始まりの朝
整然とした町並みを人々がそれぞれに歩いている。街路にはチリ一つ無く、たとえあったとしてもすぐに収集パケットが回収して、整然とした状態を保つのだろう。見回せば大なり小なりのパケットが飛び回っているのが見えるはずだった。高層ビルとビルの間には適度に広い空間が作られ、緑の芝生が青々と茂っている。ところどころにはあずま屋が作られ、どこかで噴水の水音も聞こえてくる。
「あ〜あ!」
ラムダは道の端に直に腰を降ろして周りを眺めていたが、急に腕を伸ばして大きく伸びをした。そしてそのまま脇の芝生に寝転んだ。みなそれぞれに忙しそうだが、目的を持って移動しているように見える。ぼんやりと座っているラムダを気にかける人など居なかった。しかし、ラムダはそんな事は慣れっこだったので、そのまま広い空を眺める。
「う~ん。平和だなぁ。今日はこのまま昼寝かなぁ」
ふと目の端に見慣れないものが映ったような気がして、ラムダはそちらに顔を向けた。
「あ!今日だったんだ」
慌ててラムダは起き上がった。その視線の先には都市では滅多に見られない一団がいた。都市の機能を司るユニットだ。そして、その中心には小さな男の子の姿が見える。少年は裾の長いゆったりした服を着ていた。都市に多くみられるスーツ姿の中にラムダのカジュアルも大分浮いている気はするが、その一団のオリエンタルな服装も他とは異質な雰囲気を与えていた。
「あれが新しい天子様かなぁ」
ぼそりと呟いて、もっとよく見ようと立ち上がりかけた時。
pi!pi!pi・pi・pi・pi・pi・・・・・・
「やばっ!」
ラムダは慌てて尻のポケットから小さなカードを取り出した。それは激しく明滅を繰り返している。何箇所か軽く触れると明滅は止まったが、今度は幾つかの記号が浮き上がってきた。
「D19DB0901・・・・・・c_dir。ちぇ、こっからじゃ真反対じゃねーか。間に合わないぞ」
周囲を見まわすが必要な時に限って、一つのパケットも走っていない。ラムダは素早く建物の一つに近寄った。
「こーいうのを非常事態・・・・・・って言うんだよな。使うか?非常口」
にやりといたずらっぽく笑って、ラムダは建物の溝にカードをスライドさせた。すぐに、壁に四角く入り口が現れた。入り口に手をかけて、身を躍らせる前にラムダは天子に目を走らせた。
「またな」
言い終わる前にラムダの体は入り口に消え、入り口は後も残さず消え去った。