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第十二話 ロア教

 それから数時間ほどして、三人はとある林道の中を揃って歩いていた。

 それは林道というより街道と言った方がいいかもしれない。道幅はそれなりにあり、地面に雑草は少なくかなり踏み固められている。周囲を木々に覆われた道の端、林のとの境界線近くには、こことは別の町への道を印した看板まであった。


「どうネル。その服の着心地は?」

「ああうん、確かに姐さんが言っとった通り、いまいちですわ。まあ、あのババアが寄越してきた安物の服と、そう違いはないかも・・・・・・」

「まあ、今は寒ささえ凌げればそれでいいわ。今はそれで我慢しなさい」


 この時ネルは、登喜子が作った白い着物を着ていた。彼女のサイズに丁度良く作られた、服も帯も真っ白なアマテラス式の服である。

 そんな風に彼女らが会話している中、てんやわんやの上に、結局同行することになったヒューゴ。そんな彼が、ずっと不機嫌そうに後をついている中、ふと登喜子が後ろを向いて、彼に語りかけた。


「そういやさっき聞き忘れたけどさ。あの看板に書いてある街って、空港とかあるかしら?」

「空港? まあ・・・・・・機械の乗り物じゃなくて、ジャイアントダックの空港なら、確かあったはずだ。前にあの町に行ったの、俺がまだ小学の時で、あんまし覚えてないけど。確かあそこって、代金が凄い高いって聞いた覚えがある気がする・・・・・・」

「やっぱり問題は金か・・・・・・う~~ん、武器は山ほどあるのに、金だけないとはどうするべきか・・・・・・。どこかに殺してよさそうな野盗とか、この辺りにいない? そいつから金をぶんどれればいいけど・・・・・・」

「いや・・・・・・そういうのは、別に聞いたことはないけど・・・・・・」


 救助隊が動いている場所を避けて、あの焼けた町から、別の町へと至る道を見つけて、そこを辿る一行。

 先日あんな事件があったためか、現在の所、この街道を通る物はいない。一応次の目的地は決まったものの、旅費がない問題は未だに解決していなかった。


「ああそうだヒューゴ。はいこれ」


 まるで母親が子供に小遣いを上げるような調子で、登喜子はヒューゴにある物を差し出した。それは先程の箱にあったものの一つと思われる、一丁の拳銃であった。

 唐突に差し出されたそれに、ヒューゴは目を丸くする。


「はいこれって・・・・・・いや、そんなの出してどうしろと?」

「何ってこれを持ってなさいよ。護身用よ。あんなテロリストが彷徨いているような国だし、一応身を守る物は必要でしょ? あんたあんまり鍛えてないみたいだけど、拳銃ぐらいは撃てるでしょ?」

「いやいやいや・・・・・・こんなのいらないよ! ていうかこんなの持ってたら、普通に捕まるし・・・・・・」


 差し出されたそれを、慌てて拒否するヒューゴに、登喜子は呆れた様子であった。


「ちょっとちょっと・・・・・・何よその意気地なしの言葉は? そんなもん、懐に隠してれば、どうせばれないものよ。もし見つかっても、すぐにそいつを射殺して口封じできるぐらいの度胸を出しなさいと、男が廃るわよ?」

