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発つ天使、跡を濁さず  作者: 朝楽
12/12

7-1

 その後好印象のまま三条は尋問を終わった。三条は結果を聞いて、壇上で大きくガッツポーズ。そして今、バギーで隣に座る三条の満足そうなドヤ顔にそのときの光景がオーバーラップする。殴りたい、百五十嵐はそう思った。


 それはさておき、難なく百五十嵐は天国行きとなった。彼女も少女を助けて死んだのだから、当然のことであろう。こうした経緯で二人は六階堂に連れられて、天国へと向かっていた。


 「あぁ。こんなのが天国へ行くだなんて……不公平だわ」


 「しかも第一天国だなんてな」


 「百五十嵐も、六階堂さんも、閻魔大王の裁判にケチをつけちゃいかんぞ」


 天国と地獄はいくつもの階層に別れている。地獄は三層に分かれ、罪人でもよほどの極悪人でない限り、その中の一番マシな層“煉獄”に行き、比較的に軽い労働で罪を償う。一方軽い犯罪なら一応は天国へ行かせてもらえる。しかし天国にも十の階層がある。うち一番上は神の住処、二つ目は大天使の住処で、死者が行くことはない。これらはそれぞれ、至高天、原動天と呼ばれる。残り八の階層に死人が行くことであり、第一天国から第八天国まである。


 人口はまずまず分散しているが、緩やかなピラミッド状になっていて、第一天国は一番人数が少ない。それくらい行くのが難しいと言うことだ。選りすぐりの善人が集まっている。意識の高い聖職者やボランティア活動に人生を捧げた人などはここに来ることとなる。


 人生の最後の行動が特別評価されやすく、三条が百五十嵐を助けようとした、ということは事実であるとしても、百五十嵐と六階堂は簡単には納得できなかった。


 「いやぁ、しっかし、第一天国かぁ。どんなんだろうな!ハーレムか?酒池肉林ってやつ?美女に囲まれて、うまいものも食べ放題、金も湯水のようにある……最高かよ!」


 三条の目がこれまでになく輝いた。逆に百五十嵐の目のハイライトが消える。


 「こんな煩悩だらけの男が第一天国なんて……終わってるわ」


 「あぁ、なるほどな、嫉妬してんだろ。俺が他の美女に囲まれるのが悔しいんだな」


 「ちっ、ちが……そんなわけないじゃない!」


 「はい、百点のツンデレいただきました~」


 「もうっ!違うから!黙って!」


 六階堂はバックミラー越しに、二人のやりとりを黙って見ていた。彼女の頭の中の記憶に、地球から天へと昇っていった貨車での二人の様子が再び浮かぶ。


 下界に二人を迎えに行ったときは、こんなものじゃなかった。確かに、今も表向きは言い争っている。百五十嵐は言葉も冷ややかだ。しかし、はじめのころ、百五十嵐は三条の顔をまともに見ることさえなかった。今はちゃんと三条の目を見て話している……。


 そして百五十嵐自体も様子が違っている。口数も明らかに増えていて、以前のように塞ぎ込んでいる様子はない。いかにして三条が百五十嵐の心を開いたか、いや、百五十嵐のほうから自発的に?どちらにせよ、六階堂は気付いていた。この短い間で、百五十嵐になんらかの心境の変化が起こり、おそらく三条に対する好意も芽生えは始めている、ということに。


 「ふんす」


 六階堂はバギーの内壁を思い切り殴った。突然の鈍い音に、後部座席の二人が驚く。


 「え?なにしてんすか?」


 「なんでもない。手が滑っただけだ」


 六階堂は唇を尖らせた。


 ――なんで若い子ばっかり!私にはいい人来ないのに……。くっそう!くっそう!腹立つ!でも、我慢よ、私……。もう少しの辛抱。


 前方にいよいよ雲以外のものが見えてきた。城壁である。


 「あれが、第一天国なんだなぁ~。城壁の中の都市か、天上のエルサレムとでも言ったところかなぁ。すげえ楽しみ~。ここで俺の楽園が始まるのかと思うと、な」


 「フフフ。楽しみだな」


 六階堂が不気味ににやりとした。目が笑ってない。


 「六階堂さん、さっきから様子が変ですよ。ちょっと怖い……」


 純白の道は正門に続く。正門へと、バギーはスピードを緩めることなく突っ切った。ETCのように正門は自動的に開き、通り過ぎると閉じていった。


 城壁の中には都市がある。ゴシックで壮麗な……ではなく日本でよく見られる景色とほとんど同じだった。教会のような建物がよく見られるものの、オフィスビル、役所、コンビニ、スーパーマーケット、そしてマンションや一戸建て住宅などばかりである。


 「えっ、何これ……」


 「こんなんじゃ、地上と大して変わりやしないじゃないか。ここが天国かよ。間違えてんじゃねぇの?六階堂さん、目的地にはいつ着くんだ?」


 「すぐそこだ」


 しばらくして、バギーが停車した。停まったところは、広い敷地の横、その敷地は塀で囲まれていて、なかに四階建ての幅の広い建物がある。


 「なんだよこれ、まるで学校じゃないか」


 「その通り、学校だ、クククッ」


 六階堂は薄気味悪く笑った。


 「いや、六階堂さん、怖いって」


 「んで、美女はどこだよ。ハーレムは?金は?ごちそうは?」


 「プハハハハ!まだそんなこと言ってるのか?ないわそんなもん!ケラケラ。傑作ね、傑作」


 六階堂は腹を抱えて笑っている。笑っているのだが目は泣いているように見える。百五十嵐は壊れた人間をみるかのような、冷たく、同情を含んだ目で見ていた。


 「どういうことだよ!なんかおかしい!話が違う……」


 「誰もハーレムとかがあるだなんて言ってないからぁああああ。ざまあ見ろ!」


 「じゃあこの学校は何の学校なんだよ」


 「しょうがないな、教えてやる。フフッ。第一天国の門をくぐった死人は、自動的に天使になる栄誉を与えられるんだ。この学校は天使の養成学校ってことだ。おまえらはわたしと同じような道を辿るんだ。つまり数年間はここで嫌と言うほど勉強して、鍛え上げられて、毎日毎日あくせく人間のために奉仕する特権が与えられる!次に死ぬまで、それはそれは長いことな!フハハッ!それじゃあ、私はもう行くからな」


 二人を置いて逃げるように六階堂は去って行った。三条は絶望して崩れ、街中に響く声で叫んだ。


 「そんな特権いらねぇえええええ!」

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