なんてったってアイドルと白い熊
ドクター滝川の発言は気になるものの、私たちは学校があるので、早く朝ごはんを食べて出なくてはいけない。
お父さまが、私たちと登校したので、学園内の「お支えする会」の会員と思しき生徒たちが熱狂した。怖いよ、この集団。私の脳内布教活動よりもヤバい気がする。
「彰せんせー――――っっっ」
はいはい、そこ道を開けて。触らないでね。私が、アイドル事務所の人よろしく道を作っていく後ろをお父さまがおもしろそうにしながら、周りに手を振っていた。
「ごきげんよう。みんな元気だった?」
はい、ここで三人ほど失神しました。お父さまが、学園長先生に強制収監されましたとさ。うん、それが学園の平和のためには適切な対応だと思うよ。
教室につくと、真護しかいなかった。
「みんな、彰人先生に会いに行ったまま帰ってこないんだよ。四条先生もいない」
おいこら、四条家は瑞祥側の四大侯爵家じゃないのか。何だ、そのミーハー。
「ふーちゃん、昨日の夜、先代の魔力が・・・」
「真護、その話は、おじさま達が集まってからね」
真護がお祖父さまの魔力のことを明楽君の前で話そうとするので遮った。真護は、空気が読めないけど、私の言いたいことだけはいつも直ぐに分かってくれる。こういうところは本当に助かる。
「真護、話は変わるけど、魔力測定の時、陰陽寮から誰が来た?」
「綺麗なお姉さんが来たよ。三位の人だったかな。名前は忘れたけど、うちと南条には、陰陽寮の中で風の力が一番強い人が派遣されるのが決まりなんだって」
まぁそうだろうね。じゃあ、そのお姉さんが風の陰陽師の中では一番強いのか。そしたら、丸投げ陰陽師の土御門さんは、何で明楽君のところに派遣されたのかな。お姉さんが忙しかったからか、土御門さんがヒマだったからか。何だろう、何かモヤモヤしてきた。
「ふーちゃん、また顔がチベットスナギツネみたいになってるよ」
うるさいわっ!
四条先生とクラスのみんなが、わいわい言いながら戻って来たので、少し遅れて朝の会で、これまた少し遅れて1時間目が始まった。今日は、どの学年もこんな感じだろうなぁ。
お祖父さまの業火の届く範囲に住んでいる子も多いので、いつもより元気だからなのか、今日は、皆が明るくて楽しい感じだった。明楽君も楽しそうにしてるし、給食も美味しいし、私は言うことはないよ。嬉しくなって、にんまりしていると、手に持った牛乳瓶からぼわんと、ミルクで出来たテディベアが浮かび上がった。
「ふーちゃん、帰りは、病院に明楽君のお母様のお見舞いに行ってね。明楽君は、面会時間終了までお母様の病室にいていいからね。後で、私とふーちゃんで迎えに行くよって言っておいて。それと、家に真護君も来るようにって伝えてくれるかな」
テディベアが、じゃあねとバイバイするのを見て、明楽君が目を輝かしながら手を振り返していた。うん、白い熊さんは可愛いよね。でも、君は私のにゃんころゴーレムが好きだったんじゃないの?あれか、土の茶色がイマイチだったのか。
水の魔力持ちのクラスメイトが、真似をしてミルクで小さな人形を作ろうとして、失敗した。周りがミルクだらけになる。おいおい、ミルクは乾くと臭うんだって。
「こら、食べ物で遊ぶな!」
「四条先生、それ彰人先生に同じこと言えるんですか?」
誰かのナイスな切り返しに、皆で大爆笑した。四条先生がお父さまに心酔しているのは皆知っているからね。どうせ、お支えする会の会員だろうし。隣を見たら、明楽君も楽しそうに笑っていた。そうそう、明楽君、魔力持ちを怖がる子なんて、西都にはいないからね。明楽君のお母様もいつか分かってくださるといいね。
放課後になって、明楽君と真護と三人で嘉承の病院に行った。ナースステーションで、明楽君のお母様のお見舞いに来たことを伝えると、大きな紙袋を渡された。これ、稲荷屋の紙袋じゃん。
「稲荷屋さんが来られて、若様たちが来られたら渡してくださいって頼まれたの。私たちにもヴォルぺのケーキの差し入れを食べきれないくらい沢山頂いてしまって」
袋の中を見ると、明楽君の服だった。きれいに洗濯とアイロンがされてあった。もちろん、稲荷屋のお菓子と西都の有名なお茶どころの緑茶の袋も入っていた。女将が持ってきてくれたんだろうな。さすがは老舗の大店を仕切る女将だ。
「いえ、女将さんでなくて、息子さんでしたよ」
そうなんだ、何番目のこんちゃんかな。紙袋を明楽君に渡して、お母様の病室に行くことにした。真護も猫かぶりモードに入っている。
病室に入ると、ベッドに細い女の人が座っていて、折れそうなほど華奢な腕に点滴が痛々しそうにささっていた。若い看護婦さんが、「大丈夫、もう終わったから、今片付けているところよ」と声をかけてくれた。
「お母さん、大丈夫?」
明楽君がベッドに駆け寄ると、細い女の人は泣きそうな顔で、明楽君を抱き寄せた。
「お母さん、ふーちゃんと真護君だよ。学校のお友達」
「はじめまして」
真護と揃って、ぺこりとお辞儀をする。
「こんにちは。明楽、もうお友達ができたのね。良かったね。ふーちゃん、真護君、明楽と仲良くしてくれてありがとう」
明楽君が、稲荷屋の袋をお母さんに見せると、お母さんは「ああ、稲荷屋さんにはお世話になったのにね。ここまでして頂いて」と事情をすでにご存じの様子だった。どうやら、昼の間に美也子さんがやってきて、色々と世話を焼いてくれたらしい。その時に、話は全て聞いたんだって。もちろん、全てと言っても美也子さんが知っている範囲の話だから、瘴気やお祖父さまの業火の話は入っていない。
「えーと、僕たちは、これで失礼します。明楽君、面会時間が終わるころに迎えに来るね」
そう言って、真護とまたぺこりと頭を下げて、パタパタと競歩の選手のように病院の廊下を歩き続けた。病院を出ても、そのまま速足で、嘉承の家に向かう。明楽君を面会時間ギリギリまで病院に置いて来いということは、家に四侯爵が来ているということだ。西条家の英喜おじさまから何か報告があったのかもしれない。
気は逸るけど、不健康児童の体がついていかない。ああ、もうにゃんこゴーレムで帰っちゃダメかな。




