消えた陰陽師
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先代西条侯爵の報告で、とんでもない事実が判明した。大厄災を引き起こした姫は、明楽君のお父様と思われる小野家の末の君、鷹邑氏と婚約関係にあった。そうなると、明楽君のお母様とは、どこで、いつ知り合ったのかという話になる。そして、私が恐れるのは、速水侯爵令嬢との婚約破棄の理由、大厄災の発生に、鷹邑氏と高村親子が関わっているのかということだ。
あの親子は、もう十分に苦労してきたんだ。西都にいれば、生活面での憂いは晴れていくんだから、変えようのない過去を、いまさら掘り出す必要なんかないはずだ。
私が、皆にそう訴えると、真護だけが、こくこくと頷いて同意してくれた。西条の先代の話で、厄災の姫の名前を聞いてからは、ずっと強張った顔で、父親の東条侯爵の腕に張り付いている。普段は、良くも悪くも風の魔力持ちの特徴そのままの、飄々として何事にも動じない真護がここまで動揺している姿を見ると、むくむくと庇護欲が大きくなる。
私は、嘉承の嫡男ながら、私の世代に跡を継ぐことになる、西条と北条の嫡子よりも、かなり生まれてきたのが遅かったのと、魔力が四属性あるということで、火の家から、いまだに忠誠をもらっていない。年上の彼らからすれば、頼りない子供よりも、柄はよろしくないものの、圧倒的なカリスマと火の魔力を持つ祖父や父についていきたいと思うのは当然で、私は、瑞祥という巣から、いつまで経っても戻ってこない出来損ないの嘉承のヒナと思われている。
一方の風の家はどうかというと、南条の暁子姫も、代替わりがあれば、私に忠誠を尽くすと南条家から聞いてはいるが、それが彼女の本音なのかは分からない。そんな中で、私についていくと早くから表明してくれたのは東条の真護だけだ。だから、風の明楽君と同様に、真護も私が守りたいと思っている。
「明楽君が、南都のお祖父様とお祖母様に会いたいか、どうかという話でしょ。ここで速水侯爵令嬢と明楽君のお父様が婚約していた話は必要ないよね。もう二人ともいないんだから、今更、明楽君とお母様を悩ませるようなことは止めようよ」
私が必死で訴えると、西条の先代が困った顔をした。
「ふーちゃん、それがね。うちの英喜と悟朗が、旧速水領で高村明楽君の母親の調査をしていたら、陰陽寮の第一位の土御門君と出くわしたみたいでね。この婚約の話も彼から入手したんだよ。それで、土御門君の話では、明楽君のお母さんも、凪子嬢も、小野の末の君も、彼自身も全員、同じ学園の出身だったんだって」
怖い。明楽君の関係者が全員、厄災の魔物を生み出した令嬢とつながった。ずっと心の中でモヤモヤしていた不安が、少しずつ形を取ろうとしている。
「土御門のクソガキ、今更、速水で何やってたんだ?あいつ、ずっと行方不明で賀茂んトコの倅が探し回ってたろ。うちの嫡男の着袴もさっさと切り上げて、捜索してたくらいだから、何かヤバいことがあるのかもな。西条、陰陽寮には連絡したのか」
お祖父さまにかかると、陰陽頭も第一位の陰陽師も子供扱いだ。そうか、賀茂のよっちゃん、私の着袴の儀の後、ご飯だけ食べて長居せずにさっさと帰ったのは、丸投げ陰陽師の土御門さんの捜索中だったからなのか。ずっと行方不明だった陰陽師が、あの速水で見つかるなんて、嫌な予感しかしない。
「なーくん、ごめん。それが逃げられちゃったみたいで。あの子、土の魔力で、陰陽師の一位を張っているだけあって、地下に潜るのが上手いんだよね」
西条の先代の言葉に、お祖父さまが「ああ?」に濁点と怒りマークのついた言葉にならない音をもらし、嘉承の父は「西条の馬鹿どもが、土御門ごときに逃げられただと?」と博實おじいさまを睨みつけた。怖いよ、この山賊の親子。陰陽寮の第一位を「ごとき」って呼ぶのは、嘉承の父くらいだよ。三侯爵の先代と当代も速攻で目をそらした。
