第38話「炸裂オキシジェン・デストロイヤー! 世紀末ハンターにも引導を渡します」
魔素を吸って覚醒した12匹のアンフィスバエナ。両端にある頭の脇が分岐し、もう一つ頭が現れた。双頭のヘビが、4つ頭の魔蛇へと変化した。
「いやああああ! ヘビの頭があんなにたくさん!」
にょにょにょにょにょとタケノコのようにヘビの頭が生えてきて、横一列にずらりと並んだので、マヤが悲鳴を上げた。
12匹で48個の頭。それ全部が猛毒を吐くのだ。48の頭が一斉に口を開けて、こっちへ向かって動き出したのを目の当たりにすれば、マヤが錯乱するのも無理なかった。
「ひいーっ、酸素切断ーー!!」
左右の指先10本に高圧酸素噴出点を出現させ、右から左へ両手を振り払った。
目に見えぬ水平に飛ぶ10本のエアカッターが迫るヘビへ向かった。
「「「「「なにいいいー!?」」」」」
一部始終に目を離せなかった敵味方全員が絶叫した。
なにしろ48あった鎌首上げたヘビの首が、一瞬で薄切りの輪切りになったのだ。
その中で、さんざんマヤの尋常でない法力を見てきて耐性を持っていたリネールだけが、正しいアドバイスをすることができた。
「マヤさん、魔素瘴気を取り除くんだ! 魔物は魔素で強くなるんだ!」
「ええ!?」
「街道でやったあれーっ!」
「はっ! あれね!」
マヤは上に向けて両手を広げる。
「酸素充填 広域発動!」
周囲一帯を酸素の膜で覆って、その中の酸素濃度を上げる。
「縮めていきますよ!」
まずは地面から自分たちの頭の上あたりまで地上付近を掃除し、それから高さ、横幅を縮めて1ヶ所へ。
酸素の膜は触れた魔素を魔石の結晶に変えながら、次第に小さくなっていく。魔素に触れた時キラキラと光るので、膜が小さくなっていくのが目で見える。
魔術師からはブラウシュテルマーが撒いた瘴気が集約されていくのが、酸素の膜などなくとも直接目で見えていた。
震える声が口から洩れる。
「う、うそだ……まさか、これって……」
驚愕で見開かれた目が、いきなり現れた黒髪の少女に向けられる。
マヤの頭上に、直径3m程にまで縮んだ酸素の膜の球が浮かぶ。
「仕上げるよ。酸素分子振動!!」
膜の中へさらに酸素を供給しつつ、酸素分子を激しく振動させる。
酸素分子は魔素と結合し、球の中は花火のように激しく、そして眩しく閃光を放った。
やがて光は発しなくなり、地面には極小の魔石結晶で砂山ができていた。
黒紫に霞んでいた空は、今やクリアになったことを表すように青空だ。
ケンは魔素計を見て目を丸くした。
「魔素レベルが0になってる」
「なんだって!?」
空が暗くなるほどに濃かった瘴気。風で吹き飛ばすにしても、数時間続けるならともかく、この僅かな時間で完全除去にすることなどできない。
魔石結晶の山の前で、魔術師がガクッと膝を折った。そして驚愕の目をマヤに向け、恐怖に震える声で絞り出すように叫んだ。
「オ、オ、オ、オキシジェン・デストロイヤー!」
「えっ!?」
その誰にも語ったことのない法力名を、見も知らぬ、正体も分からない魔法使いのような人に叫ばれて、マヤは驚いて肩を飛び上がらせた。
魔術師はギリリと歯を食いしばると、杖を高く上げ、魔法陣を展開した。
「光の精霊よ、赤の光を高く、遥か山の上まで打ち上げよ!」
杖の先からシュバッっと小さな音を立てて、ロケットのように赤い光の玉が空高く上がった。それは見えなくなるほどに、どこまでも上がっていった。
そして魔術師は立ち上がると、なおも震える杖を上げた。
「オ、オキシジェン・デストロイヤーがもうこの地にいようとは。だが次も同じにできると思うなよ!」
それはマヤに向けて放たれた言葉だった。当のマヤは当惑を隠せない。
「火の精霊よ! 我の中で、我の全ての魔力を使って火炎となれ!」
とたんに魔術師のローブが燃えだした。
「全火力を以って、内部から我を燃やし尽くせ!」
上を向いた魔術師の口から炎が吹き上がった。
「きゃああ!」
魔術師はさっきマヤが火を煽った時以上に紙のように燃え上がり、燃えカスの紙が舞い上がるように体が塵となって、空へ拡散していく。
マヤも、他の者達も、唖然と見守るしかなかった。
そして地面に僅かな焦げ跡だけを残して、魔術師は呪文の通り燃え尽きてしまった。
