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Replication

「さすがに最下層はマズイよな」

 高速でレイヤーを降下しながらラムダは呟いた。周囲は目まぐるしく、様々な光が現れ渦巻いては消え去る。

 やがてラムダは片手を差し上げると、その体は中空で停止し目の前が矩形に切り抜かれた。そのまま目の前の空間を潜り抜けるとそこにはがらんとした空間が広がっている。瞬時に背後にあったはずの切り取られていた空間は煙の様に消え去った。

 そこは目の届く限りただただ空間の広がりがあり、所々に大小の柱が見えるだけの薄闇に包まれた場所だった。柱はどれも唐突に荒れた地面から突き出ていて、上空の薄闇に消えている。目を凝らせば天井が見えるかと思ったが、闇の濃淡が見えるだけだった。柱が時折、光る線を引きながら発光する他には動く物は何も無い。広すぎて果てを見極める事もまた難しかった。それでもラムダが迷いなく思い定めた方向に歩き始めた時、ふと背後に気配を感じて振り返った。

「誰だ?」

 しかし、背後にも同じ様な風景が広がるだけで、動く物の姿は見られなかった。そもそもここには都市の住人は入り込めない。誰かいるはずの無い場所だった。気配を探ろうと四方を見回すが、その時ポケットのカードが微かに振動したのに気づいてラムダはカードにちらと目を走らせた。

「これ以上遅れられない!」

 ラムダは慌てて一方向を指して走り始めた。建物に仕切られた上層部よりは何も無いこちらの方がはるかに早いはずだった。しばらく走った所でラムダは上階でやったのと同じように入口を開いて上層部へ駆け上がった。


 目の前に見慣れた不機嫌な顔がいた。シグマだった。見下ろす視線が厳しい。長身のシグマから放たれる威圧感にラムダは内心震え上がった。

「遅い!定期走査だぞ」

「すみません」

 ラムダが素早く状況を確認すると、ちょうど侵入者らしき者が捕獲された所だった。電子錠で手足を縛られて、転がされている。見た事の無いタイプだった。どうやら定期走査のタイミングで網に引っかかったようだ。ラムダもタイマーがなった時点で定位置に付いていれば間に合っていたはずだった。

「シグマ。どうする?」

 しゃがみ込んで侵入者をチェックしていた男-デルタ-が振り向いた。チェックしている間、デルタの手の平から皮膚の上を稲妻の様に光の線が走る。それは複雑な模様を浮かび上がらせながら、デルタの顔まで走っていく。デルタは目全体を覆うゴーグルをかけているためにその表情はあまり伺えないが光のパターンからは平静な事が伺えた。

「新種だな。解析に回せ」

「了解」

 デルタはカードで通路を開くと、侵入者を投げ込んだ。開かれた通路は侵入者を飲み込むと、そのまま消え失せる。ラムダはその傍らに見るも無残な女性が座り込んでいるのを見つけた。

「ラムダ。走査」

 シグマに怒鳴られて慌ててラムダはしゃがみ込んで女性の手を取った。冷たい。その手からは何も流れ込んでは来ない。顔を覗き込んでもその瞳は虚ろだった。あの侵入者に破壊されたのだろう。ラムダの全身に光る模様が浮かび上がり、それは女性に向かっていくが取った手を渡っていく事は無かった。ラムダの様子を見てシグマが動いた。

「だめか。レプリカは無事の様だから再構築するぞ」

 逡巡せずにシグマが手元のカードを向けると女性はみるみる灰になっていく。

「あっ……」

 ラムダの手の中から女性の手が塵となり、風に舞って消えていった。わずかに残った残滓も速やかにパケットが回収していく。

「レプリケーション」

 シグマの声が響くと、少し離れた所に徐々に人型が現れてきた。次第に輪郭がはっきりし、やがてそれは女性の姿になった。面影からさっきの女性だと判る。けれどもあれほど酷かった傷は一つも無い。

「約2分前か」

 シグマは立ち上がった女性の手を取って暫く目を閉じていたが、すぐに手を離した。2人ともわずかに輝く輝跡に縁取られた。

「ご気分は?」

「さぁ?いつもと特に変わりは無いかしら」

 にこやかに女性は答えた。何の不安も無い伸びやかな声だった。

「さっきの傷……」

 ラムダを押し止めてシグマは女性を促した。女性はそのまま、通りの雑踏に紛れてじきに見えなくなった。

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