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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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かぐや姫のセンス

明楽君の中で魔力に対する興味が芽生えたとはいえ、子供だけで訓練を始めるわけにはいかないので、お祖父さまに任された東条侯爵家に訓練を考えてもらおうと思う。子供だけだと、暴走した時が怖いからね。


真護は、すぐにでも始めたいようだけど、私は嘉承の嫡男として、真護も明楽君も守らないといけない立場なので、ここはしっかりと却下するよ。


「じゃあ、瑞祥の御庭に入らせてもらって、ハンザキでも見るかぁ」


真護の言うハンザキとは、西都のオオサンショウウオを指す言葉で、その由来は、頭が半分裂けたように見えるほどの大きな口とも、体を半分に裂かれても、なかなか死なない生命力とも言われている。どう見ても、女性が、ましてや深窓の姫が好むような生き物ではないはずなのに、帝国が誇る、やんごとなき姫ランキングのトップを独走する、うちのお祖母さまは、ハンザキが大好きでいらっしゃる。曰く


「赤ちゃんのような手がついていて、愛らしいのよ」


いやいや、あんな気色悪い手をした赤ちゃんは、絶対に呪われてるでしょ。


うちに居座るハンザキは、両生類のはずなのに、陸に上がって移動しているところを見ることがない。いつも水の中で、祖母の愛でる短い手足で、のそのそと歩いているイメージだ。瑞祥の広大な御庭には、水の一族にふさわしい澄んだ小川があり、そこに奴らは、祖母の保護を笠に着て、好き勝手に棲息している。


ちなみに、瑞祥と嘉承の家は、真ん中で繋がっていて、家令の牧田や料理長などの家人も二つの家に仕えている。元々、同じ家族ということもあるし、嘉承の子供は、代々、瑞祥家に育てられるので、自然と今のような住まいが出来上がった。食堂や、西都の貴族が一堂に集まれる大広間や、薪能や舞に使われる舞台など共同使用している場所は、両家の間にある。瑞祥の一族の四侯爵も、嘉承の四侯爵も、子供の間は、どちらの家も庭も出入り自由、どこでも好きに遊んで良し、という不文律があって、真護は、幼稚舎に入るよりも前から、それを大いに享受しているクチだ。


瑞祥は、水と土の家だけあって、帝国一の見事な庭園を持っているが、一族の子供たちだけでなく、お祖母さまの趣味のせいで、やたらと謎の生き物が出入りしている。


「オオサンショウウオって、図鑑でしか見たことないけど、本当にいるんだね」

「いるよ。僕より大きいやつもいる」

「お祖母さまの変な趣味のせいで、しれっと居座ってんだよ」


真護と二人で、思わず遠い目をしてしまう。お祖母さま、西都貴族の憧れのやんごとない姫なはずなのに、趣味がちょっとアレなんだよなぁ。


三人で小川を覗き込んでみたものの、今日は、オオサンショウウオの影も形も見当たらない。


「おかしいなぁ。いつも我がもの顔で、何匹か水の中を歩いているのに」


真護が川べりを歩いて探す。


この時期のオオサンショウウオは、産卵期に入るので、ヌシと言われる一番大きな雄の住んでいる一番大きな巣穴のようなところに、雌やほかの雄がやってきて、産卵する。そして巣穴でヌシが卵が孵化するまで守る、という話をすると、明楽君が笑顔になった。


「なんか、ヌシって、ふーちゃんのお父さんみたいだね」

「そうそう、彰人先生は、大きくなるまで、どこの子でも守ってくれるからね。西都のヌシ様だ」


うーん。そうかもしれないけど、あんなビジュアルの生き物を、うちの美貌のお父さまと一緒にされると、ちょっと微妙だよ。明楽君にも、西の公爵が子供は守ってくれるという、この土地の常識が浸透してきたのは嬉しいけどね。


