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第0話「プロローグ」

 

「……こ、ここは?」


 わたしは森の中に倒れていた。

 鬱蒼としたというよりは、木漏れ日が差し込む程度には間隔がある。その下の柔らかな草の上にうつ伏せ気味に倒れて、気を失っていたらしい。


「あれ、わたし、家を追い出されて、道端へ出たとたんに車に……」


 意識を失う前の直前の記憶を思い返す。

 わたしは両親を事故で失って、親戚に引き取られていた。でも親戚の扱いはひどかった。残った遺産を巻き上げられたうえ、酷い虐待や仕打ち。そして今夜も、帰るなり訳わかんない言いがかりをつけられて、「今日は飯抜きだ!」って家に上がることもできず玄関から放り出されたんだ。

 今日は17歳の誕生日だったっていうのに、ご飯も食べられないの?

 道端まで転げてそう思った時、目に入ったのは車のヘッドライト。そして真っ暗にシャットアウト……


「わたし、轢かれたんだ……。きっと車に、轢かれたんだ」


 じゃあここは何?


 も、もしかして、これ、ラノベやマンガで出てくる転生というやつでは……


 ふいに背後からグルルルルという唸り声が聞こえて、振り返った。


「ひっ!!」


 そこには30cmの物差しよりも確実に長い、禍々しい牙を生やした、トラのような大型の獣がいた。


「なにこれ……サーベルタイガー?」


 猫科の大型哺乳類は、ライオンだとかトラだとかいるけど……いや、いるとは言っても柵もないところに現れたらまずいんだけど、目の前にいるのはそれ以上にヤバいやつ。上あごの牙が顎の下に飛び出るほど長いんだ。


『サーベルタイガー』


 だけどそれは、太古の昔に絶滅したはず……

 なんでここにいるの? しかも物凄いでかい。まるでサイのよう!


 これこそ転生の証!?

 わたしは異世界に転生したんだ!

 ネチネチと陰湿な親戚の意地悪から解放されたんだ、ばんざーい!


 っと言ったって、とても喜べる事態ではない!

 ゴアッっと大口を開けて、サーベルタイガーはわたしに向かって突進してきた。


「きゃあああ!!」


 転生して1分後に生命の危機!? っていうかもうこれ、わたし終わりじゃない!?


 その時、横からヒュッと音がして何かが飛んできた。先端がめらめらと燃えた細長いもの。


「火矢!?」


 ボスッとそれはサーベルタイガーの背中に当たった。しかし火矢は強靭な獣の筋肉に弾かれ、刺さりも怪我も負わせられない。

 跳ね返された矢が背中の上に舞い上がろうとしたその時。


 ボワアアアアーー


「ひゃっ!!」


 いきなり火矢の炎が爆発的に燃焼した。その火はサーベルタイガーに燃え移り、背中の毛が轟々と燃える。そしてまたも爆発的に燃焼し、瞬く間にサーベルタイガーの全身を覆った。


 ゲギャアアアアーー


 悲鳴はサーベルタイガーのものだ。わたしでないのは明らか。だって驚愕過ぎて大口を開けたまま声も出せなかったのだから間違いない。

 地面に落ちたサーベルタイガーは、まるでガソリンでもかかっているかのように勢いよく燃え盛り、黒焦げになっていく。わたしは呆然とその光景を見ているしかなかった。

 やがて急激に火は衰え、跡には燻ぶって煙をあげる、こんがりと焼けた肉の塊が転がっていた。


「……な、なんだったの?」


 するとがさがさとまた音がしたので、ひいっ! と引き攣った。


 また、また何か来た!?


 腰を抜かして尻もちをつきながら後ずさる。しかし現れたのは人間だった。弓矢を手にした二十代後半か三十歳くらいの大人の男の人。弓矢を持ってるってことは、さっきの火矢を放った人?


「無事……だったか」


 そう言ったとたん、その人は膝からがくっと崩れた。


「ど、どうしたんですか!? だ、大丈夫!?」


 だが大丈夫でないとすぐに判明した。ぐはっとその人は血の塊を吐いたのだ。


「あああ!」

「これは……もう、だめだな」


 仰向けに寝かして解放しようとする。が、お腹が真っ赤に染まっていた。


「サーベルタイガーがお前さんを狙ってたんで、邪魔しようとしたんだが、感付かれてな。不覚にも先制攻撃を食らっちまった……」

「わ、わたしの為に? ああ、ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

「気にするな。それにこのサーベルタイガーはちょっと別格だった。隙を見せた俺が悪い。生き残るには隙を見せず、したたかに。この世界の鉄則だ」


 げふっとまた血を吐いた。


「見苦しいところ、見せてすまないな、少女よ」

「何、言ってるんですか……」


 涙がこぼれて仕方がない。隙だらけだったのは自分、それを庇おうとしたばっかりにこの人は……


「少女よ。お前は、法力は発現したか?」

「え? ……法力?」

「その様子じゃ、発現しなかったみたいだな。……俺はもう持たねえ。俺の法力は人に伝え託していくものだ。少女よ、もらってくれるか?」

「法力って?」

「魔法みたいなもんだ。俺の法力は……」


 男の人は血を垂らした顔で、ニヤッと笑った。


「俺の法力は『オキシジェン・デストロイヤー』」




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