「ぬおおおおお!」
一瞬の静寂を破ったのはゲルデだった。
「魔法使いが消えちまったぞおおお!」
ドスドスと焦げ跡までやって来て、手で地面をあさるゲルデ。
マヤはその大男が、ギルドで会った世紀末ハンターだとようやく気付いた。
「あんたゲルデ様じゃない! ヘビ捕まえる依頼はどうしたのよ! この辺ヘビだらけじゃん! ナニ背中に変なのつけてるの!」
背中に何か突き刺さるように飛び出ているものを、マヤが叩き落とした。それはパキンと割れ、地面に落ちて砕け散った。ゲルデを操っていた魔石結晶だった。
ゲルデはカクンと一度首が落ちたが、すぐ持ち上がった。
「うおお!?」
急に目を覚ましたように目を彷徨わせる。
「おお、お、お、お前は、今朝の生意気なFランクじゃないかあ!」
その時、ぬおおおっと2人の背後に丸太サイズのアンフィスバエナが首を持ち上げた。片方の頭はクーノに切り落とされていたが、短いながらも濃い魔素を浴びたせいか、もう片方の首が二股に分かれ、頭が2つになっていた。
「げあああああ!?」
「ぎゃああああ!?」
同時に飛び上がるゲルデとマヤ。
「ゲルデ様、早く仕留めてよ! これ依頼の頭2つあるヘビでしょ!?」
「ば、ばかやろおおお! 片方に頭が2つあるのは、もうCランクのアンフィスバエナじゃねえええ! Bランクだああ!」
がばああっと2つの頭が大口を開けた。2連装猛毒噴射口が距離2mでマヤ達に向け発射準備を完了した。
明らかな格上を前に、ゲルデも抵抗する手立てが浮かばずに、ただ牙の生えた口をあんぐり見つめるだけ。
「逃げてマヤちゃーーん!」
サンドラの絶叫が響く。
「いやーーっ、固体化酸素!!」
カキィーーーン!
一瞬にして2連装の猛毒噴射頭が、四角い水色のものによって1つにまとめられて固まった。
水色のものは固体酸素。マイナス220度でヘビの頭は瞬間冷凍された。
頭は固められたが、胴体の方が抗うようにぐるぐると動き出す。習性なのか、胴で巻き付けようと、切断されて頭の付いてない方がマヤ達へずずずずっと這って来た。
「来ないでーーっ、液化酸素!!」
とばばばばばーー
液体が滝のようにアンフィスバエナに雪崩落ち、一瞬にして一帯がもわああっと白い湯気と冷気に包まれた。
叫んだ技名の通り、落ちてきたのは液体酸素だ。これもマイナス190度の極低温。白い靄の中で時たま見えるアンフィスバエナの姿は、コチンコチンになって真っ白い霜を被って、ピクリとも動かずに固まっていた。
「何でわたしばっかりやってるのよ! ゲルデ様も手伝ってよ!」
マヤがゲルデをどついた。だがゲルデは液体酸素の極低温冷気に当てられて、全身真っ白な霜で覆われ、身動きできなくなっており、ボールのように転がってアンフィスバエナに命中した。
どがしゃーん、パリーン、じゃらじゃらじゃらー
ガラスの石像が割れるような音を立てて、二股に分かれたアンフィスバエナが粉々に砕けた。
もはや声も出ない周りの群衆。
木っ端みじんになったアンフィスバエナの破片の中から、震えながらゲルデが顔を出し、寒さで紫色になった唇から声を漏らす。
「おおお、おま、おま、お前はああー」
飛び出さんばかりに目をむき出しにしてマヤを見下ろし、ゲルデが唸り声を上げる。
四方八方からも視線を感じ、もしかして? とゆっくり見回すマヤ。
誰もが目が点、という状態だった。
「し、しまった、やっちゃった!?」
さーっと血の気が引く。
人前でおいそれとやっちゃいけないと思ってたことを、なんかいくつもやってしまったような気が……
「お前、Fランクだろおおー! Bランク獲ったらハンター規則違反だぞおおおー!」
「ひへっ?」
「俺っちは見たぞおお、お前らも見たぞおおお、4階級差違反の実行現場だああー」
ゲルデの絶叫を聞いて、リエラはマヤとサンドラへ向けて、困惑したひっくり返った声で問い返した。
「ええ、マヤさんがFランク!? 大物狩りの実績者なんでしょ!?」
リネールが苦笑いした。
「ああ~、それってマヤちゃんがまだハンター登録する前だったんだよねえ」
ハンターは単独では自分のランク以下の獲物しか狩ってはいけない、上位者がいるパーティーに所属していれば1ランク上までは狩ってもよい、というのがハンターの規則だ。
