第167話「マヤちゃん、凱旋する」
「俺達も領都に帰るぞ」
レオナルド王太子殿下の馬車列を見送ったヴェルディ様は、晴れやかな笑顔で振り返るとそう言った。
「途中で日が暮れません?」
「暮れるだろうな。だが魔石ランプを灯せば、夜道でも歩ける」
そりゃ歩くだけなら歩けるでしょうよ。懐中電灯を束ねたくらいの明るさはあったし。そうまでして急いで帰んなくてもいいんじゃないかな。それに夜行性動物が活発になって、闇の奥からいろんな鳴き声が聞こえてきて気味悪いから、そんな中歩きたくないなあ。
そんなこと思って渋い顔していたら、ヴェルディ様は素晴らしい提案をしてくれた。
「馬車を出してやるぞ。乗っていけばいい」
「本当ですか!? さっすがあ」
歩かずに領都に戻れるとなれば話は別だ。サンドラちゃんもリネールさんも大喜びだ。もちろんリエラさんとフィリアさんもだ。イレムも、本来ここに入っちゃいけないFランク探検者なので、あとは勝手に歩いて帰れとはいえず、同乗することになった。
ここまで乗せてもらったイグアノドンちゃんは、ここキャンプ・スプリングに留まる。しばらくは前線基地とを往復する仕事をするそうだ。
干し草をあげて、乗せてくれてありがとうねと頭を撫でた。
ヴェルディ様はキャンプ・スプリングにあった馬車を2台用意させた。ヴェルディ様の護衛兵が御者をやる。
一時魔物に占領されたけど、馬や馬車は何もされず残ってたらしい。おかげでわたし達は楽をできるのだ。
出発準備をする護衛兵達が、馬車の四隅の魔石ランプ(車幅灯?)に火を点けていると、先頭で道を照らす用のサーチライト式の魔石ヘッドライトが点かないと言い始めた。
「魔石がなくなってるようです」
「使い切ったか。補給品のところから取って来る。どこにあるかな、探さないと」
魔石ランプや魔石ヘッドライト、魔石懐中灯は、電池やオイルではなく、魔石をすり潰して粉にしたものを燃料にしている。魔石コンロとかもそうだ。使うと次第に消耗してなくなっていく。粉にするのは、燃料タンクの形状を自由に設計できるなどのメリットがあるからだ。採取した魔石のままだと大きさがまちまちだし、使いにくいのだ。
「魔石の粉ですか? わたし大量に持ってるんで、出しますよ」
兵士さんが取りに行こうとするので、わたしは呼び止めた。
「いいんですか? いやでも魔石は高い物です。探検者の私有物を使わずとも、国が用意した物がありますから」
ヘキサリネは魔素が薄いので、魔物の魔石も小さく、他の国と比べて魔石の値段がかなり高いらしいのだ。リエラさんでさえ高い高いと文句言ってたくらいだ。だから兵士さんが遠慮するのもわかる。
「でも倉庫探さないとなんでしょ? わたしのならすぐ出せますから。ホントに有り余るほどあるんで」
わたしはすぐ使える分を子袋に入れてザックに入れてあるので、それを取り出す。
ストレージの中には、空気中の魔素を取っ払ったりとか、魔導具を魔石化した時なんかに回収したものが、もはや何トンという単位でしまってある。ランプに使う分を出すくらい、痛くもかゆくもない。
「すみません。ヴェルディ様をお待たせしないで済むので、ここはご厚意に甘えさせてもらいます」
「遠慮なく使ってください」
わたしは魔石粉の入った子袋を兵士さんに渡す。
兵士さんは、魔石ヘッドライトの下のタンクに魔石粉をザーッと流し込んだ。続いてレンズの蓋を取り、発光体の上に綿を置いて火を点ける。綿が燃え尽きたら煤を掃って蓋を閉じ、光量を調整するネジをクリクリ回すと、発光体がぼぼっと瞬き、やがてカーッと明るくなる。
最初に綿で火を点けるのは、プレヒートのようなものだろうか。
小さな魔石ライトも仕組みや手順は同じで、発光体の大きさが違うだけだ。ヘッドライト用のは、大きいだけあってかなり明るい。レンズが光を集中させ、指向性のある光が道を照らした。
「うん、大丈夫そうね」
明るさは自動車のヘッドライトと遜色ないかな。
「こ、これいつもよりかなり明るくないか?」
え、そうなの?
「確かに、物凄い明るい。この魔石粉、もしかして質の高い魔石ですか? まさか青紫とか?」
「いえ、よくある青っぽいのですけど」
「それなら普通のですね。でもこの明るさは……」
「暗いんだったら困るけど、まあ明るいならいいじゃないですか。行きましょうよ」
「は、はい。ありがとうございます」
なんとなく腑に落ちてない感じの兵士さん。
魔石の質は高品質になると赤っぽい色が増すみたいだ。転移の魔導具は、魔石化したら赤紫だった。
あれ使ったらもっと明るいのかな。
そんなわけで、暗い森の中も不安なく、馬車は領都へ向かった。
◇◇◇
およそ2時間後。
わたし達が乗った馬車は、領都に入る門に着いた。
良い子はとっくに寝ている時間だが、配伝兵から、北の森の魔物大量発生を食い止めることができたとの連絡を受けていたヘキサリネ軍や探検者が、軍用門の所に集まってきており、ヴェルディ様の馬車を大喝采で出迎えた。魔族が裏で仕掛けていたことは宰相様など極一部だけに伝えられており、その人達は一層感慨深く2台の馬車を見守ったのだった。
というのは後で聞いた話。
残念なことに、この歓迎をわたしは知らない。ついで言うと、イレム、サンドラちゃん、リネールさん、リエラさんも知らない。
馬車の揺れに加えて、サンドラちゃんのエナジ草ドリンクの効果が切れ、爆睡してしまったのだ。解毒法力があるのでエナジ草の効果がないリエラさんは、真っ先に疲れが来ていた。フィリアさんのみ、マリエラ様護衛のためと、腕やら頬っぺたやらを抓って必死に睡魔と闘っていたが、領都の門をくぐったところで、安堵感から力尽きた。
良い子は寝ている時間だったけど、孤児院のニーシャや院長達は、イレムが脱走していたことを配伝兵からの報告で聞いていて、出迎え……じゃなくて引き取りに来ていた。よだれを垂らして寝ていたイレムは、孤児院の皆に「きたねー」とか言われて回収されていったとのこと。
深淵深くにはまったかのように寝入ってしまったリトルウィングとリエラさんパーティーは、領都邸に連れていかれ、ご立派な迎賓室に運ばれて、ふかふかのベッドに入れてもらった。
恐ろしやエナジ草ドリンクの反動。
そんなことも知らず、わたしはベッドの中でぐっすりと眠ったのだった。
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