囚われ人
2階層降りたそこは不思議な場所だった。目の届く限り、淡い薄明に包まれ右も左も果てしが無かった。白い光に包まれ、一見何も無いように見えるが、ラムダはその先に管理者の気配を感じていた。迷いなくそこに向って真っ直ぐ歩いて行く。やがて、背の高さよりやや高い程の衝立で区切られたところに辿り着いた。
衝立は木の枠に布を張っただけのものだ。その衝立で四方を囲んでいるだけで、それぞれの隙間からは向こう側が透けて見えた。近づくと中に人の気配がある。衝立の間から覗くと、果たして額から垂らした布で目を覆われただけの管理者が座っている。
その姿は下層でリライトされた少年と寸分違わ無い様に見えた。ただ、衣装のほころびが見当たらないだけだった。
「……天子様」
「誰?」
呼びかけにやや間を置いて顔を上げた少年は、しかし衝立越しではラムダが判らないらしく周囲を見回すだけだった。四囲を薄い衝立で囲われただけで、囚われの身になってしまう事がラムダには不思議だった。
静かに衝立に手を掛ける。衝立は難なく動き、ラムダは少年の前に跪いた。そっと、少年の手を取る。長い袖がさらさらと綾なす色彩を生み出した。
「Λ……ら・む・だ?」
「はい」
「守護?」
ラムダは返事の代わりに胸に下げた鍵を外すと、少年の首に掛けた。目隠しを外そうともせずに、少年はその鍵を捧げるように両手に持った。
「……アドミニストレータのしるし。僕とぼくの」
ラムダはそっと目隠しを外してやった。ラムダと少年の目がカチリと合う。少年はわずかに発光し始めた。その姿にラムダは何故かミュウの面影を見た。
「誰もいないの?」
ラムダの目を通して遠くを見る様な目つきの少年の全身を巡る光が徐々に加速する様に駆け巡る。
「天子様……いえ、アドミ。助けに来ました。ここから出ましょう」
ラムダの言葉に不思議そうにアドミが首を傾げた時、その気配がラムダを反応させた。