドン引きしていたみたいだけど。


何で錫杖?叔父様、陰陽寮の第一位の陰陽師を悪霊か何かと勘違いしてないかな。そもそも、それ、どっから出てきたの?喜代水寺の貫主が持つ錫杖って、魔力を流すと八尺を優に超えるという伝説の大錫杖だよね。土御門さん、祓われちゃうよ。


土御門さんが、背後のあくまで笑顔を崩さない叔父様に気を取られている間に、我関せずという態度の牧田は、いつも通りに卒なくお茶とお菓子をテーブルに並べて、お父さまの後ろに隠れている私に、こっそりと目配せして抹茶ババロアを置いてくれた。


これよ、これ!実はおかわりしたかったんだよね。


「牧田、こいつは、もう魔力は回復しているだろう。あの程度の魔力を使用したくらいで甘やかしすぎだ」


お祖父さまが、牧田を睨んだ。ちょっと待ってよ。嘉承の大姫の叔母様の烈火から食堂と家具を守るために、二重に壁を張らせたくせに、あの程度とか言う?アイスコーヒーまで作らせようとしたくせに。おかげで、さっきまで魔力が切れそうになってましたけど。


「魔力はそれほどお使いではありませんが、朝から、色々と気を使っておられるようですから」


睨まれたくらいでは、嘉承家に曾祖父の代からいる牧田は動じることはない。表情一つ変えずに、きれいな礼をして下がっていった。さすがは魔王三代に仕えた家令は手強い。西都で、お祖父さまに言い返せる唯一の強者(ツワモノ)のだ。


「何これ。めちゃくちゃ美味しいんだけど」


早速、抹茶ババロアを口にした土御門さんが嬉しそうに言った。この人も、大概、肝が据わっているな。


このババロアは、瑞祥の領地が吟味してお父さまに送った一級品を、料理長が職人技で作ってくれた代物だから、美味しくないはずがない。私も、お父さまの後ろから出てきて、こっそりとババロアに手を伸ばしていると、土御門さんの真剣な視線が私をとらえていた。


「不比人君、魔力を視せてもらっていい?」


えっ、やだよ。陰陽寮の魔力の測定も判定も終わってるじゃん。ババロアのお皿を持って、お父さまの後ろに隠れようとする私に、土御門さんが、すがるように言った。


「頼むよ、不比人君」


さっきまでの余裕綽々の態度がかき消えた土御門さんは、年齢よりも若く、頼りなげにも見えた。


「土御門、不比人の魔力を視て、次に何をするつもりだ。お前の暴走の後ろにある理由を聞かずに、願われただけで動くほど、俺の孫は甘くないぞ」


「じゃあ、無理やりでもご協力頂くまでだ」


そう言うと、土御門さんの周りを濃密な黄朽葉色のオーラが漂った。ああ、この人は本来は、周りが切なくなるくらいに優しい人なんだな。魔力を放出した時に視えるオーラは、魔力そのものの属性もさることながら、魔力持ちの気質も見せてしまう。だから、子供の頃の魔力測定以外で魔力を見せることを魔力持ちは極端に嫌がる。黄色や茶色は土の魔力の色だが、土御門さんの黄朽葉は晩秋の色。哀しい気、何かを諦めてしまったような、厭世の隠者に多い気だ。


冷気が周りを包むような感じがして、ぶるりと身震いが出た。瞬間、ちゃぽんと水面に石を投げ込んだ時のような音がしたかと思うと、土御門さんの魔力が霧散した。


「これは、瑞祥の加護?」

「この子には瑞祥の血も流れているから、私の加護の意味がなくてね。これは霊泉家の先代伯爵の命が懸かった加護だよ」


お父さまが淡々と仰ると、土御門さんが、諦めたように天を仰いだ。それから、ゆっくりと、居住まいを正して、立ち上がったかと思うと、静かに土下座をした。顔を上げると、青灰色の瞳が、私を真正面からとらえて、はっきりとしたバリトンの声が聞こえた。



「陰陽寮第一位、土御門晴明(はるあき)が、嘉承公爵家次代の不比人様に伏してお願い申し上げます」



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