綺麗なお姉さんは好きですか
今日も今日とて、我が家のエンゲル係数が駄々上がりな大人数での夕食となった。気のせいか、日に日に頭数が増えていないか、うちの食卓。
「何で、お前らまで出て来る?」
不機嫌な祖父の視線の先にいるのは、四大侯爵家の先代当主だ。西条の博實おじいさまは、先日から、毎日欠かさず我が家の夕食の席に現れているけど、今日は、北条と南条と東条の先代までいる。
「なーくん、博實が来ているのに、我々にお呼びがないのは酷いじゃないか」
そう言うのは、南条侯爵家の織比古おじさまの父上の佳比古おじさま。そう、例の刃傷沙汰の元祖・都のスケコマシ。
「ちょっとゴメン、ふーちゃん、今、何か失礼なこと考えてない?」
「イーエ、ゼンゼン何モ」
・・・一体、この人たちは何なんだ?あれか、やっぱり魔力制御を極めると、サイキック化して人の心を読めるようになるのか?聞いたこともないけどな。
「私は、帝都に行った英喜と悟朗の代わりだよ」
博實おじいさまが呆れたように言った。
「それでもだ。小野が絡んだ話だと時影に聞いたからには、私も参加させてほしい。あいつには学園時代、世話になった」
「そういうこと。こっちは、息子どころか、孫まで噛んでいるんだから、完全に疎外感だよ。なーくん、俺も混ぜてよ」
何というか、北条家も東条家も、先代と当代のキャラが丸被りというか同じだ。1400年の名家の歴史の重さと魔力の強さが人をおかしくするんだろうか。誠護おじいさま、久しぶりにお会いしたけど、真護と享護おじさまと一緒でアレな感じだしな。
そう思ったとたん、三組の東風の目が私を見た。
「「「ふーちゃん、今、絶対に失礼なことを考えてるよね」」」
うぎゃああああっ、何でバレるの?
総勢13名での食事が始まった。メンツにふさわしい不吉な人数だな。この先触れもなく増殖し続ける、フリーダムで濃過ぎる奇人・・・じゃなかった、貴人の客を相手に、顔色を一切変えることなく通常運転の牧田は、やはり帝国一の家令だ。もう牧田も殿堂入りでいいよね。
客人といっても、生まれた時から知っている親戚の面々なので、気は楽だけど、私は元来、人見知りなので、先触れのない客人の対応があまり好きではない。心構えが出来ていないので、どう対応していいのか困ってしまうからだ。明楽君は大丈夫かな。
ちらりと様子を伺うと、くりくりした目で嬉しそうに変なオジサマたちを見ている。明楽君は、私と違い、人懐っこいところがあるし、うちの親戚は、観察しがいのある人たちの宝庫ではあるよね。
「確かに、小野の子だなぁ。何かあれば、いつでもうちに来なさい。風の南条が後見に立つ。今なら、綺麗なお姉さんも、もれなくついてくるぞ。どうだ?」
南条の先代侯爵が、いきなり明楽君をスカウトした。
「暁子姫で釣ろうとする手口はセコくないですか、佳比古おじさま」
「うるせー、享護。東条は引いてろ」
真護の父親である当代の東条侯爵が噛みついた。それを嘉承の父が遮る。当代を纏めるのは、祖父ではなく、父の責任だ。私が真護を守ったり諫めたりするのも同じ。
「敦ちゃん、そうは言うけどね、うちは、なーくんから、明楽は、享護と一緒に魔力の制御と錬成を学ぶようにと仰せつかっているんだ。東条が後見に立つ方が筋だと思うけどね」
父に言い返せない当代東条侯爵に代わり、東条の先代・誠護が出てきたよ。南条家が明楽君を後見したい気持ちは推察できるけど、東条には真護という嫡男がいるし、弟だっているんだから、南条に後見を譲ってもいいと思うけどな。風の魔力持ちというのは、気の向くままに生きている連中で、時々、重要なことまでしれっと忘れていることもある。なーくんこと、うちの祖父が認めたのは南条の後見だ。それも、全ての問題が落ち着いてからという話だったはず。
「お前から筋なんぞという言葉を聞く日が来るとはな」
嘉承のお祖父さまが、面白そうに仰った。
「とりあえず、飯の席で揉めるな。牧田、酒も持ってきてくれ」
これで風の両家のじゃれあいは終了。仲が良いのか悪いのか、ここ最近の集まりでは、お約束のように両家が揉める。ネタにされた明楽君は、気が気でないらしく、お父さまと私の方に「大丈夫だよね?」と問うような視線を向けて来た。
「明楽君、大丈夫だよ。おじさま達は、全員、ふーちゃんの親戚で、明楽君とお母様の力になりたいなと思っているだけだからね」
いやいやいや、お父さま。私の親戚で一括りにされると、私も奇人変人一味と同じだと思われるから。それから、私の親戚は、残念ながら、お父さまの親戚でもあるんですけど。私がお父さまに、しょっぱい顔を向けていると、おもむろに真護が立ち上がった。
「どうした、真護、何か言いたいことがあるのか」
嘉承の父が訊いた。真護、もう、いいって。お祖父さまの言葉で、一旦、南条も東条も引いたんだから、今頃、大人のじゃれあいに巻き込まれなくていんだってば。
「はいっ、暁子姫がお姉さんなら、私が南条の後見、受けたいです」
・・・お前は、その煩悩ごと、お祖父さまの【業火】で丸焼きにされろっ!




