第48話「お泊り採取旅行準備 ~野外食糧~」
服屋、旅道具屋と渡り、最後に行った店は、ハンター向けの行動食料専門店だった。
専門店ですよ、専門店。
わたしのいた日本では、キャンプへ行くからといってキャンプ用品屋で売ってる携帯食料しか買わないなんて事はない。キャンプする日数が少なかったりすれば日持ちしない食材でも問題ないし、旅の途中でスーパー寄ったりして買い足せるからだ。下手すりゃ毎日買い出しするキャンプだってあり得る。それにスーパーで手に入る物でも、軽くて日持ちする食材は色々あるしね。
携行食ならお手軽なところでカロリーバー。袋ラーメンは常温で持ち運べる高カロリー食だ。乾物コーナーに行けばお味噌汁に入れる乾燥野菜とかあるから、ラーメンの具にも使える。お湯で溶く即席味噌汁も、常温で持っていけるね。あとあの世界には、レトルトパックやフリーズドライっていう横綱がいるからなあ。
そんなわけだから、キャンプ用品屋で売ってる、軽くて保存も効いて、おいしい高性能な携帯専用食料に頼る事はあんまり無い。レパートリーも多いとは言えないし、何より薄利多売できるほど量売れないから高価。
途中で補給のできない長期登山や探検隊なら仕方ないけどね。
一方でこちらの世界では、ハンターや探検者は一般的な職業なので、従事している人も多いから、その人達が買う携帯食料の量も必然的に多くなる。携帯性に優れて保存も効く食料を専用に扱う店が、薄利多売出来る環境がここにはあるのだ。
だけどいかんせん、この手の食料を美味しく作る技術が、こちらの世界にはない。わたしの元いた世界だって、携帯保存食の先端であるミリ飯が、全部美味いのかといえばそんな事もないみたいだしね。現代でもこの程度なんだから、中世程度のレベルのここならなら、さもありなんだ。
つまりそれほどに、この分野は難しいということなのよね。
「いらっしゃい」
お店のドアをくぐると、そこは複雑な匂いが入り混じった、なかなかに濃い空間だった。
「結構強烈なにおいだね」
「まあね」
店の中を歩いて観察すると、においの元は、乾燥した肉や塩漬けの肉、酢に漬かったらしい色々な物だった。1つ1つはまあいい。だけどそれが一同に会するとなると、すんごいニオイになる。
「どれくらい買っとけばいいの?」
「旅程1週間として、半分の4日分は持っていこう。後の半分は狩りで賄うよ。今回行く所は、水については途中に給水できるポイントがあるから、そっちは心配いらない」
「4日分、ていうと12食? それで3人分だと36食? うわあ、凄い量! 実際の食材で言うと、どれくらいの大きさになるの?」
「旅行中は1日2食だね。合間にお茶休憩を取る感じだ。4日だとパンは1人、この1斤が目安だね」
その1斤は、ちょうどスーパーでよく見る、大手メーカーの6枚切り食パンが入った袋のサイズだった。だけど手にしてびっくりした。
「お、重い! んで硬い!」
それはもう石だった。石のように硬くて重かった。
「ははは。年寄りは歯が欠けるなんてよく言うよね。そのままかじったらだけど。普通はスープに入れて柔らかくして食べるんだ」
「そうなんだ。びっくりした。スープはどうやって作るの? 具は何を入れるの?」
顆粒のスープの素をお湯で溶かせばいいってわけじゃないよね?
「塩漬け肉と、乾燥玉ねぎとかの乾燥野菜だね。これを一緒に煮て食べる。塩漬け肉と乾燥玉ねぎのパックも、だいたいパン1斤と同じ大きさだよ」
リネールさんは棚からそれぞれ取ると、台の上に乗せた。
「これで1人の4日分」
食パン1斤サイズが3つだ。重さは5倍ぐらいありそうだけど。塩漬け肉は半乾燥していてだいぶ水分が抜けており、見た目より軽かった。乾燥玉ねぎはもっと軽い。
「思ったよりコンパクトね。スープにして食べるから、水でかさが増えるのかな」
「パンも2倍くらいに膨らむしね」
「ふーん。携行食としては意外と完成されてる感じがするわ。でもこれだと、毎食同じメニューだよね?」
「採取旅行だもの。それは仕方ないさ。でも3人いるから、それぞれ違うものにすれば、味は3種類できるよ」
「なるほどね。でも毎回スープなのよね?」
「そこに彩りを加えられるかは、どれくらい現地調達できるかによるね」
「なるほどね。そこはサンドラちゃんに期待だなあ」
「ハーブなんかで味にアクセントつけるのは、きっとできるよ」
「うんうん」
「マヤちゃんの知識で、もっと良いものにはできないの?」
「うーん……。わたしの国で保存効くのっていうと缶詰瓶詰だけど、あれもかさばるもんね。
あとはレトルト食品かぁ。でもそのまま食べられるだけに、水分多いから1食分でも結構かさばるのよね。
一番いいのはフリーズドライだけど、あれは家庭では作れないって言ってたから、ここでは実現できそうにないわ。
ビーフジャーキーやスルメイカなんかは、ここにもあるかな?
