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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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魔王と冥王と観音と

お祖父さまの推理では、魔物が【風壁】を得意とする小野家の末の君の鷹邑氏を無力化出来るほどに強力だったのではなく、彼の状況が完全でなかったのではないかということだ。例えば、大怪我をしていたり、病気を患っていたり。魔物を作り出した令嬢の実家は、水の力を持つ侯爵家だったが、瑞祥家は言うまでもなく、水の名家の一条侯爵家や三条侯爵家に比べても遥かに劣る魔力の家だったからだ。


「だから、陰陽寮も当初は、陰陽師を四人程度派遣しただけで大丈夫だと思っていたんじゃないの。西都に救援依頼が来たのって、彼らが派遣されてから十日以上経ってたよね」

「あの速水家の魔力レベルだったら、賀茂君を派遣して、それに上位三人も付けたら、普通はそう考えるか」

「判断の拙さの言い訳には出来んだろう。あいつらの判断ミスでどれだけの被害が出たよ」

「ましてや、魔物の討ち損じを隠蔽していたという疑惑も出てきたしな」


ここにいる侯爵家の当代は、全員、皇帝陛下の依頼で救援に向かい、現地で数か月過ごした。思うこともそれぞれあったのだろう。嘉承の父にいたっては、一番早く現地に入り、数か月どころか一年近い出向になった。西都に戻っても、帝都が送り込んでくる重症患者を受け入れ続けて、家には二年近く帰れていなかったくらいだ。


「鷹邑の魔力を取り込んだ後に強くなったと考える方が妥当だと思う。これは、当時、良真から聞いた話だ。小野鷹邑は、遺体で見つかる数年前から行方不明になっていたそうだ。鷹邑には会ったことはないが、話を聞く限りでは、明楽みたいな律儀で愛嬌のある、周りに好かれるタイプだったんじゃないかと思う。そういう性格の弟が、家族や友人の誰にも何も言わずにいなくなるというのはあり得ないと言うんだな。それで小野家の先代が長男の俊生としなりと次男の良真よしざねと、鷹邑の職場の同僚や友人を全て訪ねて、ずっと行方を追っていたらしい。鷹邑の友人たちや、周りにいた人間は、誰も彼がいなくなる理由に心当たりがない。本当に、文字通り忽然と消えてしまったらしい」


「消息不明になったときには、鷹邑君の凪子嬢との婚約はどうなっていたの」


お父さまが嘉承の父に訊くと、北条侯爵が代わりに答えた。


「彰ちゃん、それは分からないんだ。当時は、西都には小野家と速水家の婚約の話は流れて来なかったし、敦ちゃんと私が、彼の葬儀前に小野家で事情を聞いた時は、鷹邑君が凪子嬢とお付き合いしていたなんて知らなかったから、もちろん訊ねることもなかったし」

「じゃあ、速水に出向いている英喜と悟朗に調べさせようか」

「峰守に訊いた方が早いだろ」


お祖父さまが【遠見】で南都の外れの阿須賀村に住んでいる峰守氏と交信を試みるそうだ。【遠見】は風の魔力を使って離れた場所を視るので探査に使われることが多いが、風持ち同士では、交信としても使える。お祖父さまが【風天】を使って皆に纏わせてくれたので、私達にも遠見が広がる。こういう超遠距離の【遠見】を、風を持たない瑞祥のお父さまや西条家・北条家の者にまで纏わせる強力すぎる風の力と驚異的な制御力の高さ。本当に魔王降臨じゃん。


「お、峰守、いたいた」

脳裏に明楽君をお爺さんにしたらこうなるのかなという風貌の老紳士の顔が浮かんだとたんに、バチンと映像が強制終了された。痛っ。


「あの野郎、俺様の【遠見】を【風壁】で弾きやがった」


大人数に割り振った【遠見】とは言え、小野家の【風壁】は魔王も弾けるらしい。噂以上に、ものすごい威力だな。


「彰人、すまんが、土か水で俺の声を繋げてくれるか」

「いいですよ。今、おじさま、水の近くにいらっしゃいます?南都だと土の方が相性がいいかな」


お父さまは、こともなげに仰るが、南都の水と土を西都から操作しようとしているということだ。瑞祥公爵家の当代は伊達じゃない。


「また弾かれると痛いので、ふーちゃんが作った可愛いお菓子に似せた人形を作りましょう」


【風壁】は、基本は防御に特化した魔法だけど、意志を持って外部からのものを弾くと、静電気のような刺激を与える。喰らった方は地味に痛い。


お祖父さまの【遠見】は弾かれたものの、切れずに繋がったままなので、脳裏に50センチくらいの土で出来た、にゃんころ餅とわんころ餅とぱんころ餅が浮かんだ。再現度が高すぎるよ、お父さま。距離を考えると一体でもとんでもない量の魔力を消費するのに、同時に三体動かしているよ。さすがに、この人も魔王の血を引くだけあるわ。


