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異世界のオキシジェン・デストロイヤー ~Fランクハンターだけど、大物狩る許可はもらってます~  作者: RightWorld
第1章 マヤちゃん、異世界に立つ!

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第12話「いえぃ、これでわたしも異世界ハンターだ!」

 

 ライナーさんと助手さん、チトレイさんらは、まだ馬車にあるお肉や、村から持ってきた山菜なんかを市場へ卸すべく残り、その間にわたしとサンドラちゃん、リネールさんでハンターギルドへ向かった。リネールさんは一辺が1メートル以上ある大箱を、サンドラちゃんは途中で摘んだ薬草が入った大袋を背負っている。

 サンドラちゃんすげぇ。ほとんど袋が歩いているみたいだ。田舎の女の子は力持ちで驚きだよ。


 ハンターギルドは市場ブロックの隣にあった。2階建てで、入り口は道路より1メートルくらい高く、数段の階段を登らねばならない。入り口の雰囲気はガンマンでも出てきそうな感じだ。

 サンドラちゃんとリネールさんは大きな荷物を背負っているので、わたしは階段を駆け上がると、入り口のドアを開けてあげた。ギィコラと軋む音を立てて観音開きのドアを開けると、中はタバコと食べ物と汗臭いような人の匂いが混ざりあっていた。


 入り口をくぐった時、殆どの人はわたし達を気にも留めてなかったけど、奥へ向かって中央通路を歩いていくと、さすがに2人が背負っている大荷物が目を引き、興味深げな視線を送ってくる。わたし達は正面奥のカウンターまで進んだ。


「おや、リネールさん」


 カウンターの向こう側で、新聞のようなものを読んでいた受付のお姉さんが、近付いてくるわたし達に気付いて向こうから声を掛けてきた。リネールさんは片手を上げて返事する。


「ケイトさん、景気はどうだい?」

「まあまあですよ。ずいぶん大荷物ですね。なんですそれ?」

「これは後にして、まずはこちらのお嬢さんが先だ」


 わたしはカウンターの前へと促された。


「マヤと言います。ハンターの登録をしたいんですけど」

「へえ、黒髪の女の子とは珍しい。あんたも薬草取りのお手伝いを始めるの? サンドラは薬草採りの名人だからね」


 ケイトさんというらしいギルドの受付お姉さんは、登録申請書を用意しつつ、わたしに問いかける。だがリネールさんは、いやいや違うよとカウンターに手を付いて言った。


「できれば飛び級で申請したいんだ。Bランクの大型獣類を仕留めてる実績がある」

「はあ?」


 ケイトさんが眉をひん曲げて手を止めた。


「Bって猛獣ですよ? この娘10歳くらいでしょ。一口で食べられちゃうよ」


 は!? 10歳って小学4年生くらいじゃないっけ? いくらなんでもそれはないでしょ!


「……17歳なんだけど」

「「「「えええええー!?」」」」


 バックから8割の男と2割の女性の声で、毎度お馴染みの疑問合唱が湧き上がった。


「冗談言わないで。このちんまいのがあたしの1コ下なわけないじゃないですか」


 ケイトさんは18歳なのか。この人も大概酷いよ。とは言っても、戸籍とかパスポートとかで証明する方法もないし、どうすればいいんだろ。下の毛生えてるんですけどとか言えばいいのかな。まあお下品。


「それでお嬢ちゃん。Bランクの動物って何捕まえたの? そこの箱に入ってるの?」


 腰をかがめて、少し傾げた顔をカウンターにまで下げて質問する様は、完全に小学生相手の態度だ。そのせいかわたしも顔を逸らして憮然としてしまう。


「……マンモス」


 これじゃふてくされた小学生だ。かえって逆効果なのでは? と自分で突っ込む。。


「10トンクラスのだぜ?」


 すかさずリネールさんが補足してくれた。


「10トン!? うそでしょ?」

「次の便の荷馬車で牙を持ってくるよ。それでサイズは証明できる。あ、肉はコーデッドさんの店に卸したから。取り合えず500キロだけな」


 背後からざわざわとざわめきが聞こえてきた。


「東の国境付近の茶屋が襲われて、討伐願いが出た奴じゃないか?」

「団子みんな食われたらしいな。俺あそこの団子好きだったんだ」

「国境検問所もぶっ壊されたって話だぞ」


 やっぱあの凶暴なマンモス、指名手配の前科モンだったのか。


「……どうやらそんなマンモスがいたのは確かみたいだけど、それをお嬢ちゃんが1人でやったの?」

「まさか。リネールさんらリトバレー村の人達と一緒によ」

「そ、そうよねえ、さすがに」


 わたしの回答に少しホッとしてるケイトさんや他のハンター達。大勢の中のその他一名として加わっただけと思われたようだ。しかしリネールさんはまたもケイトさんの思いを覆すような事を言う。


