表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
46/164

捕獲!

陰陽寮の陰陽師の、西都の侯爵家から瘴気を奪ったという犯罪めいた行為に、理解が追い付かない。

「時貞は、家の者は全員無事か」


お祖父さまが訊くと、時影おじさまが「はい」とだけ答えて、更に頭を深く下げた。

「時影、謝罪より、説明が先だ。何があった」

「雅子が土御門を手引きして屋敷に入れました。本当に申し訳ありません」


北条の雅子姫が手引きをしたということは、明らかなものの、本人が頑として口を割らないので、どういう経緯で土御門さんに協力したのか、瘴気の入った壺を奪って、どこに行って何をしようとしているのか、肝心のことが全く掴めていないらしい。


「あの程度の瘴気じゃ、大したことは出来んだろ」


お祖父さまの言葉に、とりあえず全員が安堵したものの、それでも相手は陰陽寮の第一位だ。


「土御門さんの魔力を供給すれば、増幅するとか」

「それは考えづらい。【業火】で一度焼かれているからな」


あの蛇のような瘴気は、お祖父さまの業火で、既に邪気が払われていて、今は原因となった魔力持ちの微かな記憶が残っているだけの代物になっているらしい。


「時影、雅子は今どうしてる?」

「今、父と時近ときちかに見張らせている」


時近は北条家の嫡男で、今は瑞祥の従兄たちと西都大学に通う大学生だ。


「そうか。場合によっては、除籍するからな」

「それは、もちろん覚悟させているし、私たちにも異存はない」


嘉承の父は、時影おじさまの幼馴染として、雅子姫の着袴の儀にも立ち会っているので、親代わりという立場でもある。今回の雅子姫の裏切りで、北条家はもちろん、嘉承の父の責任も問われることになるだろう。


「瘴気自体が災いにならないのであれば、私は雅子姫に会いに行くことにします。今は、一人にしておくと何をするか心配ですから」


頼子叔母様は、姉御肌で、自分を慕う年下には本当に優しい面倒見の良い人だ。


「ありがとう。あの子は、同じ火の姫として、頼ちゃんに憧れているから、頼ちゃんになら何か話すかもしれない」


北条家は、いつも沈着冷静で感情を出さないので分かりにくいが、時影おじさまから、激しい怒りを感じる。娘の裏切りに対する怒り、土御門さんを食い止められなかった北条家に対する怒り。そして、一番大きいのは、嘉承の父に責任が及ぶ状況を作り出してしまった自分への怒り。


「時影、全部、後にしてくれ。今は、土御門の捜索の方が先だ。【遠見】で探すから、彰人、結界を頼む」


お父さまが、嘉承の父の魔力に巻き込まれないように、私達の周りを強固な結界で包んでくれた。その瞬間、嘉承の父が普段は抑えている魔力を放出した。強大で濃密な魔力に目の前の空気が陽炎のように揺らめいている。瑞祥の結界の中にいなかったら、確実に魔力酔いする強さだ。父の魔力が、凄まじい勢いで広がり、西都を覆いつくそうとしているのが分かる。絶対強者の魔力を前に、体が、ぞくぞくして髪が逆立ち、鳥肌が立つ。程なくして。風が通る全ての場所が支配下に置かれたのが、結界の中からでも感じ取れた。


これが嘉承の本領。


魔力の塊になった父の周りが薄い緑青のオーラで覆われている。生まれて初めて目の当たりにする、父の獰猛なまでの強大な魔力に圧倒はされても、不思議と恐怖心はなく、形容しがたい懐かしさと興奮が胸に湧き上がってくる。


「見つけた」


父の言葉に、私も【遠見】を飛ばす。


「逃がすか、陰陽師」


私の脳裏に、男性が体を九の字折って倒れていくイメージが映ったかと思うと、凄まじい竜巻に取り込まれて、一瞬で見失ってしまった。


「敦人、お前、もう人間辞めてるだろ」


お祖父さまの呆れたような言葉に、意識を食堂に戻すと、父の足元に、あちこちに切り傷があり衣服もボロボロになっている男性が転がっていた。北条侯爵が、はっとして、男性が抱えていた壺を取り上げた。


「この人が土御門さん?」

「そうだ。陰陽寮の第一位も、魔王には勝てんわな」


いやいや、お祖父さま、私の中では、あなたこそが魔王なんですけど。私がいつものツッコミを心の中で入れていると、嘉承の父の視線を感じた。まずい、また心を読まれて怒られちゃうよ。