「あ、ふーちゃん、明楽君、あれじゃない?」


真護が、川縁に両手足をついて、身を乗り出して確認しようとした。


「真護くん、危ないよ」


明楽君が、真護の服の後ろを掴もうとしたとたんに、明楽君本人が足を滑らせ、真護を押し出すように二人で川に落ちた。あらら。


幸い、瑞祥の小川は、大人の膝下くらいの深さしかないので、溺れるようなことはないけど、二人ともかなり濡れてしまった。


「真護くん、ごめんね。助けようと思ったのに、何か押しちゃったみたい」

「全然いいって。僕、ここに来るたびに落っこちてるし」


あっけらかんと言い放って、楽しそうに笑う真護は、過去から全く学ばないバカだけど、いいヤツだ。でも、来るたびに落ちるって、バカ過ぎない?三人で笑っていると、嘉承の父の声が聞こえた。


「ガキども、そこにいるのか?」


相変わらずのガキ呼ばわり。あの人は、本当に、清々しいほどお祖父さまと血がつながっているよね。


「あれっ、嘉承の殿だよ、ふーちゃん」

「お父様、こっちですー」


私が返事をすると、すぐに嘉承の父が前栽せんざいの陰から出て来られた。


「お前ら、またハンザキ見に来たのか。よく飽きねえなぁ。で、何で真護と明楽は濡れネズミになってる?」


嘉承の父がそう言いながら、片手を上げたかと思うと、一瞬で二人を乾かして下さった。こういうところは、やっぱり火と風の嘉承の当主なんだなと思う。私も出来るけど、二人を一瞬で、というのは無理。焦って二人の髪と服を生乾きか、パリパリにする気しかしない。うーん。私も真護と明楽君と一緒に、魔力制御、頑張るかぁ、面倒だけど。


「ふー、お前、またロクでもないこと考えてないか」


もうね、このサイキック山賊親子、本当に勘弁してよ。


「殿、ありがとうございます」


真護が、いつもの猫を取り出して、素早く御礼を言ったのを見て、明楽君も慌てて、真護にならってお辞儀をした。


「おう、気にすんな。あきが、話し合いにもう少し時間がかかりそうなんで、お前ら、今日もうちで夕飯済ませてから帰れだと。明楽は、俺が後で送ってやるわ。真護は、享護が来るから、一緒に帰れ」


三人とも従順に、こくこくと頷く。公達学園初等科一年生に、誰よりも強い火と風の力を持つ山賊の若頭に逆らう勇気はないよ。


「今、産卵期だから、ショウちゃん、いねぇだろ。年末ごろ、孵化したら、年明けには、お母様に挨拶しに、出て来ると思うぞ」


ショウちゃんとは、うちに居ついたオオサンショウウオのヌシの二代目にお祖母さまが付けた名前で、初代がサンちゃん。次代は間違いなく、ウオちゃんになると思われる。


「しょーちゃん?挨拶?」

「明楽、そこは、スルーしとけ。瑞祥の大姫は、帝国一聡明で、美しい人だが、名づけのセンスは欠片も持ち合わせておられない。お好みもちょっとアレなところがおありになる」


そうなんだよ。お父様たちは五人兄弟だけど、全員、あの山賊のお頭の命名で、世間で浮くことのないお名前を頂いたらしい。お祖母さまに任せると、間違いなく、嘉承の父はタローで、瑞祥のお父さまは、ジローだもんね。トリさんが私の脳裏でブリザードの中で置き去りにされた樺太犬の兄弟を見せる。何、この切ない映像?


「まぁ、俺はタロ吉でもイチロウ太でも、あの母が付けて下さったのなら、喜んで名乗らせて頂くが、彰人がジローだと、西都の人口の半分は泣くぞ」


いやいやいや。どこから、どう見てジローなの?無理、無理、絶対に無理。


「瑞祥のお父さまがジローなんて違和感しかないよ。それに、お父様たちがタローとジローなら、嘉承の叔母様は、ミツコとかになっちゃうのかな」

「あいつはサブ子だな」


頼子叔母様は、サブ子でいいんだ。姫なのにサブ子って・・・。


「嘉承の大姫の力なら、サブ子姫って笑う連中を確実に殺れるから問題ないしね!」



いやいや、真護、大問題だろ、それ。


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