表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/87

第二話 異国の街

(ここは・・・・・・やっぱりゼウス大陸のどこかみたいね)


 森の中を適当に進んでいたが、幸運にも彼女は人里を発見することができた。小高い丘の上から、とある街の姿を一望できる。

 だがその街は、登喜子の出身大陸とは、全く異なる様子であった。レンガ式の建物や道が並び立つそこは、こちらの世界の単語で口にするならば、古来西洋風の町である。

 こちらの見える位置にいる人々の姿も全て洋装であり、そして全て祖人である。登喜子が見下ろしている付近には、町内の舗道から、町外への出入り口があり、そこをたった今動物が牽く車が出て、街を出てきたところである。

 こちらの世界の概念ならば馬だと思うだろうが、ここでは違っていて、何とそれは巨大な水鳥である。まあ今は忙しいので、その説明は後にしよう。


(鳥車がまだ現役の輸送手段になってるのね。機械技術が進出していないあたり、ここはゼウス大陸のかなり辺境の方かしらね。まあ場所さえ判ったし、この辺にして、さっさと戻りましょう・・・・・・。しかしこの魔法って、すごい疲れるんだけどね・・・・・・)


 登喜子が両掌を合わせて、何かを念じ始める。すると彼女の身体が、淡く赤く輝きだした。その光は徐々に強くなり、やがて・・・・・・


(えっ!?)


 唐突にその光は消えた。何か不思議現象の前触れかと思いきや、何も起こらないことに、登喜子が一瞬動揺する。


「何で転移できないのよ? 大陸間転移なら、今まで何度もしてきたのに・・・・・・」


 誰もいない場所で、思わず不満を独り言で口にしてしまう登喜子。どうも自分がしようとした何かが上手く行かなかったようである。


(どういうことよ・・・・・・まさか異世界にでも飛ばされた!? いやまさかそんな・・・・・・)


 やや焦りだした最中に、登喜子の視界にあるものが映った。それは街の外側から、こちら側の森林の方へと進み出る数人の人の姿であった。






(私の姿に気づいた? ・・・・・・そういうわけでもないみたいね)


 街から離れて、人気のない林に入り込んだのは、五人ばかり。十代後半ぐらいの若い男女である。彼らは四人で一人の若者を取り囲み、随分と見下した目で話しかけてくる。


「あの・・・・・・僕になんの用で・・・・・・」

「ああ悪いないきなりこんなところに呼びだして。悪いが頼みがあるんだ。俺らに金恵んでくれよ。とりあえず今日は二十万ぐらい」


 囲っている若者のリーダー格らしき者が、右掌を突きだして、ほぼ恐喝同然の不貞不貞しい態度でそう口にする。これはとても頼みと言えるものではない。


「ちょっと何言ってるんだよ! そんなお金あるわけないじゃん!」

「今持ってないなら、今からお前の犬小屋いってさっさと取ってこいよ。“支援金”ていうの、いっぱい貰ってるんだろ?」

「何だよそれ! そんなのあるわけないだろ!」

「惚けんなよ! 新聞とかで散々出てるぜ! お前らクソ難民のために、異国の偽善者共から金が届いてるって! 随分とした額の金が出てるそうじゃないか! それ全部俺らにくれよ。善意で貰った金なんだから、お前も俺らに金を払えばいいだろうが!」

「そんな無茶な・・・・・・貰ったお金でも、明日の暮らしだって・・・・・・ごふっ!?」


 その若者の言葉は最後まで続かなかった。リーダー格の若者が、彼の腹を思いっきり蹴飛ばしたからだ。彼はむせ返りその場で転げ落ちる。そんな彼を暴虐者達が、ケラケラと嘲笑う。

