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ラピスラズリの福音  作者: 綺月 遥
3/6

Act.2 落下して群青


「いやマジで何が起きてるの?」


今この場に鏡がなくて良かった。本当に良かった。

多分今の私の顔、自分史上最大の間抜け顔だと思う。


あまりの奇想天外な展開に現実逃避が止まらない。

それもそのはず。

瑠璃は今、空から落ちた。

文字通り、ぐしゃっと落下した。

しかも結構な高度から落とされた。ミンチになっていないだけ奇跡である。

それどころか骨すら折れていない。最早奇跡とかそういうことじゃないかもしれないな、とぼんやりと思いを馳せる。


だって、この光景はなんなんだ。


目の前に広がる夜空は、まるで宝石が散りばめられた群青のタペストリーのよう。星降る夜、なんて形容がよく似合う。無数の星屑は、手を伸ばせば届いてしまいそうなほどに鮮明な煌めきを放っている。

こんなの、プラネタリウムでしか見たことがない。

周囲の様子だっておかしい。

鉄筋コンクリートとガラスで構成された灰色の街並みなんてここには存在しないようだ。

例えるなら、ヨーロッパの宮殿の庭園にある東屋とでも言えばいいのだろうか。

いや、東屋にしてもだいぶ妙だろう。

まず瑠璃の周囲を七本の柱が囲っている。その柱というのもただのでかい棒ではない。

大理石を切り出した巨大な円柱。その一本一本に金銀の精巧な細工が施され、無数のラピスラズリと真珠があしらわれている。しかも先端部には群青色の、恐らく神々を象ったと思われる彫刻が取り付けられている。

それが七本。

東屋にしては気合いが入りすぎている。

また、この空間には椅子も机も何も無い。天井もないから、瑠璃の頭上には群青の天幕だけが存在していた。

床に当たる部分は一面金色。しかし純金造りというよりは、なんだか床が生気を宿して自ら輝いてるように見える。不思議な感覚だ。


この謎空間の外には、夜空の下でも分かるほどの芳しい香りと艶やかな花姿が連なる、薔薇の園が広がっている。


星降る夜。薔薇園の中に佇むように建てられた金と群青の神秘的な空間。


実に美しいと思う。こんな状況じゃなければさぞテンションが上がったことだと思う。


しかし、この光景を脳内に認識した瑠璃は、目眩を堪えながら確信するしかなかった。


ここ、間違いなく日本じゃない。


瑠璃の背中を、大量の冷や汗が伝っていった。


5分前まで、瑠璃は確かに東京に居たのだ。

学校帰りに本屋に寄って、推し作家の新作をにやにやしながら購入して、うっきうきで家路に着いていたのだ。

いつものルーティーンとの差異があるとすれば、そのうきうき具合が段違いだったことだろうか。

だって大好きな作家さんの新作だ。しかも3年半ぶりに刊行されたシリーズ最新刊。そりゃはしゃぐだろう。


ただ、やはり瑠璃は少しはしゃぎ過ぎたのかもしれない。


その帰り道で駅の階段で足を踏み外したのだ。

あれ、と思った時にはもう遅い。

完全に足がタイルから離れていた。


落ちる!


思わず目を瞑った。

せめて頭から叩き付けられないように。何故かやけに冷静な頭がそう警鐘を鳴らした。

空中で受け身の体制を取れたのは奇跡だ。

どこでそんな身体能力を身に付けたのか。

そんな自問自答をする間もなく、瑠璃は覚悟を決めた。


が、衝撃はなかなか訪れなかった。


さすがに妙だ。瑠璃は恐る恐る目を開けた。


視界に映ったのは、焼き付くような群青。

眼下には御伽噺のような荘厳な城。


まてまてまてまて。

待て待てなんだこれ。

そう叫び出す余裕ができたのは、瑠璃が地面に激突した後のことだった。

何故かあまり痛くなかった。


ここはどこ。


なんて何遍考えても分からない。


とりあえず落下中に見えた華麗なお城が、今は背後に聳えていることが分かった。

恐らく今自分が居るこの場所は、あのお城の敷地内なのだろう。その程度の思考が回るくらいの冷静さはあった。


ていうか。

これって、もしかして。

異世界転移というやつなのでは?


瑠璃の脳裏にその可能性が弾けた時。


不意に、薔薇のアーチの向こうから人影が現れた。


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