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異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~  作者: RightWorld
第1章 マヤちゃん、異世界に立つ!

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第3話「異世界村リトバレー ~その1~」

 

 今わたしは、サンドラちゃんの住む村「リトバレー」にいる。サーベルタイガーのお肉を運ぶ列にくっついて、わたしもサンドラちゃんの村まで歩いて行ったのだ。


 サンドラちゃんの村の男性人口の半分近い20人程が集まって、サーベルタイガーの丸焼きを運び込んだ。

 そうそう、物を持ち上げるという法力を見たよ。胴体から手足を切り離すときに空中に浮かせて切りやすいよう回転させたりしてた。実用的でよい法力だね。

 それと驚くことに、こんな山奥の村人のくせして、皆金髪の白人のイケメンなのだ。

 ここは腐女子の為のアルカディアか!? いや、わたしは腐女子ではないぞ? 至ってノーマルな女子高生だ。

 せっかくのイケメンなのに服装が田舎っぺでダサいけど、それは時代的にも仕方ない。とにかくお伽噺のような世界に紛れ込んでしまった感じだ。転生してる時点で洒落でなくお伽噺そのものに紛れ込んでる状態だけど。


 解体と運搬のお手間賃にと差し出したサーベルタイガーの足の肉には、「そんなところ畏れ多い」と村長さんに断られてしまった。代わりに普通は捨ててしまっている内臓部分を提供することになった。


「肝臓とかの栄養ある一部だけじゃなくて、全部ですか?」

「はい、お許しが貰えるならですが。大型獣類は運ぶのが大変なので、普通は内臓は取り除いて捨ててしまい、肉だけ持って帰るんです。ですがここなら村に近いので、少しの苦労で持っていけますから」

「内臓は新鮮でないと食べるなんてできないところですからね。でもここなら鮮度十分な状態で持って帰れます。捨てるなんてもったいない」


 なるほど。冷蔵冷凍技術のなさそうなこの世界、内臓なんて捕まえたその場か、村で解体するような場合でないと、きっと食べられないに違いない。ここで捕まえた恩恵は、最大限生かさないとってわけだ。


「内臓も余すところなく食べてもらえるなら、サーベルタイガーもうかばれると思います。皆さんで活かしてあげてください」

「有り難く頂戴いたします、マヤ様」


 アルフレッドさんという村長さんは40歳くらいの男の人だ。これで村で一番偉い人なんだから、平均寿命が短いか、相当頭が切れるかのどっちかだろう。

 そんな村長さんが、自分の娘くらいのわたしにこのような丁寧な対応をする。あのタイガーには犠牲者も出しているらしいので、それを仕留めた凄い人の弟子ってことで、ずっと一目を置かれっぱなしなのだ。こっちゃ本当に何もしてないってのに。


「あはは、様は止めて下さい様は。普通にマヤでいいです、呼び捨てで。何度も言ってる通り、仕留めのはお師匠様で、わたしは餌役でしかなかったんですから」


 実際エサになる寸前だったし。


「そんな畏れ多い。……ではせめてマヤさんで」





 村は小さな谷間に作られていた。谷の真ん中にはきれいな水が流れる小さな川があり、左右の川縁には畑、その後ろの少し高い位置に家が建っている。谷の奥はすぐ山なので、この川の源流もその辺にありそうだ。

 背後の山の奥には、さらに高い山がそびえ立っていて、頂きには雪が残っている。その山というのがまるで壁のようで、横にずーっと連なっていて、靄の向こうに消えていっていた。どこまで続いているんだろう。


 村の広場でサーベルタイガーの解体が行われているのを、切り株に座って眺めつつ、お師匠様のザックを開けた。そして皮表紙の手帳を取り出す。システム手帳のようなそれには、お師匠様の目的地が記されているはずなのだ。

 パラパラとめくると、殆ど白紙だった。痛みも殆どないので、新しい手帳のようだった。そしてお師匠様は筆無精だと察する。旅の道中の出来事を書き留めた風もない。

 そして3分の1くらいのところに、丸い円と何かが描かれたページがあり、2ページ飛ばしたところに手紙が挟まれ、そこにも何かが書かれている。


『神魔鉱石を1500度で10分。細かく叩き砕き、2500度で1時間。後はいつも通り。』


 ナンダコレ。お料理の手順にしては材料と温度が斬新すぎる。それより字が読めた事にホッとした。見たこともない字だったのに、何故かスラスラと読めたのだ。転生の特典だろうか?


