会議は踊る、されど進まず
真護の口元を拭ってやって、戸口で身だしなみをチェック。瑞祥の前で、だらしない格好だと嘉承の山賊親子にどやされるんだよ。真護も東条だから、身内とみなされ、確実に殺られる。
「お父さま、失礼します」
ドアを開けると、白皙の紳士が笑顔で迎えてくれた。
「真護君、いらっしゃい。ふーちゃん、お帰り。今日は大変だったみたいだね」
「先生、ごきげんよう。お変わりありませんか」
真護は西都公達学園幼稚舎で、お父さまにお世話してもらったから、いまだに先生と呼んでいる。こいつも大概、巨大な猫を飼っているよな。普段も被っていたらいいのに。
お父さまは、学園の法律顧問だけでなく、理事というお立場でもある。謎の陰陽師が明楽君に、西都公達学園に転校すれば、後は、西の公爵が何とかしてくれると言ったのには、そういう理由もある。
「高村明楽君って、稲荷屋さんまで一緒に行った子だよね?」
「うん。高位の風の魔力持ちではないかと思うんだ。ね、真護?」
「はい、私もそう思います。一般家庭の先祖返りにしては、魔力が大きいように感じました」
真護、どうした?まるで、都の公達、貴族家の嫡男のようじゃないか。
「そう。風の魔力のことは、嘉承家とあちらの四侯爵家に訊いた方が間違いないけど、そんな子がいるんだね」
そうなんだよね。あの明楽君の魔力は、真護の言う通り、一般家庭に時々生まれる先祖返りのレベルじゃないんだよ。となると、どこかの風の高位の貴族家の庶子ということになる。実父が養育を放棄または、何らかの事情でできないのであれば、風の子は、嘉承が保護しなくてはならない。と言っても、私も真護もまだ子供で、先祖返りではないと言い切れるほど自信があるわけはないからね。ここは素直に、大人に動いてもらう方が間違いがない。
お父さまとお茶を飲んでいると、お祖父さまと、嘉承の四大侯爵家の当主の到着を牧田が告げた。お父さまと真護と三人で立ち上がって迎える。
「お忙しいところ、不比人の急な依頼に応えて下さり、ありがとうございます」
年齢は下だけど、位はお父さまが一番上になるため、お父さまから声をかけない限り、侯爵家は当主といえども口をきいてはいけない。
「皆、座ってくれ。先ずは、不比人と真護に、今日、学園であったことを報告してもらおう。牧田、お茶を持ってきてくれ。濃い目の緑茶で頼む。皆も、それぞれ、好きなものを牧田に言うといい」
お祖父さまが、皆に着席を促す。普段は山賊の頭だけど、こういう緊急時は、流石に公爵っぽいな。
お茶が出てきて、皆が一口飲んだところで、お父さまが目配せしてくれた。
「それでは、今日のことを報告させてください。東条の君も、その場に居合わせたので、同席してもらいました。千台から来た高村明楽君ですが、風の魔力持ちで、間違いなく、伯爵レベルに近い高位ではないかと思われます」
上座にお父さま、長テーブルの対面にお祖父さまが座り、その左右に風の東条と火の西条の当主が座る。真護の父である享護と西条家当主の英喜だ。こうしていると、とてもバカと厨二の家には見えない。真護は、父親の横に座っている。私も瑞祥のお父さまの横に席を設けてもらっているよ。
東条と西条の横が、それぞれこちらも風の南条と火の北条。アラフィフダンディーの色気が駄々洩れの南条織比古と無表情で能面のような北条時影だ。
「本当に先祖返りではないのか」
モノトーンの北条の声に、ダンディー南条が
「誰かオイタしちゃってるね。どこの家の子かな。実は享護の息子だったりして」
と楽しそうに言う。
「俺より、どう見ても、お前の方が怪しいだろうが。やるのか、ゴラァ」
東条父、この緊迫感を見事にぶち壊してくれた。やっぱり真護の父親だね。二人とも黙っていたら、顔はいいのに。薄~く流れている母方の瑞祥の美貌が台無しだよ。
「不比人と真護は何で先祖返りではないと思うんだ」
祖父の質問に、真護と目を合わせた。私が頷くと、真護が答える。
「高村君の【風切り】は、瞬間風速だけで言うと私よりも強かったんです」
皆が同時に瞠目した。真護はバカだけど、風の侯爵家の嫡男だ。魔力も多い。風の力を至上と信じているだけあって、こと風に関しては、誰よりも素直に感知する力がある。その真護がそう言い切るなら、間違いはないんだろう。真護に続いて、私もお祖父さまに答える。
「私に話をしてくれたんですが、どうも【風壁】も使えるようなんです。生まれた頃から、魔力があったのは分かっていたそうですが、二年前の大厄災のせいで、お母様が明楽君の魔力のことは隠して育てたそうですから、使い方を習ったはずがないんです」
【風壁】は【風切り】よりも大きな魔力と繊細な魔力操作がいるため、まだ真護でも完全に使えていない。それを明楽君が使ったということは、いよいよ先祖返りとは考えにくい。七歳児の【風壁】と聞いて、大人たちが、ほぅと息をもらした。
「やるねぇ。もう、その子、私の子でいいんじゃないですか。引き取ります」
南条織比古が手をたたいた。そういう問題じゃない。
「まぁ、お前か佳比古の子にすれば、世間も納得しやすいがな。そういう問題ではないだろう」
お祖父さまが、ずずっとお茶を飲みながら仰った。佳比古というのは、先代の女たらしで、痴情のもつれで、学園で刃傷沙汰まで起こしたお祖父さまの同級生だ。とんだR18指定一家じゃん。いくら風の侯爵家でも、そんな家に私の癒しの豆柴ちゃんは引き取らせないよ。