「不比人、お前、泣いていたのか」


父の言葉に自分の顔を触ると濡れていた。


「ふーちゃん、どうしたの?怖かった?」


瑞祥のお父さまが肩を抱いてくれたが、全くの逆だ。


「父様の魔力が綺麗で感動していたら涙が出た・・・」


そう言うと、お祖父さまと父が、嬉しそうに私の頭を二人がかりで、めちゃくちゃ雑に撫でてくれた。だから、頭がもげるから、ほんと、それは止めてってば。


「親子三代の感動的な場面に水を差して恐縮ですけど、コレどうします?」


仁王立ちになった頼子叔母様が、本当の鬼も裸足で逃げ出すほどの形相で土御門さんを睨んでいた。世間で大人気、女性人気ナンバー1の陰陽寮トップの陰陽師も、コレ呼ばわり。


「先ずは、手当をしてあげませんか。兄様の竜巻に吞まれたせいで服もひどいことになっているから、着替えもさせないと。」


お父さまが、平和でまっとうな提案をされたけど、そもそものところで、土御門さん、さっきから、身動き一つしないんだけど、生きてるよね。死んでないよね。


「心配するな、不比人。ここにちょうと喜代水寺の貫主がいる」

「はい、ご依頼があれば、いつでも心を込めてお経をあげますよ」


いやいやいや、貫主がお経をあげたとて、見殺しにしたら殺人だよ。絶対ダメだって。手遅れにならないうちに、さっさと手当してよ。何のために医者が二人もいるかな。


「不比人、心配しなくても、兄様の竜巻が巻き上げた石やら砂やらで擦傷を作っただけです。あの程度の竜巻で気絶なんて、陰陽寮も昨今は人材難のようですわね」


頼子叔母様が、心底嫌そうに「人の好意を利用するような卑怯者に手当は必要ありません」と言い切った。確かに、この人のせいで北条の雅子姫が一族から追放される可能性があるから、気持ちは分かる。でも、目の前にいる血だらけの人を放っておくのは、違うと思う。人道主義とか博愛主義とか、そういう高尚なものではなくて、私の場合は、もっと単純で個人的な理由だけど。


「父様、まかり間違って、破傷風なんかこじらせて死なれたら、この先、寝つきも、寝覚めも悪くなっちゃうよ。手当してあげて」


嘉承の父が土御門さんを見下ろしながら、顎に手を置いて考えるそぶりを見せた。


「土御門、いい加減にしろ。さっさと起き上がらないと、敦人に破傷風菌を打たれるぞ」


お祖父さまの呆れたような言葉に、今までぴくりとも動かなかった土御門さんが、クスクスと笑い出した。


「嘉承公爵家って、やっぱり相当ヤバい」


悪びれることもなく、さっと立ち上がると、土御門さんは、着衣についた砂やら埃をパンパンと払った。すっと顔を上げて背筋を伸ばして立つ姿は、さすがは人気ナンバーワンの陰陽師だ。この人、色素が全体的に薄くて、作り物めいた美貌と西都では珍しい灰青色の瞳で、どこの少女漫画から出て来たよって感じ。


「こんにちは。君、嘉承不比人くんだよね」


すごい。傷だらけでボロボロの着衣なのに、ここまでキラキラオーラを出して、髪をかき上げながら微笑む人なんか初めてだよ。雅子姫、こんなナルシシズム全開オジサンに誑かされちゃったの?この人、素性が知れているからいいけど、分からないと、単なる変質者じゃん。


「えーと、君、今、何かすごく失礼なことを考えてない?」


ぎゃああああああ。


また出た。陰陽寮にも人の心を読むサイキックがいたよ。慌ててお父さまの後ろに隠れて、背中越しに「ごきげんよう」とだけ挨拶しておいた。私は基本、人見知りの七歳児なんだって。


「失礼なのは貴様だ、土御門。いきなり人の家に押し入って瘴気の壺を強奪するなど、礼を失しているどころか、犯罪者のすることだ」

「いい歳したオジサンが、女子高生を騙して家の中に手引きさせるなんてロリコン詐欺師のド変態でしょ」


北条侯爵も、頼子叔母様も怒り心頭のようで、ものすごい勢いで土御門さんを罵倒している。私は慌てて、椅子の上によじ登って、お父さまの両耳を塞いだ。ド変態とか、都の風雅の耳に入れる言葉じゃないから。


お祖父さまと父様は大笑いだ。


「頼ちゃん、そろそろ私たちは北条家に伺った方がよくない?ドロボー陰陽師を嘉承の殿が捕まえたことを早くお知らせした方がいいと思うし。時貞おじさまも心配していらっしゃるよ」


文福叔父様がいつものニコニコ顔で、叔母様に声をかけたが、叔父様も土御門さんに思うところはあるようだ。そうだよ、この人のせいで、北条家の雅子姫が嘉承一族から除籍になるかもしれないのに、どうしてくれるんだよ、このナルシスト陰陽師!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