 次に手紙を開く。

 なんとも字数の少ない、あっさりとしたものだった。


『観測者がナーズとジュピラルの急接近を告げました。準備が必要になりました。

 ターニャ・タウエルン』


 さっぱり分からない。誰だかが急に仲良くなったから、結婚式の準備をしないといけなくなったとか? 悪の二大組織が急接近しつつあるから、対抗する為に準備しとかないととか? でもそういった事に“告げる”という言い方をするだろうか。

 そして告げた者は“観測者”だという。脳内の翻訳ミスかな? 監視者とかでは? でも監視者ならなおさら“告げる”というのはおかしいか。急接近しているとか、接近の兆候があるとかって“報告”するもんだろう。

 そうすると人ではなく物? それか魔物とか? 魔物ならいい線行きそうな文章よね。


 とにかく“観測者”、“ナーズ”、“ジュピラル”が何なのか分からないと理解できない。

 あと肝心の行き先が分かんないじゃん! 差出人がターニャ・タウエルンという人だということだけだよ。よっぽど有名人なのかな。それだけで居場所が分かるくらいの有名人である事を祈るしかない。


 切り株の上で難しい顔をして俯いていたわたしを、心配した村長さんが声を掛けに来た。


「どうかなされましたか?」

「あ、いえ。ちょっと考え事を」

「おや。何かお困り事とか?」

「ううん、そうですねえ……」


 いかんな。これでは困っていると自ら言ってるようなもんじゃん。


「あちらでお茶でもどうですか?」


 ほれ気遣われてしまった。


「お茶でもしながらお話ししましょう。我々で役に立てる事があるかもしれません。お礼もしないとですしね」


 誘われるままに広場の隅にある東屋へ移動した。





 東屋のベンチに座ると、サンドラちゃんがお茶の用意をしてやってきた。陶器のティーセットに、小皿とお茶請けらしきもの。陶器は茶色の地味なものだ。お茶請けはドライフルーツのようだった。

 サンドラちゃんがティーポットからカップ --持つところがないから湯呑って言った方がしっくりくる-- にお茶を注ぎ、小皿と一緒にテーブルに置いてくれた。サンドラちゃんは村長さんにも同じように置くと、ニコニコと言うか、何か期待に待ちわびたような顔で、お盆をお腹の前に置いてテーブルの横に立つ。


「いただきます」


 湯呑を手に取ると、まず漂ういい香りにうっとりした。ハーブティーだろうか。続いて一口飲む。すっきりした飲み心地に鮮やかな強い香り。ほのかな苦みは緑茶に似たような感じだろうか。そして暫らくするとお腹からぽかぽかと温かくなってきた。


「なんだか、身体が温かい」


 そして効能はそれだけではなかった。なんかこう、頭がすっきりしてきた。目も覚めたような感じになる。


「なんだろう、頭がすっきり……冴えわたるような感じ!」


 サンドラちゃんは嬉しそうに微笑んだ。


「わたしの法力に掛けたリトバヨモギを少し加えたの。何か考え込んでるみたいだったから、頭に効くのがいいかなって思って」

「これがサンドラちゃんの法力!? 凄いよ! それにこの場の為にそんな処方を何気にやっちゃうなんて、もしかしてサンドラちゃんは優秀な薬剤師さん?」

「薬剤師?」

「うちの村では薬師のまねごとをしてもらってます。少し前には本物の薬師がいたんですが、高齢で亡くなわれてしまったので、その人が残した記録を元に、サンドラと彼女の母とで代わりをやってもらってるのです」


