終幕
「おのれぇぇ……!」
肩口に深く刺さる剣を跳ね返そうと、ニムダが大きく体を揺すったがラムダは片手をそえるとそのまま更に深く剣を突き刺した。じきにガクリと大きくニムダの腕が下がるのが感じられる。血の跡がニムダ自身の血で覆い隠されていく。
「ミュウ……ありがと」
あの一瞬、全身隙の無いニムダにダメージを与えていたのは確かにミュウの血だった。ミュウがその血でニムダのモジュール間結合にヒビを作ってくれたとしか、考えられなかった。その時、ラムダの背後で細い悲鳴が上がった。振り向くと丁度ニムダと同じ肩を押さえて、アドミが蹲っている。
「な・・・何で??」
ラムダは慌てて剣を抜くと、アドミの側に駆け寄った。アドミの衣服は刃物ですぱりと切られたように口を開けていたが、手で押さえられたその下の皮膚に異常は見られない。しかし、アドミは苦痛に顔を歪めている。
「ふ……ふふぁふぁふぁふぁ……私がこれまで何もしなかったと思うか?元から私とそいつは一部に共通モジュールを持っていた。ほんの少しだが、全てを新しく構築しなかった事が災いしたな。私はここに来て、最初に実行した事は共通モジュールを共有し、支配下に置いた事だ」
ニムダは大きく息を吐くと、地面に倒れこんだ。そのまま、動かなくなる。
「え?それは、つまりお互いに同じモジュールをロードしてるって事?ニムダが消えればそのロードモジュールは一緒に……?」
シグマがミュウのダメージをバイパスして自分に落とし込んだの時の事が思い出された。それと同じ事なのだろうか?どうすれば?
ラムダはニムダに剣を構え直した。その音に反応したのか、僅かにニムダの体が震えた。
「……そいつも道連れだ」
浅い呼吸を繰り返しながら、ニムダの瞳にはなおも邪悪な光が閃く。しかし、そのままニムダは瞳を閉じてしまった。アドミも既に動かない。
「おい!待てよ!」
ラムダの呼びかけに、ニムダは反応しない。ニムダの死と共に都市も終わろうとしているようだった。ややあって、都市全体が静かに振動し始めた。瓦礫が頭上から降り注いでいる。
「……ラムダ?」
か細い声でアドミが呼んだ。慌ててアドミの側に寄る。その体は、急速に冷え始めていた。ニムダがモジュールの一部をロックしているのかもしれない。アドミは自分の体を上手く動かす事が出来ないようだった。
「これから、全体を再起動するの。都市ごとね。でも、僕と一緒にあの人も動くの……だから、最初にラムダを起こすから……僕が起きる前に……ね。お願い。僕を……」
ラムダが頷く前に、アドミは再び目を閉じ世界は急速に暗転していった。