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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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約束

いやいやいや、嘉承一族、何をいい話で纏めようとしているの。今の話は、かいつまむと、ダンディー南条が九人の女性に手を出して、そのうちの一人が、頼子叔母様の親友の妹だったことで、嘉承の烈火で焼き討ちにあったところを、明楽君の父方の血筋の当代の弟君に助けてもらったって、めちゃくちゃトホホな話じゃん。


「ちっ、いいところだったのに、正確な要約入れて突っ込むなよ」

「敦ちゃんの締め、結構、感動的だったと思ったけどね~」


認めた、あっさり認めちゃったよ、この人達。これだから、うちの大人たちは油断ならない。もう、明楽君の後見は嘉承でなくて、属性は違っても、瑞祥に頼んだ方が間違いがなくていいと思う。


「不比人、そうカリカリするな。後見の話だけどな、小野家が明楽を認知したら、必要なくなるだろ。それで、敦人のせいで話が大きく逸れたが、その話をしよう。彰人、明楽の母親とした話を教えてくれ」


お祖父さまが、グラスのワインを飲み干して、彰人お父さまに指示した。60本を霊泉伯爵家に贈って、毎日数本開けても、揺らぎもしないお祖父さまのコレクション。あの蔵の秘蔵品の量や種類とか色々とおかしい気がする。


「そうですね、じゃあ、お先に私の報告から。明楽君、2,3日中に、引越しすることになるよ。お母様が、稲荷屋さんで働くことになってね。稲荷屋さんの社員アパートに住むことになったよ」


何でも、契約社員のお仕事がなくなって困っている話を担当ナースから聞いた女将さんとこんちゃんが、人手が足りないので、ぜひとも来てほしいと言って、とんとん拍子で話が決まったそうだ。稲荷屋が、いつも忙しいのは、西都のあちこちで魔力切れを起こしている、困った貴族家の先代や当主がいるからだと思う。その根源の半分くらいは、ここにいる気がしないでもない。


「稲荷屋なら、学校も、嘉承の家も、うちの家も近いから、良かったじゃん!」


真護が嬉しそうに言うが、明楽君は、また生活の基盤が変わることに戸惑っているようだった。


「明楽君が、気になっていることを順に説明するね。まず、お母様の体調は全く心配しなくていいからね。ただ、長い間の無理で、心身ともにたまった疲れがあるみたいだから、その点では面倒見のいい稲荷屋さんでのお仕事なら安心だと思うよ。稲荷屋さんの社員の健康診断は、嘉承の病院が引き受けているしね」


そう、明楽君の一番の心配はお母様の容態だから、ここがクリアになった今は、明楽君の憂いも少しは晴れたと思いたい。


「それと、治療や入院の費用は、嘉承の病院が行政の給付申請というか、西都の大人たちと話をして、お役所に払ってもらうからね。これはお母様には、もう説明してあるよ。今後のことになるんだけど、西都では高校まで学費が一切かからないから、明楽君は何も気にせずに勉強をしっかりと頑張ればいいからね。大学でも第一学位までは無料なんだけど、それはまた後で。生活面では、魔力の制御をきちんと覚えて、鍛錬を頑張れば、陰陽寮から奨学金という名目で、子供でも結構な額が支給されるんだよ」


この辺りの話は、西都ではよく知られた話だけど、特に陰陽寮の奨学金が云々というのは、明楽君の魔力を隠して育ててきたお母様なので、自分達の権利をあまり知らずにきたようだ。


「だったら、僕が魔力の訓練をふーちゃんと真護君と頑張れば、お母さんの助けになる?」

「もちろん。すごく大きな助けになると思うよ。大人になったら、陰陽師にならないといけないとか、出世払いで返せとか、そういう話ではないから、直ぐにでも申請するべきだと、お母様にはお話ししておいたからね」


西都では、学費は大学で取得する第一学位までは無料になるが、他のコースで別の学位を取ったり、修士課程や、博士課程に進む場合は有料になる。ただ、この場合も、成績優秀者は西都大学が奨学金や、研究費という名目で、色々と補助を出してくれる。


陰陽寮が担当する奨学金は、給付自体は陰陽寮が担当しているが、これは帝国が魔力持ちに、子供の頃から制御を徹底させるための助成金で、変な紐は付いていない。制御が甘い魔力持ちを野放しにすることほど、国として危険なことはないからだ。辺りを水浸しにしたとか、クレーターを出現させたというのは、まだいい方で、頼子叔母様のような強い火の魔力を持っていると、辺り一帯焼野原ということもあって、魔力の制御と鍛錬には、それなりにお金がかかる。


「それで、次に明楽君に聞いて欲しい話は、一番大事なことなんだけどね。明楽君は、お父様のことを、お母様から聞いたことがあるかな?」


お父さまの言葉に明楽君は首を横に振った。


「保育園で、父の日に、お父さんの絵を描くことになって、その時に一回だけ、お母さんに訊いた。僕のお父さんは、僕が生まれる前にいなくなったんだって。厄災のせいで、家の中のものが全部流されたから、僕の家には何も残ってないし、お母さんは、お父さんの話をするのを嫌がるから」


二年前の厄災は、多くの人の暮らしから本当に多くのものを奪い、壊してしまった。そして、まだまだ癒えない傷を抱えている人たちがいる。明楽君のお母様も、その一人なんだろう。お母様の気持ちを察して、何も訊けないでいた明楽君のことを思うと切ないな。お父さま、また後ろを向いて泣いてしまうよ。


と、思っていたのに、今日のお父さまは、少し悲しそうに微笑まれただけだった。


「明楽君のお母様ね、大変なご苦労があったようで、実は、記憶の混濁があるみたいなんだ。簡単に言うと、哀しいことや、つらいことが続いて、それが許容範囲、ご本人が耐えられる量を超えると、私たちの体は、自分を守ろうとして、記憶を曖昧にしてしまうんだね。でもね、私たちは何があっても、全ての子供は、この世界に望まれて生まれてくるということを覚えておかないといけないんだよ。明楽君、これは何があっても、絶対に忘れないでほしい」


普段のほわんとしたお父さまではなく、今、明楽君の前にいるのは、曙光帝国の皇帝陛下から西都ならびに西国の守護を1000年に渡って任されている筆頭公爵家の当主だ。


「はい」


明楽君は、お父様の言葉の中の何かをしっかりと受け止めたようだ。


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