人選ミスで選手交代
とりあえず、直近の方針は決まったし、お祖父さまの指揮の元、嘉承一族が動くので、これで安心・・・と思っていた私は、めちゃくちゃ甘かった。
北条のおじさまが明楽君の魔力を再測定して、東条家で、私と真護と一緒に風の魔力の制御を練習するという話をしたら、期待していたものとは真逆の反応が返ってきた。
明楽君のお母様は、どうやら魔力持ちに対して、ある種の恐怖のようなものを持っているようだ。そして、明楽君本人は、自分の魔力が強いことが分かると、お母様が怖がって、自分を置いてどこかに逃げてしまうのではないかと怯えている。こんなことを、雨の中に捨てられた仔犬のような目で言われては、もうこれ以上、話を進められないよ。
なるほどなぁ。制御ができれば、明楽君の憂いを晴らすことが出来ると、喜んでいたけど、私の一人相撲だったよ。そうではなくて、魔力があること自体が、彼の憂いの根源だったわけか。
そうなると、めちゃくちゃ難しいなぁ。人の考え方や価値観は、他人が変えられるものではないから、よしんば明楽君のお母様を説得して、明楽君の魔力の再測定と制御の訓練が出来るようになったとしても、問題の根本である、彼女の魔力持ちに対する考え方は変えられない。そうすると、明楽君の憂いが晴れることがない。
うーん、堂々巡り。知恵熱出そう・・・
というようなことを、夕食時に、お祖父さまと、お父さまに相談してみた。土御門さんの丸投げじゃないけど、こういう時は、早めに白旗を上げておかないと、時間が無駄に過ぎるだけだもんね。
「ま、ところ変われば品変わるって言うしな。魔力持ちがゴロゴロしている西都では日常の当たり前のことでも、東に行くと違うだろうよ。ましてや、高村親子は、あの土地にいたんだろう。時間をかけて心の傷を癒してほしい気持ちはあるが、東条の嫡男が自分より強いと言った魔力を、嘉承は放ってはおくわけにはいかん。一日でも早い制御を覚えてもらう。それは分かるな」
「はい」
お祖父さまの仰っていることは、すごくわかる。魔力は使い方を小さいうちから学んでいないと、暴走して大事故を起こすこともある。今は、まだボールを切り刻んだくらいだけど、今後、何がどうなるか分からない。誰かを巻き込むこともある。最悪は厄災の魔物を生んでしまうこと。明楽君やお母様の気持ちは最大限大事にしていくけど、これだけは嘉承家は譲らない。
「と言うわけでな、予定変更。彰、お前、ふーを連れて、早めにその母親に会って来てくれ」
「私が風の家のことに干渉していいんですか」
「いいも何も、俺の人選ミスだったわ。北条に女の相手は無理だろ。子供は絶対泣くしな」
いや、北条のおじさまは、いい人だって。ちょっとお顔が能面みたいで怖いだけで。
「じゃあ、明日にでも連絡を差し上げて、話をしてきます。ふーちゃんもそれでいいね?」
もちろん!誰でも、黒づくめで長身の威圧感この上ない能面紳士より、ニコニコしながら何でも聞いてくれる美形の保父さんの方が話しやすくていいもんね。
話がまとまったところで、三人で食後のお茶を飲んで、お祖父さまの「あの土御門のガキ」という愚痴のような、昔話を聞いた。お祖父さまは、超絶口が悪いのに、なぜが愚痴や悪口がそうとはならない稀有の人で、いつも話が面白い。ちょっとトリさんに通じるところがあるかな。あのガキと言いつつ、お祖父さまが、実は、かなり土御門さんを気に入っているのが分かる。土御門さんのお母様が、お祖父さまの同級生なんだって。お祖父さまの学年、濃い同級生が多すぎないか。
話が、土御門さんの無駄に流麗な手蹟になったときに、牧田が現れた。
「ご歓談中に失礼いたします。若様に、緊急の電話が稲荷屋より入っております。ご学友が救助を必要とされているとのことですが」
渡された電話機を受け取る手が震える。
「もしもし・・・」
「若様、先日、若様と店に来てくれたお友達の男の子が、若様に連絡してほしいって泣きながら訴えてまして」
次男こんちゃんの声だった。こんちゃん、それは、明楽君だよ。
「明楽君が泣きながら、稲荷屋に来たんだって。私に会いたいって泣いているって」
「くそっ、遅かったか」
お祖父さまが、牧田に大至急、車を用意するように指示している声が、何故か遠くで響いているような気がした。
魔力暴走なの?違うよね、明楽君・・・?