「事後報告にはなるけど、一応、英喜が賀茂君には連絡したよ。土御門君、高村明楽君が、西都で瑞祥と嘉承の庇護下に入ったことには喜んでいたみたいだよ。英喜と悟朗は、そのうち、彼が西都に現れるかもしれないって言ってる」
「西都に来るだと」
山賊親子の睨みをダブルに受けて、西条の博實おじいさまは数分前より縮んでしまった感じだ。
「うん。あのね、彼が消える前に、ふーちゃんが明楽君と仲良くなったこととか、陰陽頭がふーちゃんを完全四属性と判定したとか、そういう話をしたら、すごい興味をそそられたような顔で、そろそろ西都の宗家に挨拶に行かないとって言ったんだって」
西都の宗家とは、土御門家の場合は、土と水の瑞祥をさす。お父さまに会いに来るってことでいいのかなと、隣のお父さまを伺った。
「いや、私というより、母ではないかな。あの人、昔から瑞祥の大姫に心酔しているから」
「もしかして、土御門さんも、お支えする会の人?」
うちのお祖母さまには、西都大学の霊泉先生が会長をしている身分と年収と年齢が高めの三高会員たちが牛耳る秘密結社のような、謎のファンクラブがある。お父さまのお支えする会と違う点は、年齢層と、帝都にも少なくない数の会員が名を連ねているということ。今上陛下も名誉会員として参加していらっしゃるのではないかと囁かれる、絶対に敵にまわしたくない集団だ。うちのお祖母さま、実は陛下の従姉でいらっしゃるから、否定しきれない噂なんだよなぁ。
「どうかな。あの人たち、構成会員とか活動とか、入会しないと何も教えてくれないからね。さすがに自分の母親のファンクラブに入るというのはあり得ないから、霊泉先生以外、誰が会員なのかは見当もつかないよ」
確かに、自分の母親のファンクラブに入会とか、どんだけマザコンなんだと世間に思われるし、痛過ぎるというか、何か怖いよね。
「あいつら、俺の入会を断りやがった」
「俺も断られましたよ」
・・・嘉承の山賊親子、それ、ほんとに本気で勘弁して。
絶対に断られたのは、柄が悪いとか、口が悪いとか、目つきが凶悪だとかいう理由だと思う。と、思ったところで、嘉承の父と目が合ったので、また心を読まれないように、ささっとお父さまの背の後ろに隠れた。
「姫に頼んで、うちに顔を出すように命じてもらうか。あのガキ、何をコソコソやってんだか。全部吐かせるぞ」
お祖父さまの言葉に、当代の南条侯爵、織比古が眉を下げて困ったように報告した。
「御前、敦ちゃん、あの、これは内緒にしてって、三位の葉月ちゃんに言われたんですけど、陰陽寮内で、二年前に速水の厄災に対峙した陰陽師たちが、何か仕損じたのではないかって話があるらしいんです。土御門は、それを探っているのではないかと。あの男は、自分の同級生から厄災が出たことに当時、かなり動揺していたらしくて、対応についても賀茂さんと大揉めしたそうなんですよ」
織比古おじさま、ガールフレンドに内緒にしてって言われたのに、ぺろっと報告してるよ。
今まで、目を瞑って静かに聞いていた北条侯爵の時影おじさまが、目を開けた。
「ありえますね。ふーちゃんが、高村明楽が、同級生の女の子を守ろうとして風壁を使った話をしてくれましたよね。女の子が、吸い込まれていくかのように、ふらふらと川に向かって歩いていたと」
当代の言葉に、先代の北条侯爵が更に言葉をつなぎ、恐ろしい可能性を皆に伝えた。
「完全に浄化できていなかったのかもしれないな。高村明楽の魔力判定に出向いた時に、同級生の女の子の話を聞いて、土御門がその可能性に気がついた」
先代西条侯爵も頷く。
「大いにあり得るよ。土御門君が陰陽寮から行方不明になったのは、千台から戻って、あの報告書を作成して明楽君のことを西都に送る手続きをした直後だからね」
嫌な汗が背中をつたっていく感じがした。
「ということは、厄災は、まだ生きているということか」
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