「俺達も手伝いはしたが、追い詰めてとどめを刺したのはマヤさんだ。なんせこの方の師匠という人は、前の日にこれを仕留めたんだぜ」


 そう言ってリネールさんは持ってきた大箱を、うんせと買取カウンターに乗っけた。

 買取係の人と箱を開けて、緩衝材として詰めた藁を掻きわけると、尋常でない長さの巨大な牙が出てきて、買取係の人は驚いてひっくり返った。箱から出てきたのはサーベルタイガーの頭骨だった。


「うおおお、マジかよ!」

「げえ、もしかしてのサーベルタイガーか!?」


 ギルドの一階にいた者達が一斉に立ち上がり、買取カウンターの方へ駆け寄った。


「うわあ、オレ初めて見た!」

「すげえ牙。マジかよこれ」

「しかも、ハンパなくでかいぞ。頭だけでこれだと、体はこんなか!?」


 リネールさんはタイガーの頭に片肘をついてケイトさんに言った。


「これを仕留められる人に師事してたんだ。実力は察してもらえるだろ? どうだ、飛び級できるかな?」

「ちょっと待ってて。マスター呼んでくる!」


 ケイトさんは慌てて二階へ駆け上がって行った。





 しばらくガヤガヤ、ザワザワとしていたが、階段からゴツッゴツッと低い靴音を立てて、大柄で目つきの鋭い人が降りてくると、一斉にざわつきが収まった。


「ここのギルドマスターのジオニダスさんだよ」


 リネールさんが教えてくれた。


「ヤクザかマフィアじゃないの?」


 とてもかたぎには見えない。でなきゃプロレスラーだ。


「討伐依頼の出てたBランクを殺ったって?」


 ちらっと人だかりの買取カウンターに目をやり、数秒間サーベルタイガーの頭骨に目線を止めた後、再びゴツッゴツッと歩んで、大男はわたしの前に立った。


「それで、いきなりBランクハンターにしろってか?」


 背後からゴゴゴゴっていう効果音が聞こえる気がする。この人も猛獣なんじゃないだろうか? 身長2メートルくらいあるかも。見上げてると首が痛くなりそうだなあ。


「Bってのがどれくらいかわかんないけど、狩りについてはほぼ初心者なの。だから、身分相応のでいいわ」

「おいおいマヤさん。全然平気だって。せめてCランクくらいは要求した方がいいよ」

「ううん、考えてみたんだけど、やっぱりわたし1人じゃたいしたことないと思うの。獲物を見つけて、追跡して、捕まえるっていう一連の流れの、最後のところしかやってないじゃん。あんまり高いランクもらっても経験がないから釣り合わないと思うのよね」


 またざわざわと人声があがる。大物を仕留められるってだけで羨ましいなんて声も聞こえてくる。


「何か特殊な法力持ちか?」

「それは、簡単には言えないわ」

「……ふむ。確かに特殊技能はハンターの切り札。それを明かすも隠すもハンターの戦略であり自由だ。活躍するにつれ自然に知れ渡るものだしな」


 そういうことらしい。それ以上追及されることはなくホッとした。。

 マスターは顎に手をやってわたしを見下ろすと、くるりと回って受付カウンターに入った。なんか急にカウンターが小さくなったように見える。


「強大な法力を持つと大概身の丈に合わない事をやって痛い目を見る。その辺、嬢ちゃんはちゃんと自分の力量をわきまえているようで良い事だ」


 マスターはハンター登録用紙を出して、さらさらと記入し始める。


「お前、年齢は?」

「17」

「なにい!?」


 またか!


「あーもう! 行く先々でなんなのさ! どいつもこいつも失礼な!」


 場所を変えて人に会うたびに同じ反応が繰り返されるんで、いい加減頭にきた。比較的童顔だとは思うけど、日本ではここまで言われたことないよ!


 マスターは運悪く、これまでに溜まったうっぷんを一身にぶつけられて、とんだとばっちりだったが、状況を察してか謝ってくれた。


「いや、これは悪かった。謝罪する。年齢は17と。……性別は女で大丈夫か? これも見た目では判断できんのでな。どちらでもない、性別がないという種族もあるんで、確認させてもらう」


 おおぅ、無生殖なんてのもいるんだ。分裂して増えるのかな?