 村長さんは少し自慢げだ。いや、自慢していいよこれ。


「そうなんだ。そう言えば、薬の効能を高められる法力を持ってるて言ってたもんね」

「お母さんの方が強力なんだよ」

「サンドラもまだ成長途中だ。じきに追いつくだろうよ」


 これは凄いなあ。文明は中世ヨーロッパくらいなんて思ってたけど、法力っていう魔法みたいなのがあるこの世界、馬鹿にしちゃいけなさそうだぞ。

 ちなみにご高齢と言っていた薬師さんの享年は60歳だったという。65歳定年に移りつつある日本じゃ、まだ年金生活もできないじゃん。やっぱりこの世界、平均年齢が短いみたいだ。

 お茶受けのドライフルーツはイチジクのようだった。きっと甘味は貴重なんだろうね。こういった果物を乾燥させて、糖分を凝縮させたものがお菓子の原点だそうだから、この世界もそれをなぞっているんだろう。


「それでマヤさん。何かお困り事でも?」

「あ、はい」


 サンドラちゃんも残って耳を傾ける。


「ナーズとかジュピラルって聞いたことありますか?」


 村長さんとサンドラちゃんは顔を見合わせる。しかしどちらも首を傾げた。


「聞いたことありません。何かの名前ですか?」


 うーむ、この人達も知らないか。もしかすると暗号とかかな。


「分からないですか。……そしたら、ターニャ・タウエルンって知ってますか? たぶん人の名前だと思うんですけど」


 これまた村長さんとサンドラちゃんは顔を見合わせる。そしてどちらも首を傾げた。これも有名人とかではなさそうだ。


「実は、お師匠様が行こうとしてたところみたいで、わたしに託されたんですけど、肝心の場所を聞きそびれてしまって、どこへ向かえばいいのか分かんなくて……」

「普通に考えれば、そのターニャさんはタウエルンの人でしょうね」

「え!?」


 驚くわたしにサンドラちゃんが説明してくれた。


「マヤちゃんは外国の人だから、こっちの常識とは違うのかもしれないですよ。この辺の国では、偉い人でない限り苗字を持ってないから、外で名を名乗る時に出身地を付けることはよくあるの。わたしならサンドラ・リトバレーってね。ここが貴族領でわたしが領主なら、サンドラ・オヴ・リトバレーって名乗れるんだけど。あれ、なんかかっこよくない? 村長さん!」

「はっはっは、ここを独立国にしたらそう名乗れるね」

「なるほど。村長さんは、そうは名乗れないの?」

「ここはヘキサリネ独立領の一村落でしかないからねえ。私はアルフレッド・リトバレー村長、それで終わりです。世襲でもないですしね」


 ふーむ、村長でも俺の村だって言っちゃいけないのか。加減が分かんないな。


「そうですか。それで、タウエルンって場所は実際あるんですか?」

「おそらく、西の外周街道にある町のことですね」


 あるんだ。よかったあ。


「マヤちゃんはそこへ行くの?」

「そうだね。ここからは遠いの?」

「遠いですね。領都から西へ駅馬車乗り継いで5日くらいでしょうか。領都まではここから2日です」


 1週間もかかるのか。当然お金もかかるだろうし。まずはサーベルタイガーを換金するのを優先しないとかな。それでそのお金で旅支度整えてと。

 その前にもっとここの世界の事を知らなきゃだ。手紙の感じだと急いだ方がよさそうだけど、わたしがたどり着けなかったら意味がない。お師匠様もこれを託すことの優先順は低かったし。悪いけど、慎重にさせてもらう事にしよう。


「あの、わたし路銀とかがないんです。だからわたし、あのサーベルタイガーを売るしかなくって……どこかで買ってくれますかねぇ?」

「領都で売るのが一番ですね。この村じゃ買い取れませんし、私達も自分達で食べるようなことはせず売りに出すでしょうし」

「あの、お手間賃追加しますから、売るの手伝ってもらえますか? 運ぶのとか、どこに売ればいいのとか、殆ど頼るしかないんですけど」


 わたしがお願いしますと両手を胸の前で組むと、サンドラちゃんも同じように手を組んで、村長さんを懇願するように見つめる。村長さんはにっこりと頷いて返した。


「勿論です。お手伝いさせてください。手間賃はもう貰いましたからご心配はいりませんよ」

「わあっ、ありがとうございますう!」




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