「何言ってんだよ!? 度胸とかいう問題!? いいから俺に銃はいらないよ」

「そんなに怒鳴らないでよ。半分は冗談だっての。全くしょうがないわね・・・・・・そんなに銃が嫌なら、この手榴弾を・・・・・・」

「半分って・・・・・・? いや、だからそういうのはいいって!」


 色々言い合った末に、結局のところヒューゴは、火器ではない軍用ナイフを受け取ることになった。腰に物騒な物を差していることに、大分薄ら寒いものを感じていた。


「そういやあんちゃんって、何か特技とかありますかい? こんな形で出会ったんだから、何か秘められて力とかあるんじゃありません?」

「そんなのあるわけないだろ! ・・・・・・まあ強いて言うなら、占いが結構得意ってことかな? 小さい頃に、本で読んだカード占いが、何故かよく当たったし」

「小さい頃? それって単なる偶然じゃありませんかい?」

「まあ・・・・・・もしかしたらそうかも。最近は全然やってないし」


 ふとヒューゴはあることを思いだし、今の話題とは別のことを、登喜子に問いかけた。


「俺の方も、一つそっちに聞きたいことがある・・・・・・。昨日俺たちの町を襲った、あの空飛ぶ機械の乗り物。あれもお前が密輸してきた物なのか?」

「いいえ違うわ。戦車なら運んだことあるけど、あれはないわね」


 やや責めるよう口調の問いかけに対し、登喜子は即座に否定する。


「私が捕まった後で、あの組織も壊滅したって聞いてたけど・・・・・・実際まだ、武器に密輸は続いているみたいね。まあ、私ほど優秀な運び屋がいるかは知らないけど、同じような商売を考える奴らは、まだいっぱいいるということね。それにしてもよく、あんな潰れかけた宗教が、あんな武器を買えたものだわ。あの武器、私が渡したのはロア教じゃなくて、どっかの国の王様だったのに。それにヘリを操縦できるエリートを雇うのだって、相当な大変だろうに・・・・・・」


 改めて、昨日の襲撃者の新ロア教団の武力と、自分が持ち出した武器が別の者の手に渡っていた事実に、疑問を呈する。

 だが生憎、教団の財力も、密売武器の価格も知らない者には、計り知れようがない話しだが。


「それはどうだろう? あいつらも元はゼウス大陸全土の国教だったんだし、どこかに隠し財産でもあったんじゃないの?」


 かの教団の前身は、かつてこの大陸全土で勢力を誇っていた、女神ロアを信仰するロア教という宗教である。

 大陸の国々の半数が、これを国教としていた一大勢力だった。そしてその宗主国と称するディークという国は、実質このゼウス大陸の中心国家であった。


 だがその長きに渡って権勢を誇った宗教は、ある“事件”を発端にして、それまで積み重ねた、あまりに多くの虚偽と暴虐が、世間に暴露された。

 それによって、殆どの国が、このロア教の廃教を宣言し、ロア教は僅か数年という短期間で、実質滅亡した。


 だがしばらくして、ロア教の復興を求める者達が、各地でテロ事件を起こすようになる。ロアの教えを捨てた者を、裏切り者と名指しし、各地で破壊活動をしている。

 そして再三にわたって、各地にロア教への再改宗を求める声明を出しているのだが、それに呼応する民の話は、新聞でも伝聞でも殆ど聞くことはなかった。


 今や大陸各地で害虫のような扱いをされている新ロア教団だが、どうやったのか異世界の武器を入手し、そのテロ事件が拡大しているのが、大きな問題となっていた。


「あんたが手を貸した密輸組織ってのは、どんな奴らなんだ? 誰がボスかとかは?」

「それなら全員捕まったわね。他に残党がいるかは知らないわ。ていうかそんなこと聞いてどうするわけ? 警察に通報するの? 自分が警察に追われてる立場なのに?」

「それは・・・・・・」

「まあ、そもそも私も、その前の組織のこともよく知らないのよね。出所した後で、身元を明かさない変な奴らに勧誘されたから」

「出所? あんた最近刑期が終わりかけたとか言ってたけど・・・・・・」


 先程の話だと、登喜子がその密売組織に手を貸したのは、数年前の話のはず。それなのに、出所した後という話に矛盾があったが。


「ああ、実は私、密輸で捕まる前にも、一度警察に捕まったことがあるのよ。おかげで刑務所の奴らとも結構昔馴染み。密輸で捕まったときは、五年の刑期ね。私も驚くぐらい短かったけど・・・・・・」

「以前にもって、その時は何をしたんだよ? 殺人か?」

「いいえ、残念だけどそれは秘密よ。私も色々、言いづらい話だから・・・・・・」


 苦笑いをしてその件には答えない登喜子。ヒューゴも、どうせ碌でもない話だろう、それ以上追及はしなかった。



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