ただしマヤはアンリミテッド・パーティーの例外資格を持っているので、参加したパーティーランクの獲物を狩ることができた。なのでBランクに覚醒進化したアンフィスバエナを仕留めるには、Bランク以上のパーティーに所属していれば問題なかったのだ。
ところが今回は狩りの練習のつもりで来ていたので、特に何の依頼も受注せず、パーティー登録もしてない。よって単独行動という扱いになる。
つまるところ、マヤは最低のFランクハンターとしての活動しか許されてなかったのだ。FランクがBランクを狩ったとすれば、4階級差の獲物を獲ってしまったことになる。
「4階級差違反なんて聞いたこともねえええ! てえめえは一生Fランクから上がれねえええ! げははははは!」
「ええー!?」
「お前、ギルドマスターじゃないかあ! 違反見ただろおおー!?」
よりによってこの場にはジオニダスがいたのである。逃げようがなかった。
状況は分かっているだけに、苦々しい顔しかできないジオニダス。
「貴様のような、仲間を見捨てた奴が言える事か!」
クーノが吐き捨てるように言う。フィリアも我慢ならずそれに続いた。
「それだけじゃありません! 女の子を毒ヘビの盾にしたんですよ!?」
「それは本当か?」
ジオニダスはゲルデを睨む。
「わたしも、フィリアさんもリエラさんも、みんな毒をひっかけられそうになったんだよ! 捕まえられて、毒ヘビの前に突き出されたんだから!」
サンドラもゲルデの余罪を許すまじとぶち撒ける。
「サンドラちゃん、そんな酷い事されたの!?」
「そうなの、マヤちゃん。怖かったの~」
「おおよしよし、可哀そうに。ゲルデ様を見損なったよ、えいっ!」
げしっとゲルデの足の脛を蹴りつけた。
「ぬおおおお!」
蹴られた足を掴んで悲鳴を上げてぴょんぴょん跳ねるゲルデ。
サンドラは、べーっとゲルデに向かってベロを出す。
「仲間のハンターを故意に危険に晒した容疑で捕縛する。弁解があれば戻ってからしろ」
ジオニダスの命令で、ゲルデは縛られ拘束された。
だが事態は予断を許さない。ジオニダスはすぐに次の指示を出す。
「ここで起きた事は後で皆から詳しく聞く。だが今は、ここから出るのが先決だ。急いで出発準備してくれ」
「「「うぉっす!」」」
皆は散らかった装備の回収や、怪我人の応急処置などに散って行った。
マヤは自分がやらかした跡を見回した。
ひとまず、まだ白い煙を上げている液体酸素と固体酸素の残りを回収。へたに触られて凍傷にでもなったら大変だ。
薄切りにした12匹や、凍って粉砕した巨大アンフィスバエナの体は、細かくし過ぎちゃって使えない。
瞬間冷凍した頭2個は、固体酸素に包まれてたから割れずに残っているので、これは使える。
「サンドラちゃん、この頭にもまだ毒液残ってるんじゃない?」
「そうだね。でもコチンコチンに凍ってるから、溶かさないと取れないよ。このまま持っていくにしても、子牛の頭くらいあるし」
「そうだよねぇ」
「それよりマヤさん。こっちの魔石の粉の方だよ」
さっきブラウシュテルマーが撒いた瘴気を除去した時にできたものだ。これは東国街道で同じことをやった時。ライナーさんが喜んで拾ってたものだから、きっと価値があるんだろう。ただ量が多過ぎる。これ持って帰るには軽トラが必要だ。
ふと見回せば、他のハンター達がこの魔石の粉を凄い気にしてる。これは皆狙ってる目だ。
リネールもその目に気付いてマヤに説明した。
「ヘキサリネの魔物は、魔素が薄いせいでろくな魔石が取れないから、ヘキサリネでは魔石は高いんだ。ここで一番換金率の高いのはこの魔石の粉だね」
「それで皆が目の色変えてるのか。でもこれ多過ぎるよね。みんなに報酬払うからって言ったら、運んでくれるのかな」
「それは無理だね。運んでもらった分はその人のになるっていうなら受けると思うけど、それってマヤさんにメリット全然ないだろ。どのみち頼んでも皆拒否して、マヤさんが持っていくのを諦めた時点で、ハイエナのように漁られるんだよ。それが嫌なら自分で持っていけよってね。でも自力では持っていけないから、結局指を咥えてるしかない」
「はあ~、誰も頼れないってことかあ」
