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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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可愛いおののこ?

明楽君と真護と三人で病院から歩いている途中、明楽君が思いつめたような顔で話を始めた。


「ふーちゃん、真護君、お母さんと僕のこと、助けてくれてありがとう」

「気にすんな。友達が困っていたら助けるのは、西都せいと公達きんだちの常識。ね、ふーちゃん」


真護、お前は何もしてないだろう。明楽君親子を助けたのは、お祖父さま達だって。


「きんだち?」

公卿くぎょうの家の若者っていう意味だよ」

「苦行?」


明楽君、今、違うけれど、限りなく本質に近い漢字変換したよね。


「私や真護の家は、1000年以上続いていて、ずっと西都に住んでいるんだよ。公卿っていうのは、昔から、皇帝の御側で陛下の治世をお支えすることを許された家って言えば分かるかな」


今は官僚も貴族家ばかりと限らないので、ちょっと違うんだけど、明楽君の生まれ育った千台市には貴族家がないし、千台のある帝都の北東は領地を持つ貴族家が片手で数えられるくらいしかいない。それも、500年も続いていない比較的新しい家ばかりだったと思う。そんな馴染みのないところに、ましてや小学生同士で身分がどうのという話は憚られる。明楽君は、私たちのことを友達と思ってくれているんだったら、変な溝や壁は作ってほしくない。


「うーん、ごめんなさい。よくわからないけど、僕が分からないことをふーちゃんや真護君は沢山知っているというのは分かったよ」


いやいや、真護はどうだかな。一般常識だと明楽君の方がよっぽど分かっている気がするけど。


「ふーちゃん、顔がスナギツネみたいになってるよ」


誰のせいだよ。


「あの、それで、お母さんはちゃんとご飯を食べて、休んでいたら良くなるって、ふーちゃんのお祖父さん達に言われたけど、本当にそうなのかなって。昨日の晩の、お母さんの周りの、あの気持ち悪いのは何なのか、ふーちゃんと真護君は知ってるんだよね」


明楽君の言葉に、思わず、真護と顔を見合わせた。


「ふーちゃん、視えてなくても、明楽君は感じたんだよ。だから余計に怖かったんだと思う」


真護の言葉に、明楽君がこくりと頷いた。そっか。なら、私もちゃんと明楽君に向き合わないと。


「明楽君、あれは瘴気だよ。誰かの呪いが、明楽君のお母様に憑りついて、時間をかけて大きくなって瘴気になっていた」

「瘴気って厄災だよね」

「厳密に言うと違うんだ。瘴気って言うのは実体がなくて、厄災は魔力と魔素で魔物になったものを言うから」

「魔物の一歩手前みたいなものって言ったら分かるか?」


私と真護の言葉に、大好きな「豆柴のにぱっ」が明楽君の顔から完全に消えてしまった。ああ、だから言いたくなかったのに。


「そっかぁ。お母さんが呪いを受けたのは、僕に魔力があるからかな」


明楽君がそう言うと、丸い目から涙が溢れそうになった。うわぁ、泣かないで。バカ真護も慌てて、私の背中をバシバシと叩いた。何か言って慰めろという意味だろうけど、真護は、七歳児の割に大きくて力があるから痛いんだよ。


「明楽君、それは違うよ。魔力があるだけで、いちいち呪われてたら、うちの家なんか1400年前に滅んでいるから」


今は、牧田がいなくなると直ぐに滅ぶけどね。


「そもそも、明楽君の魔力を怖がっていた連中に、お母様に憑りついて、時間をかけて呪いを大きくしていくような芸当は出来っこないと思うよ。魔力を怖がる人達というのは、魔力のことを全然知らないからだよ。人は知らないものには不安を感じて、それを否定したり、嫌悪したり、あげくに感じる必要もない恐怖から、それを排除しようと動くんだ。どれだけ愚かであるか気づくこともなくね。だから、私達は正しく知らなくちゃいけないんだよ」