「女で大丈夫です」

「性別は女……と。次に登録ランクだ。ランクはFが最低なんだが、Fだと小動物しか狩れない。しかし小動物は弱いだけにすばしっこく巧妙だ。狩りの基本はやはりここからやった方がいい」

「それじゃ、わたしはFランク?」

「うむ、Fランクにしとこう。だが凶暴マンモスも仕留められる力があるなら、臨時討伐隊を募集するときにはありがたい。実績もあるようだから、パーティーのメンバーとして参加するときは、そのパーティーランクの獲物を狩ってもよい、という但し書きをつけてやる」

「えーと、それってどういう……」


 わたしがいまいち理解できないでいると、ケイトさんが説明をしてくれた。


「普通はFランクならFランクの、DランクならDランクまでの獲物しか獲っちゃいけなくって、パーティー組むときは上位ランク者がいることが前提で、自分のランクの1コ上までなら獲ってもいいの。FならEまでOKってね。レベルに合った仕事を徹底させてハンターを守る為の仕組みね。

 だけどあんたの場合は、パーティーではそのリミッターが解除されるんだって。例えばCランクのパーティーに参加すれば、あんたがFランクライセンスしかなかったとしても、Cランクの獲物を狩ってもいいってことよ。Bランクパーティーなら勿論BもOKね」

「はぁー。わたし1人ではぺーぺーの仕事しかできないけど、共同で当たるときは青天井なんだ」

「昔はそれが普通だったんだけど、低ランク者の被害が多すぎて、規則が厳しくなったのね」


 昔の車の免許持ってる人みたいだな。普通免許だけど大型二輪が乗れるとか、中型貨物車も乗れるとか言ってるようなもんだ。わたしは原付しか持ってないけど。


 マスターはさっきとは違う表情で見降ろすとわたしに言った。


「ポイント稼いでこい。但し書きがあるので、上位パーティーに参加すればすぐポイント溜まってランクアップするだろう。リネールが見込む通りの実力が本当にあるなら、Fから始めたって問題ないはずだ。むしろそこでちゃんと基本を習ってこい」


 もしかしてこの表情は、笑って語り掛けてるんだろうか? 薄気味悪いんだけど。


「分かったわ。ありがとう」


 さらさらと登録書にペンを走らせるマスター。下を向いたまま質問する。


「推薦人はリネールでいいのか? 推薦人がいた方が信用度が上がって箔が付くんだが。師匠という人から何かもらってないか?」

「あっ」


 わたしはお師匠様が作ってくれたタグを思い出した。


「これをもらいました」


 首に下げていたタグを差し出した。コチコチの樹脂版のようなタグ。すると受け取ったとたん、マスターの目がぐわっと大きく見開かれた。


 ええ、こ、怖い、怖いよ! その目こっち向けないで。いやー! 向けないで!

 マスターはわたしの心の叫びを無視して、ぎろりとわたしを睨んだ。


「この人が、お前の師匠なのか?」


 影になった目の窪みから鷹のような眼光が光る。平らなアジア人と違って、ヨーロッパ人は彫りが深いなあ。あ、ヨーロッパじゃないか、ここは。


「は、はい。その指紋、わたしのだし……」


 指を出せと言われて、照合する為の指紋はとられなかったが、タグについている指の大きさと比べられた。大きさが一致する時点で嘘ではないと判断してくれたようだった。


「マスター、誰だったんですか?」


 ケイトさんが後ろから覗きつつ聞いた。


「東国の勇士で、トロという人だ。お前たちは名前を聞いても知らんだろう」


 ギルドにいる他のハンター達も「誰だ?」とか言って首を傾いでいる。お師匠様はそれほど有名ではないらしい。


「お前もトロと同じ法力を?」

「ひ、秘密ですってば」


 マスターはうんうんと頷いた。


「秘密の方がいい」


 この感じだと、マスターは法力『オキシジェン・デストロイヤー』を知ってるのかもしれないな。


「登録料は2小金貨だ」

「立替えとくよ。まだ肉の代金受け取ってないよね」


 リネールさんがさっと出してくれた。


「すみません」

「翌年からは、毎年ライセンス更新で1小金貨かかる。もし金がなくても、ギルドが指定する依頼を2つ完遂することで免除も可能だ。但しどんな依頼が来るか知れんから、払った方が無難だけどな。掲示板の肥やしになってる依頼なんて察して然るべきだろ?」


