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お公家の事情 火にも水にもわがあらなくに  作者: 英じゅの
黄色いおにぎりと練りきりの猫
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やんごとなき彼の方のこと

陰陽頭のお墨付きで、晴れて魔力量特大の完全四属性という公表を受けて、翌日は、八条侯爵家の各当主や分家筋からお祝いが雪崩のように舞い込んだ。お祖母さまが、侍女の和貴子さんと、そのお嬢さんで同じく侍女の由貴子さんをお手伝いに派遣して下さったので、二人は開封と仕訳、お父さまと私はお礼状の作成と、朝から、まともに食事を摂る時間もないほど忙しい。普段、付き合いどころか、聞いたこともない帝都の家々からもお祝いが来ているからだ。


「掌返しもここまでくると、清々しささえ感じるね」


瑞祥のお父さまの苦笑に、和貴子さんと由貴子さんも「ええ、本当に」と困り顔で頷いた。帝都には嘉承の父のアンチが多い。それは、「え、なんとなく?」という理由にならない思いつきでつけた私の名前のせいだ。


この国の貴族のほとんどは、ある貴人を始祖と信じている。歴史上、初めての政変、クーデターを率いたといわれる、やんごとなき方は、討ち取った男の呪いが生まれたばかりの皇子に及ぶことを恐れ、最も信頼する朝臣あそみに、自身の息子として育てるように命じた。こうして、皇子は朝臣の家の嫡男となった。くだんの朝臣は、元々は中位の貴族だったが、政変での功績をもって陞爵し、その後、一族は数百年に渡り、欠けたることのない望月のごとき栄耀栄華を極めたと言われている。


この皇子は、やんごとなき方が唯一愛したとされる月読つくよみの女神もかくやという佳人が産んだ、ただ一人の御子ということで、臣籍降下してもなお皇子のように処遇されたそうだ。比ぶることのなきお立場の君の御名は、不比等。


彼の君には、数多の超人的な伝説が残されていて、今でもそれを信じている貴族家は多い。偉大な、秘められた始祖の名には、各家なりに思うところがあるらしい。


「始祖様が完全四属性だったからね。ふーちゃんにおかしな妄想を抱くような人がいなければいいんだけど」


私のせいではないけど、お父さまの憂いの根源に自分がいるのがつらいわ。


なんとなく、重い空気の中、無言で作業を続ける。由貴子さんが作ってくれたリストの中に、知らない名前の家が並び始めた頃、牧田がワゴンを押して現れた。


料理長が気を利かして、ワンプレートのお昼を用意してくれたようだ。

「あ、茶巾寿司だ」


黒のお皿に、ミツバの緑や海老の赤が、薄焼き玉子の黄色と映えて綺麗。これはテンションがあがる。茶巾寿司、ころっとしたフォルムが可愛いし美味しいよねぇ。西都では、食事は大事な文化で、味は言うまでもなく、目に楽しいことと、季節を感じさせることが神髄とされる。


その位置と、古都ということもあって、古い食文化を継承しているせいか、実は西都では、生ものを食べることが少ない。基本、保存食のような酢や塩をふんだんに使った棒寿司・押し寿司のようなものか、茶巾寿司や散らし寿司のように、一旦、火を通した食材を使ったものが普通だ。もちろん、握り寿司も食べるけど、帝都や、食の首都と言われる逢坂おおさかに比べると頻度は低いし、お店も圧倒的に少ない。巷で聞く、廻るお寿司を逢坂まで食べに行くのが、私の密かな野望だったりする。


茶巾寿司を頬張っていると、お茶のお替りを持ってきた牧田が申し訳なさそうに、来客を告げた。貴族家の付き合いでは、休日の午後に、他家を訪問するのは礼儀に反するとされているからだ。

「だれー?」


牧田が答える前に、お祖父さまと同じような年齢の老紳士がひょいと戸口から、顔を出した。


「ずいぶん遅い昼餉だな。瑞祥の君、食事時にお邪魔してすまないね」

「あ、霊泉れいぜん先生だ」


霊泉先生は、西都大学の教授で帝国の歴史の権威で、お祖母さま非公認のファンクラブ「瑞祥の姫をお支えする会」の会長だ。お支えする会が多いな、瑞祥家。


お父さまは、正確には瑞祥の殿になるんだけど、霊泉先生は、お祖母さまや、嘉承のお祖父さまと同級生なので、いまだに代替わり前のように君と呼ぶ。ちなみに、霊泉伯爵家も親戚。


「いえいえ、ちょうと霊泉のおじさまをお尋ねしなくてはと思っていたんですよ」

「そうだと思ってな。私に構わず、ゆっくりと食事を続けてくれていいから。牧田、私は待たせてもらうから、今日、姫がお茶の時間に召し上がるものと同じお菓子を出してくれ」


・・・自由だ。

なんというか、お祖父さまの世代って、八条家にしても、先生にしてもフリーダムが過ぎる人が多いんだよ。


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