「俺は持ってあげるよ? もちろん報酬なんかいらない。リトバレーの者はマヤさんに沢山の恩があるからね」
「ねえ、マヤさん」
「わお!」
急に首を突っ込んできたのはリエラだった。
「これって魔石の結晶よね。魔石を粉にしたのと同じものよね?」
「あー、はい」
「どうやって作ったの?」
リエラはミリヤ騎士団のチェスター中佐から、瘴気で汚染された東国街道をマヤがきれいにしてしまった話を聞いていた。その時は半信半疑だったのだが、まさか目の前で見れるとは思わなかった。実際に目にしても信じ難い光景だ。
「ブラウシュテルマーが撒いた魔素と、わたしの法力が出すものが化学反応して、これになったんですけど」
「ふーん? かがくはんのうっていうの? とにかくマヤさんは本当に瘴気を除去できるのね。さすがだわ」
うーん。この感じだとリエラさんはこの技の事、お師匠様から聞いてないみたいだな。わたし秘密をダダ洩れさせちゃってるなあ。
「ねえ、マヤさん。これ運ぶの手伝うから、少し分けてくれません? このままだとマヤさんが持っていけない分は、きっとハンターの皆が勝手に持ち去るに違いないわ。っていうかそれでも殆ど持っていけないでしょうけど」
「はい。リエラさんは運ぶ方法あるんですか?」
「フィリア、予備のストレージ解放してくださいな」
「えっ! もう一つ開けると、私明日動けなくなってしまいます」
「いいじゃない。休暇でも取りなよ」
「そ、それはメイド長のお許しが……」
「私が連れ回したんだから、一緒に謝りに行ってあげるわ」
「ねえ、やっぱりリエラさんはフィリアさんのご主人……」
突っ込みに入って来たサンドラを必死に否定するリエラ。
「フィリアはお友達ですもん。当然のことよ。ほっほっほ」
「それで、フィリアさん、まだストレージに入れるところあるんですか?」
「はい。実はもう1つ開けられるんです。ただ、なぜか分かりませんが、2個目は体力をどっと持ってかれるんです」
「大丈夫なんですか?」
「ええ、寝れば復活しますので。それでは開けますよ」
手で四角を描いて、またもぽかっと空中に穴を開けた。
リエラとフィリアは、身に付けていた装備品の小型シャベルを取り出し、せっせと魔石の砂を穴に放り込む。
「「「「ええーー!?」」」」
見ていたハンター達が目を点にした。
「な、なんだそりゃ!」
「え!? まさか持っていけるのか!?」
「くそっ、どうせ持っていけねえだろうから、沢山いただいてこうと思ってたのに!」
やっぱりハンター共はハイエナだった。
リネールとマヤも手伝って、軽トラに積むほどあった砂の山は、フィリアの予備だというストレージに全部収まった。ついでに凍ったアンフィスバエナの頭2個も隙間に入れてもらった。
「げええっ!」
「一粒も残ってねえ!」
「そのインチキな収納法力はなんだ! ずるいぞ!」
がっくりとうなだれるハンター達。
「残念でしたねえ」とほくそ笑むリエラである。
「それで取り分はどれくらい持っていきます?」
肝心の分配の話をし忘れていた。
マヤは8割くらい取られる覚悟でいた。どのみち自分で持てる量を超えた分は棚ぼたなんだから。
「3分の1でもいい? 取り過ぎかな」
「それでいいんですか?」
「もっとくれるの?」
「あ、じゃあ3分の1で」
「ふふ、いいわ。取引成立ね。フィリア、後でもらったのを二人で分けましょう」
「まあ、ありがとうございます」
「リエラさんも売るんですか?」
「私は自分で使うつもりよ。ヘキサリネは魔石の値段が高くってね。これだけあれば当分買わないで済むわ」
「お金には不自由してないんじゃないですか?」
「な、なんのことかしら? ハンター稼業は色々大変なのよ」
「自分のお遊びの分は、自前なんですね」
「遊びじゃないわよ」
大使館の壁に抜け穴作ったりとか、リエラには自前の軍資金がたくさん必要なのだった。
気に入ってくれたら、 また読んでもいいかなと思ってくれたら、
ブックマーク、いいね、ポイントで作品を応援してくれるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。
また入れてくださった方々、本当にありがとうございます。(^^)/