 誰も受けないでホコリ被ってる依頼をそこで処分するってわけか。払おう。たかだか1万円くらい。

 そしてマスターは登録用紙の向きをくるりと返し、わたしに向けた。


「字は書けるか? 自分の名前を書けるなら、ここに記入しろ。母国の文字でもいいぞ」

「はい」


 母国の文字でいい、か。

 自動変換しないでね。そのままで、そのままで。

 ペンをもらうと、そう念じつつさらさらっと書いた。


『摩耶』


 そう、日本語で。漢字で。紛いない21世紀の地球の日本人がここにいるぞって。


「わあ、不思議な字。読み方は『マヤ』でいいのね?」


 登録用紙のサインをケイトさんは物珍しそうに眺めた。それからケイトさんにいろいろと説明を受け、この領でのローカルルールについても教えられた。村の人に聞いたのとほぼ同じだった。

 そして一通りの説明が終わった頃にはタグが出来上がり、真新しいタグが手渡された。


「はい。これが国を跨いで使用できる探検者ギルドタグ。こっちはうちの領専用」


 タグの裏には文様が彫られていた。それぞれ探検者(エクスプローラー)=冒険者ギルドの紋章と、ここの領の紋章らしい。


 マヤ

 ハンター ランクF (アンリミテッド パーティー)

 登録国 ヘキサリネ領 No.HXLxxxxxxxx


 ヘキサリネにおけるライセンス

 ○ 狩猟・採取

 - 探査・調査

 - 護衛・傭兵

 ○ 雑役

 ○ 特殊


 これでわたしも、この世界で正式に稼ぐための下地ができたんだ。嬉しくて思わず顔が綻んでしまった。

 ニコニコした顔をケイトさんに向ける。


「ねえ、特殊ライセンスって?」

「ギルドや領主様から直接出される特別な仕事も請け負える資格よ。Fランクの人に特殊が付いてるのなんて見たことないわ」

「例のマンモスの討伐も特殊案件だったんだ。実績持ちだからな、俺の判断で付けてやった」


 マスターの補足に快く頷くわたし。それだってパーティーでないと受けられないんだし、ハンター初心者のわたしが、そのライセンスをすぐ使うことはないでしょ。


「ちょおっと待ってくださいよ。そしたら俺ら、マンモスの討伐報酬もらえるんじゃないですか?」


 リネールさんがしゃしゃり出てきた。


「討伐依頼に契約してないからダメだな。その前に自分達で仕留めちまって、ハンターギルド通すことなく肉屋に売っぱらってるんだろ? マンモスは久々だからギルドより肉屋の方が高く買ってるんじゃないか? 儲けてんだからいいじゃねえか」

「うう、討伐報酬分損してますよ。情報伝達の遅い田舎のデメリットだぁ」


 リネールさんは背中を丸めてがっくりし、周りのハンター達はゲタゲタ笑ってリネールさんの肩を叩くと散っていった。

 騒動はそこで一通り終息を迎えたようだ。


「サーベルタイガーの頭は値が幾らつくか分からねえから、売れたら連絡する。すぐ金が欲しいなら大昔に売れた時の額で計算するが、こんなサイズじゃなかったはずだから多分安くなっちまう。その方がいいだろ?」


 リネールさんは、タイガーの頭の所有者であるわたしに顔を向ける。


「どうします?」

「お任せするわ」


 リネールさんは頷くとマスターに返答した。


「それでお願いします」


 そこへ、とててててとサンドラちゃんが走ってやってきた。


「薬草買い取ってもらってきたよ」


 サンドラちゃんが手を開けると、小金貨2枚と銀貨1枚が入っていた。えーと、日本円にすると2万2千円? 2日間の旅の道中で、ささっと採ってきただけなのに、凄い稼ぎじゃん! 日当1万円以上だよ?


「うふふふふふふ、何買おうかなあ」


 わあ、完全にご自分のお小遣いですか。でもサンドラちゃんもれっきとしたハンターなんだよね。お小遣いじゃなくて、正当な稼ぎなんだな。

 わたしは、えらいえらいとサンドラちゃんの頭をなでなでするのであった。


「そんじゃライナーさんとこ戻るか。宿にチェックインしたら飯食いに行こう」

「「はーい」」


 わたしはピカピカのタグもう一度見てニンマリすると、それを握りしめて、ハンターギルドを後にした。


 マヤ達がハンターギルドから去り、他のハンター達も仕事へと散っていき、1階はだいぶ人が減って空気がきれいになったように感じる。マスターは奥へ引っ込むかと踵を返す。

 その時、外の新しい空気とと共に、他国の者と分かる3人の男がギルドの扉を開けて入ってきた。




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