ごめん、私の中のアラフィフ、トリさんが憤りで顕在意識に影響してきたよ。七歳児が七歳児に言う言葉じゃないってば。彼女を意識の下にぐっと押し込んで、言葉を続ける。


「明楽君、だからね。お母様が怖がるのも、それを明楽君が不安に思うのも分かるんだけど、それは、明楽君とお母様が魔力のことを分かってないというのが一番の理由だと思うんだ。この国では、魔力の制御は魔力持ちの義務なんだよ。それがないと陰陽寮の粛清にあうこともある。僕と真護と一緒に、制御を勉強しない?お母様には、うちのお父さまからお話してもらえば大丈夫だから」

「ふーちゃんのお父さまって、おじさんの方のお父さん?」


あ、そこ大事だよね。嘉承の父は山賊の若頭だから、お母様も真護君もちょっと怖いもんね。


「うん、瑞祥のお父さまに任せておけば大丈夫だから」

「そうそう。彰人先生だったら、全部ちゃんとやってくれるから安心だって」


私と真護が両サイドで説得をすると、明楽君は、小さく頷いて、私の服の袖をきゅっと握って、すぐに離した。信用してくれるってことでいいんだよね。ちょっと強引だった気もしないでもないけど、魔力の制御は、本当に大事。事故がないように、すぐにでも始めたいくらいなんだよ。


思った以上に、緊張していたのか、気がついたら家の門をくぐっていたようだ。瑞祥の方の玄関の車寄せに、黒いセダンが停まっていて、そこからお祖母さまが降りて来られた。牧田が出迎えている。


「あ、ラッキー。瑞祥ずいしょう大姫様おおひめさまだ」


真護が拝んでいる。何故だか分からないが、西都の貴族家の間で、お祖母さまを見かけると、小さな幸運が訪れるという都市伝説が実しやかに語られている。うちのお祖母さま、四葉のクローバーだったのか。


「明楽君、私のお祖母さまだよ」

「え、おばあさんなの?」


うん、気持ちは分かるよ。あの方、どっからどう見ても『おばあさん』って感じじゃないよね。かくいう私は、かぐや姫じゃないかと思っているし。


三人で、ごにょごにょと話をしていたので、お祖母さまが、後ろを振り返られた。


「あら、ふーちゃん、東条の君、ごきんげんよう。新しいお友達かしら?」


お祖母さまにご挨拶すべく、真護と明楽君を挟むようにお傍に上がった。


「大姫様、ごきげんよう。お邪魔しています」


真護、瑞祥のお祖母さまやお父さまの前だと、かぶっている猫が巨大化するな。


「お祖母さま、おかえりなさい。こちらは、学園に二学期から転校してきたお友達で・・・」


私が明楽君を紹介しようとすると、お祖母さまが明楽君を見て嬉しそうに仰った。


「あら、おののこはやっぱり可愛いわね。お名前はなんというの?」

「高村君です」

「たかむら君。ふふふ。ふーちゃんと同じね」


お祖母さまは、いつものかぐや姫モードで、私たちに「ではね」と仰って家の中に入って行かれた。明楽君は、きょとんとしていて、真護は合掌している。だから、拝むなっ。後ろに控えていた牧田が「こちらからお入りになりますか」と訊いてくれたので「嘉承から入るから」と伝えた。


「やった!大姫に声を掛けた頂いた。これで三日はラッキーだ。父上に自慢しよっと」

お見かけすると四葉のクローバーみたいな幸運で、声を掛けてもらうとラッキーが数日続く・・・その都市伝説は、お支えする会あたりが流布している気がするわ。


「おののこって何?」


あ、それ、私も気になった。


「男の子って意味じゃないの?大姫は、先帝陛下の姪にあたる瑞祥の姫で、曙光のやんごとなき姫ランキングナンバー1だからさ。お言葉も正しくお姫さまなんだって」


お姫様言葉なのかな。おののこ・・・うーん。おのこは男だから、おののこは男の子ってこと?おのこは、大昔の土佐に赴任した役人の日記で見た気もするけど、おののこって何だ?

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