心配性な幼馴染のために、伯爵子息は頑張る事にした。
「ど、どうしよう。もしかしたら家が私のせいで没落してしまうかもしれないわ!!」
「メア公爵家は早々、没落なんてしないと思うけど……」
「わ、私、もしかしたら死んじゃうかもしれないの」
「え、それは困る。俺シェイーラが死んだら悲しい」
「わ、私のせいで……」
「シェイーラ、あのさ。そんなに心配なら――俺がシェイーラの不安を取り除くよ」
ある時、二歳下の幼馴染の少女がとても心配性になった。起こるか分からない未来に怯えて、どうしようと錯乱していた。だから、俺、マルコヴィチ・ゴルーフトはシェイーラに笑ってほしくて、不安をどうにか取り除くからと口にしていた。
だってシェイーラは俺にとって、大切な女の子だった。
親同士が仲が良かったのもあって、赤ちゃんの頃から知っているシェイーラ・メア。シェイーラが笑ってくれていると俺は嬉しかった。シェイーラが悲しんでいると、俺は悲しかった。
だから、シェイーラの不安を取り除こうと思った。
なので、シェイーラに何があっても守れるように力をつけようと俺は考えた。シェイーラの家は公爵家だ。王家に次ぐ公爵家が没落するなどとは正直思えないけれど、シェイーラが不安だというのならばもしそういう事になったとしても対処できるようにすべきだと思った。
シェイーラの不安を取り除ける俺であろうと、七歳の時に決意した。シェイーラが言うにはもしそういう不安が的中するとしても、王侯貴族の多く通う学園の高等部に突入してからという話だった。学園は中等部の十三歳から通う事になっている。まだ時間は沢山ある。それまでに、俺はシェイーラが笑顔になれるように頑張りたい。
っていう意志を母上と父上、あと兄上二人にいったら何故だかニヤニヤされた。意味が分からない。
物理的な力をつける事。そして勉強も頑張る事。あとは人脈も作る事。シェイーラの不安を取り除くためにはやらなければならないことが沢山ある。まずは、出来る事からやってみよう。
そう考えた俺は七歳のその日から、前以上に頑張る事になった。
シェイーラに「~が出来るようになった」と報告をして、「不安にならなくていいから」と口にしたら少しだけシェイーラが元気をだしてくれたから。まだ不安はあるみたいだけど、それでもシェイーラに少しでも安心してほしかったのだ。
シェイーラの家族たちにもシェイーラが元気をだしてくれたからとお礼を言われた。でもお礼を言われるようなことではない。俺は俺がシェイーラに笑ってほしいから行動を起こしていたんだから。
……そしたら両親や兄上たちと同じような笑みを浮かべられた。
俺が八歳になった時、シェイーラが第二王子殿下の婚約者に決まった。どうやら王家の強い希望からだったらしい。普通なら喜ぶ事だろうけれどもシェイーラは不安そうな顔をしていた。
「ど、どうしよう。私、こ、婚約破棄されてしまうかもしれないわ」
「シェイーラがどうして? シェイーラみたいな可愛い婚約者にそんな事しないだろ? 向こうからの希望だし」
「か、可愛いって。もう、マルコは!! そうじゃなくて、そうなるかもしれないもの……」
理由は分からないけれど、シェイーラは自分が婚約破棄されるかもしれないと心配性になっているようだ。
「婚約破棄されないように頑張ればいいと思うけど。それに、もし何があったとしてもシェイーラの事は俺が守るよ」
「……っ」
俺がそう言えば、シェイーラは顔を赤くしていて可愛かった。俺の幼馴染は、可愛い。
俺が学園に入学する時、シェイーラは十一歳。そのころに、シェイーラにもう会いに行くべきではないと言われた。
幼馴染とはいえ、シェイーラも年頃に成長している。だから、第二王子の婚約者であるシェイーラに会いに行くべきではないと。
そう言われた時、俺は初めて……、俺はシェイーラの事、恋愛感情で好きだったのだと気づいた。遅いと言われるのかもしれないけれど、俺にとってシェイーラは大切な女の子だったけれど、そういう意味で好きだなんて気づけていなかったのだ。
気づいた時、流石にショックだった。
シェイーラは第二王子殿下の婚約者だったから。……でもシェイーラが第二王子殿下の婚約者だろうとも俺のやる事は変わらない。相変わらずシェイーラは、心配性だったから。だから、俺はシェイーラの不安を取り除くためにこれからも頑張る事にした。……驚いたことに両親や兄上たちは俺がシェイーラを好きだと元から気づいていたらしく、「今更?」「シェイーラちゃんが婚約を結んだ時にショックを受けてないなあとは思っていたけれど……」などと言われた。
シェイーラとは今まで以上に会えなくなる。手紙も、あまり送るべきではないだろう。婚約者に浮気を疑われるかもしれないから。――でも会えなくても、俺は何かあった時のためにシェイーラを守る存在となりたい。何もないのが一番いいけれど、俺の可愛い幼馴染は心配性だから。
父上や母上には婚約はせずに、騎士になるという目標を口にしたら応援してくれた。幸い俺は三男だったし、何より貴族には珍しく子供の意志を確認してくれる両親だった。学園生活中に好きな相手が出来たらいうのよと言われた。
それから学園に入学をして、俺はより一層、鍛錬に励むこととなる。やれるだけの事は全てやる。全て手を抜かない。―—シェイーラに笑顔になってほしいから。
そんな気持ちで俺は引き続き頑張るのだった。
―——心配性な幼馴染のために、伯爵子息は頑張る事にした。
(心配性な幼馴染のために頑張る伯爵子息は、いつしか『完璧騎士』などと呼ばれるようになる事はまだ、本人も知らない未来の話)
中途半端かもしれませんが、思いついたので一先ず書きました。書けそうなら続きも書きたいです。
幼馴染ものが好きなのもあって、幼馴染設定になりました。
マルコヴィチ・ゴルーフト
伯爵家の三男。シェイーラの幼馴染で、二歳年上。幼馴染が心配性なため、その不安を取り除きたいと無意識な恋心で宣言し努力していた人。学園入学時に恋愛感情に気づくが、婚約者の居る相手なので結ばれる事はないと割り切っている。でも幼馴染は守りたいため努力を欠かさない。結果、『完璧騎士』とか呼ばれるようになる未来が待っている。
シェイーラ以外にはそこまで優しくはない。自分に厳しく、人に厳しくな感じで学園生活を送りそう。多分もてるけど、シェイーラ以外は興味がない。学園に入学してからはシェイーラ断ちをしている。
シェイーラ・メア
公爵家の長女。実は前世の記憶持ち。この世界が乙女ゲームで自分が悪役令嬢の立場だと知って、とても心配していた。幼馴染の発言を嬉しく思っている。幼馴染に好意を抱いているが、王家の希望があったために第二王子の婚約者になった。(ちなみに王家からの希望がなかった場合は両家の当主はマルコとシェイーラを婚約させようと思っていたが、王家の方がはやかった)
学園に入ってからマルコと距離が出来て悲しんでいる。が、両親にも婚約者がいるからと言われて納得はしている。同じ学園に入ったら話しかけよう、とは思っている。
マルコは乙女ゲームでは名前も出てこない。乙女ゲームの始まる高等部二年の頃にはもう卒業済みなため。