 いや、一人だけ笑っていない者がいた。顔を両手で覆って、泣いているような仕草をしている者がいる。


「非道い・・・・・・非道いわ! 私達はあなたのことを信じてたのよ! あなたみたいな家もない、生きる価値もない、ゴミのような方々にも、ほんの僅かでも、人としての良心があると・・・・・・。もし良心というものがあるなら、自分がどれだけ汚らわしい存在かを認めて、喜んで私達に全てを捧げられるはずでしょ!? それなのにそれすらできずに、善良な民である私達に、そんな声をあげるなんて・・・・・。うわぁああああん! 私こんなに心を傷つけられたの初めてよ!」

「ああ・・・・・・かわいそうなマリア。でも仕方がないことさ、世の中どこにでも、自分の無価値さを受け入れられない悪人はいるものさ。今後こんな屑が世の中にのさばらないためにも、僕達のような、幸福を得られる権利がある、善良な民がしっかりしつけてあげないと」

「そうよこいつ絶対に許せないわ。世のため人のために、私達がしっかり成敗しないと」


 泣き崩れるような仕草の女と、それを慰めるような動作の男。最もそれは振りだけで、よく見ると彼らの口元はにやけている。

 そしてその場で行われる、倒れた者に何度も蹴りつける集団暴行。どうも彼らの目的は、金よりもむしろ、この暴行がしたいからのように見える。






 さて丘の上から、その一部始終を見ていた登喜子。あの被害者の若者の内情は判らないが、かなり非道い差別行動をされているのは明白であった。


(うわあ・・・・・・非道いわね。本当なら、私には関係のないことだけど。でも・・・・・・駄目よ! 私はきっちり反省して、これからは誠実な大人として生きていくことに決めたんだから! 誠実な大人として、ここでやるべきは勿論・・・・・・)







「判ったらさっさと金を持ってこいよ! 出せなかったら、てめえと他の避難民の犬小屋に、火を付け・・・・・・」


 ダン!


 血と泥でボロボロの彼を見下ろす、リーダー格の男の声は、その銃声が放たれた瞬間、永遠に閉ざされた。

 突如リーダー格の頭が、スイカ割りが決まったかのように破裂したのだ。彼の後頭部に小さな穴が開き、そしてその裏側の彼の顔の右半分が、盛大に砕け散る。大量の血・脳汁・潰れた眼球が、花火のように盛大に飛び散った。


 この瞬間、その場の空気が止まった。この場にいる誰もが、何が起こったのか、全く理解できなかったのだ。

 永遠に顔の半分がなくなった加害者リーダー格の身体が、倒れた被害者の、すぐ側にバッタリと倒れ込む。


 その被害者は、全身に加害者リーダーの、身体から出たゴミを浴びて、全身をびっしょり赤く濡らしながら、口をあんぐり開けて唖然としきっていた。それは他の加害者達も同じで、目を丸くして、しばしその場で硬直した。


「ちょっ・・・・・・何・・・」


 ダン! ダン! ダン! ダン!


 唖然としながらも、ようやく先程マリアと呼ばれた女性が、何か声を上げようとしたが、その言葉の続きは出ない。

 他の者達も同じ。次々と発せられる銃声と共に、その場にいる全員が沈黙した。彼らの身に起こった現象は、先程のリーダー格と全く同じ。彼ら自身の肉体の一部で、その町外れの林の地面を汚しながら、バタバタと倒れていった。

 そしてその亡骸の真ん中で、更に彼らの一部で身体を汚した被害者の若者は・・・・・・


「ぎゃぁあああああーーーーー!」






 さて登喜子はと言うと、最初にいた丘から降りて、暴行事件が起きている場所付近の、林の木陰に隠れていた。

 そして彼女の手には、プカプカと煙を吐いている拳銃が握られていた。そして彼女は、絶叫を上げて逃げる被害者の後ろ姿を見て、実に心地良さそうにいった。


「あらあら、あんな大声上げて走り出して・・・・・・そんなに嬉しかったのかしら? う~~ん、やっぱり善いことした後は気持ちいいわね~~~!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