「峰、俺だ。聞きたいことがある。【風壁】で弾くなっ」


にゃんころが、お祖父さまの声で喋っている・・・奇妙奇天烈な光景に、今までの緊張感が木っ端みじんだよ。明楽君のお爺様は、縁側で涼んでいらしたようだ。夜、くつろいでいたところに、誰かの【遠見】が飛んで来たら、そりゃ驚くわ。


「え、嘉承の長人君?ちゃんと名乗ってからにしてよ。いきなり【遠見】飛ばしてくるから、反射的に弾いちゃった。ごめんね」


小野峰守氏は、目を丸くしてにゃんころに向かって話している。ああ、この人、雰囲気とか話し方が明楽君にすごく似ている。明楽君も私のゴーレムを見たときに、こんな目をして驚いていたな。


「父様、小野の先代の言う通り、名乗ってからですよ。いきなり【遠見】は拙い」


嘉承の父も横で呆れ気味だ。確かに相手が入浴中とか、プライバシーを侵害することもあるので、【遠見】は使い方によっては、世間の信用を失いかねない。


「あれ、犬君は敦人君なんだ。久しぶりだねぇ」


お父さま、芸が細かい、細かすぎる。嘉承の父の声も拾って、わんころで届けているよ。その神がかったまでの魔力制御の使いどころとしては、もったいなさ過ぎて泣けてくるけど。


「彰人も横にいるぞ」


にゃんころが小野家のお爺様に言うと、ぱんころが、ぺこりとお辞儀をした。


「峰守おじさま、ご無沙汰しています」

「あ、彰人君だ。三人ともめちゃくちゃ可愛くなって、どうしたの?」


明楽君と同じ好奇心に満ちた目をして小野家のお爺様が訪ねた。


「峰、すまん。辛いことを思い出させるが、重要で緊急だ。敦人の質問に答えてくれ」

「ええっ、俺がお尋ねするんですか」


魔王にゃんころと冥王わんころの会話。その後ろで、観世音菩薩ぱんころが口元を押さえて心配そうにオロオロしている。めちゃくちゃシュールだよ。


「辛いことと言うと、鷹邑のことだね。長人君が重要で緊急というのなら、そうなんでしょ。いいよ、敦人君」


わんころが頭を下げた。


「はい、ありがとうございます。いきなりで恐縮なんですが、小野の末の君と速水凪子侯爵令嬢は婚約していましたか」

「いや、帝都公達学園の高等科に上がった頃に、お付き合いを始めたというのは聞いていたけど、高校生のデート程度で、正式な婚約というものではないよ」

「そうですか。それともう一つ、末の君が行方不明になる直前も、凪子嬢とはお付き合いをしていましたか」


わんころ姿の父の質問に峰守お爺様は、真面目に答えて下さる。明楽君のお祖父様は優しい、いい人だ。


「それは、ごめん。分からないというのが正直な答えだよ。私は、鷹邑が帝都大学を卒業する前に、退官して南都に来てしまったからね。息子たちに会うのは、年に二回ほどだったから、速水の大姫と鷹邑が当時もお付き合いしていたかは分からないんだ」


峰守お爺様が、悲しげというより、とても苦しそうな顔になったので、この人の心の傷はまだまだ癒えていないことが分かる。人懐こくて、かわいい明楽君に会えば、少しは気が晴れるかな。会わせてあげたいな。


「私と妻は分からないけど、当時、帝都に仕事で残った長男と次男は知っているかもしれない。次男は、まだ帝都にいるけど、長男は、領地の山科にいるから訊いてみるといいよ」

「山科なら近いから、直接出向くか」


にゃんころ魔王が腕を組んで偉そうに言うと、峰守お爺様は、にゃんころの頭を撫でながら「こっちの方がいいって」と仰った。


「撫でるな、峰守」


お祖父さまが、峰守お爺様に猫パンチを食らわせた。


「猫ちゃんは気難しいねぇ。俊生も良真も、昔から猫が大好きだから、猫ちゃんの姿で訊いた方が何でも答えてくれると思うよ」


ふふっと笑いながら、まだにゃんころを撫でようとして、お祖父さまの猫パンチをビシビシ受ける峰守お爺様は、間違いなく、明楽君と同じ遺伝子を持っているようだ。



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