革命の風は東から吹く
明楽君の魔力の強さから、彼の父親が強い風の魔力持ちということは容易に想像がつく。でも、高位であるなら余計に魔力持ちの我が子を放置というのが分からない。たとえ、庶子だったとしてもね。
南条のおじさまが、明楽君を欲しがっているように、どの家も、より強い魔力を持つ者と縁を結んで家を存続させることを切望している。それはもう魔力を持つ貴族家に生まれた者の本能のようなものだ。
ただ、貴族家同士の婚姻でも、魔力格差が大きいと子供が生まれにくいという問題がある。それで1400年の西都の歴史の中、高位になる程、近い家同士で婚姻を繰り返して、結果、虚弱体質や持病で魔力に耐えられない肉体の子供の出生が続き、後継者を失った名家も少なくない。瑞祥だって、あわや断絶の憂き目をみたくらいだ。だから、父親や、その生家が明楽君を放置するなんてありえない。
「すでに鬼籍の人なんじゃないか」
「そっか、それで、出生届に父親の名前がないのか」
「いえ、死亡していても三年以内なら死後認知で、父親の名前は記載が出来るんです。たとえ父親が、子供の出生前に亡くなっていても、伯爵以上の家が、魔力持ちの子を認知しないはずがないんですけどね」
お父さまも、困惑した表情だ。お父さまに分からないことが、私に分かるはずがないよね。
そこに、南条の織比古おじさまが、そろそろと手を挙げた。
「どうした、織比古?」
嘉承の父が訊くと、いつもの余裕のダンディーぶりとは違って、少し恐縮した感じで話し始めた。
「すみません。御前には余計な手を出すなとご指示を頂いたのですが、実は、私、陰陽寮の葉月ちゃんと割と親しくしておりまして」
「葉月ちゃんって、うちに来てくれる三位の?」
それは、もしかして真護の魔力測定に派遣されてきた陰陽師の綺麗なお姉さん?真護を見ると、こくこくと頷いた。さすがは音に聞こえた、西都一のスケコマシ、ダンディー南条。陰陽寮の上位陰陽師にまで触手を延ばしていたよ。
「ふーちゃん、今、すごく失礼なこと、考えてるよね」
げっ、織比古おじさまも人の心が読めるの?魔力制御を頑張ると、サイキック能力が生えるとか?そんなの聞いたことないよ。
「まぁいいけどね。それで、葉月ちゃんとお喋りしていたら、本当に偶々なんですけど、帝国の伯爵以上の血筋で、男性の魔力持ちで、この七・八年で転居、事故、疾病、婚姻、死亡、子供の出生など何か動きがあった者の話になりましてね」
たまたまなの、それ・・・?
「ふーちゃん、そこはスルーしといてね。それで、該当するものが何名かいたんですが、風は享護に真護君が生まれた以外は誰も該当しないんですよ」
「母親が魔力なしなんだから、父親は風でないと明楽の風の力の説明がつかんぞ」
「やっぱり、東条か南条の隠し子だろ」
「だから、南条が引き取るって言ってるじゃないですか」
おじさま達が、また同じところで揉め出した。いい加減、私は退席させてほしい。明楽君を迎えに行く時間だからね。
「そろそろ病院の面会時間が終わるので、明楽君を迎えに行きます」
お父さまも一緒に行こうとして下さったけど、まだ話が全く整理されてもいないので、私だけで大丈夫。すぐそこだしね。真護が代わりについて来たいと言うので、来てもらうことになった。
病院まで歩きながら、真護が肩と首をぐるぐるとまわしながら、不満をぶちまけた。
「何で明楽君の父上の家のことを調べないといけないの?今まで明楽君のこと放っておいたんなら、明楽君のこともお母さんのこともどうでもいいって思ってるんだよ。南条のおじさまに引き取ってもらえばいいじゃん」
「引き取るにしても、先方の合意がいるってお父さまが仰ってた。父親や、その生家が良くても明楽君くらいの力の子になると、後々、縁戚が文句を言ってくることもあるんだって」
お父さまに教えてもらったことを伝えても、真護はまだ不服があるようだ。
「そんなの嘉承が、調べたけど出生届に名前がないので、分かりませんでしたって押し通せば、誰も文句言わないよ。嘉承一族の南条に誰がいちゃもんつける?」
「そうしてうちは、ごり押しの山賊公爵のレッテルをはられるわけか。そんなのダメに決まってるでしょ。陰陽寮に粛清されるよ」
「ふーちゃん、陰陽寮が嘉承に勝てるはずないじゃん。東条は絶対に嘉承についていくし」
真護、お前はうちの家に何を期待してんの。それ、ほぼクーデターだから。
病院に着くと、もう明楽君が玄関先で待っていて、私と真護を見つけると、嬉しそうに、ぶんぶんと手を振ってくれた。ああ、あの豆柴のにぱっとした笑いが可愛い。癒される。
そんな明楽君に真護も庇護欲を刺激されたようだ。
「ふーちゃん、もう陰陽寮を殺るしかないよ」
いやああああああああ。私の横にチェ・ゲバラがいるっ。




