豆柴の一族
嘉承の父と同じように、四侯爵家のおじさま達も叫んだ。
「おのか」
「おのだな」
ちょっとごめんなさい、何を言っているか、さっぱり分かりません。明楽君は、突然叫んで騒ぎ出した大人たちに完全にビビッている。そうだよね。私も怖いわ、この変な人たち。
真護が、自分の父親をつかまえて、聞いた。
「父上、おののこって何?」
そう、それ。私も知りたいよ。
「小野家の子だ、真護。明楽君のお父上は、あの冥府の役人と言われた篁を先祖に持つ小野子爵の血筋だ」
小野子爵家?付き合いあったかな。訊ねるように、お父さまの方を見た。
「ふーちゃんも真護君も知らないと思うよ。小野一族は、南都か帝都にお住まいだし、子供たちは皆、君たちより年上で、末の君は南条の大姫と同じ学年のはずだから」
南条家の暁子姫は、私たちより五歳お姉さんで、学園の中等科にいる。南条の姫らしく、年齢に合わないお色気の持ち主で、学園の男子生徒に人気の姫ランキングのナンバー2だ。ナンバー1は、なんと高等科に在籍の北条の姫。北条家は、男性陣は暗くて気持ち悪いと言われるのに、姫は、クールビューティー系の凛とした方が多いので、北条家の姫は、いつの代でも人気があったりする。染色体が1つ違うだけで大違い。北条のおじさま、お兄さま、ドンマイ!
閑話休題。南都は、西都が帝都だった時代より、更に前に帝都だったところだ。南都の貴族家は、遷都がなされた当時、西都に移らなかった家や、もしくは遷都後の残務処理を仰せつかって、そのまま居ついてしまった家、よく言うと、おっとりした気風、そのままで言うと、マイペースな家が多いそうだ。手広く農業をしている家なんかも多いし、二千年以上前に隣国から高度な技術を持って渡来した人々を先祖としている家も多いので、秀でた職人や芸術家を輩出しているところもある。
「でも小野家で確定みたいにおじさま達は仰るけど、本当に?」
子爵家の血筋の父親では、明楽君の力の強さが説明されない。
「小野は、風の血筋的には超名門だな。先祖代々、男女ともに、人好きのするやつが多い家だ。風の強い力があって、頭脳明晰なのに、嫌みのない男が多いから、内親王殿下が降下されたことも一度や二度じゃない。皇家の血も入っているから、魔力も伯爵家を凌駕するほど持っている。いい意味で、するすると人の懐に入っていくのが上手いからな。2000年の帝国の歴史で、一番、外交官や大使を輩出しているのが小野家だ。何なら霊泉先生に訊けば、夜明けまで語ってくれるだろ。それだけの歴史を持つ名家だからな」
「それから、先代子爵夫人は、私たちの親愛なる従姉の姫なんだよ」
嘉承の父の言葉に、南条のおじさまも説明してくれる。それなら遠縁とはいえ、うちの親戚でもある。確かに、父の語った小野家の家風に、明楽君は合致するところが多い。明楽君は、頭がいいけど、嫌みなところが一切なくて、礼儀正しくて、かわいらしいもんね。
でも、我が嘉承のカッコウの家の伝統の根底にあるのは、氏より育ちの信条じゃないの。明楽君が家風にあてはまるのは、お母様のきちんとした養育のたまものだと思うけどな。私がそう言うと、お祖父さまが応えてくれた。
「普通は、ふーの言う通りだがな。姫が小野の子だと言ったんなら、小野の子か、小野の直系に限りなく近い血筋で間違いないだろ」
そうだったよ。彼のかぐや姫さまは、帝国やんごとなき姫ランキングのダントツ一位を70年間も保持している、とんでもない方だったよ。血筋はもちろんのこと、何と言っても、お祖母さまをトップの姫たらしめているのは、その驚異的な記憶力だ。一度だけ短い間に紹介された程度の人でも、それが何十年経っても、次回会うと、迷うことなくフルネームで呼びかけるので、誰もが「さすがは瑞祥の姫君」と感動する。が、これには秘密があって、ご本人いわく、魔力の型を視れば造作もないことなんだそうだ。
お祖母さま、そもそものところで、魔力の型を視るということが、我々には出来ないどころか、理解もできません。属性は分かるけど。
「小野の子となると、誰の子だろうね。先代には息子が三人いたよね。私は、末の君と暁子が同学年だから、お父上の当代子爵と何度か会ったことがあるけど、庶子を放置するような方とは思えないけどな」
当事者の明楽君を置いて、話がどんどん進んでいくから、明楽君は、めちゃくちゃ不安そうになっているよ。
「まぁまぁ、その辺りは、明日以降にしませんか。もう子供達には遅い時間ですし、明楽君には、昨日の今日で心身ともに負担が大きいでしょう。今日は、ここでお開きにしましょう。明楽君、あとは私たちに任せておいてくれるかな。嘉承家と私が、君たち親子のことはちゃんと引き受けるからね。じゃあ、目の前のお茶を頂いたら、病院の宿泊施設に戻ろうか」
さすがはお父さま。よく分かってくれているよね。
「俺が久しぶりに自宅に帰ってきたんだから、お前らも家で寝ろよ」
嘉承の父が不満げに仰ったけど、明楽君は、お母様のそばにいたいんだよ。
「ふーちゃんは、明楽君が心配だから、そばにいたいし、私が不比人のそばにいるのは当たり前じゃないですか」
お父さまが白皙の美貌で主張すると、誰も文句が言えない。これは、間違いなく、かぐや姫さまの血筋だろうね。
病院について、部屋のベッドにもぐりこんでも、明楽君は大人しかった。ちょっとショックが強かったかな。そうだよね、今まで見たこともない知らないオジサンたちが、お父様の血筋がどうだこうだって目の前で語り始めたら、これからどうなるのか不安になるよね。
明楽君の気持ちを考えると、何だか切なくなってしまって、お父さまと期せずして、同時にため息をついた。
はぁ~、前途多難。