うーん、そう考えると、味はいいのかもしれないけど、ここにあるの程のコンパクトさがないなあ。かさばったり重たかったりしたら、わたしが持てないだろうし……。お手上げだなあ」
「なんか、何言ってるか全然分かんなかったけど、マヤちゃんでも難しいんだね。ちょっと残念」
「歩きでないなら、レトルトを研究してみたいけどねえ。そういえばお米ってないの?」
「お米? どういうの? リネールさん知ってる?」
「米って麦じゃない、似たような穀物だっけか? 南の大陸の方じゃないと栽培してないんじゃないかな」
「わたし、知らなーい」
「えー、お米ないのお!?」
「うわ、マヤちゃんが凄いショック受けた顔してる……」
そりゃあそうだよ。日本人にはコメの飯だよ。やっぱりお米のご飯食べないと、いつか調子狂っちゃうよ。
でも一応、南の大陸なるところなら栽培してるんだ。この世界にもお米あるんだね。いつかは手に入れなきゃ。それにご飯が炊ければ、乾燥させるとアルファ米、乾飯が作れる。携行非常食にもなるしね。
「それと、麺類も見たことないけど、作ってないの?」
「それはどんなのだい?」
「小麦粉に塩と水を混ぜてこねて、細く切って、お湯で茹でて食べるの」
二人は思い当たらないようで、お互いの顔を見合わせて首を横に振った。
そうかぁ。パスタも中国の麺が伝わったのが元祖らしいからなあ。少なくともこの辺にはまだないらしい。うどんくらいなら、わたしでも作れるかな? 麺が作れれば、油で揚げれば即席麺にできるんじゃないだろうか。
「うーん。思い付くものはあるけど、研究してみないとなものばっかりだな。明日すぐ持っていけるようなものは、残念ながらなさそうだよ」
「そう。仕方ないよね。それじゃリネールさんに現地調達を頑張ってもらおう。調味料は多めに持っていくよ」
「うへえ。そうやって当てにされると、俺本番に弱いんだよなあ」
「リネールさあん、頼りにしてるわあ」
「マヤさん、心にもないこと言ってるのが顔に出てるよ」
「あれえ?」
サンドラちゃんは別のコーナーに行くと、棚のものを見比べて幾つか選んだ。
「他には、お茶と、お茶休憩の時につまむドライフルーツとナッツ類ね。非常用のペミカンは今回はいいよね?
これをみんなで手分けして持っていこう。孤児院の子達は、多分こういうのには手が回らないと思うから、少し多めにしよう」
昼間に取る、お茶とお茶うけらしい。と言っても並べられたものを見ると、重要なエネルギー補給だと分かる。ナッツ類は脂質が多い高カロリー食。ドライフルーツの糖分は、即活動エネルギーになる。
「ドライフルーツって割と重いんだね。あ、値段も高い」
「うん。だから孤児院の子は買えないのよ」
「そうかあ。じゃあわたしが買っていってあげよう」
「あ、お金持ちのマヤちゃんの登場だ」
「それ以上稼いでくればいいのよね?」
「そうなんだけど、普通のFランクの野草採取だと、買取が安いのが多いから、装備や食事にお金かけちゃうと足が出ちゃうの。今回のアイポメアニールは元々高いし、1.5倍で買い取るっていうからいいけど」
「なるほどね。そこのバランスが難しいんだ。そうすると泊りがけの薬草採取って、元取りづらそうね」
「そういう時は他の依頼と抱合せにするかだよね。薬草はほとんど常時買取してるから、ランクが上がってくると、ついでに取ってくるっていう風にスタイルが変わる人がほとんどね」
「薬草採取専門でランクアップして食べていくのも、大変そうだなあ」
わたし達は4日分の硬パン、オーク・鹿・ジャイアントモア(ダチョウのでっかいの)の塩漬け肉ブロック、乾燥野菜ミックスと、ミックスドライフルーツ、ミックスナッツ、塩、各種香辛料、2種類の醤、ピクルスの瓶詰、お茶の葉2種、砂糖楓の蜜を買い込んで、お店を出た。
ずしっ。
ザックには自分の分の主食料とドライフルーツが入ってる。既にキャンプ用品屋で買った野営道具も入っている。これだけでめっちゃ肩に食い込むんですけど。他に採取道具と、調理器具、武器防具、水を持っていくわけね。そんでもって帰りには薬草が加わると。自衛隊でもないのに、これで野山を行軍ってどんな苦行よ。
「宿に戻るだけでバテそう……」
「遅れたら置いてっちゃうよ~」
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