立ちションの夫(エッセイ風)
「ねえ、知ってる? ウォッシュ〇ットってTOT×の商標登録なんだってさ」
夫がしたり顔で言った。
そういえば以前、パナ〇ニック製を使っていたときは「シャワートイレ」と説明書にあったような。へえ知らなかった、と私は感心したが、夫のドヤ顔に腹が立ったので無視した。
でも、いちおう聞いてみる。
「そんなのどこで知ったの」
「トイレのフタの裏に書いてあった」
フタの裏?
トイレである。ゴミ箱のフタなどとは違う。トイレのフタの裏をじっくり見る機会など、彼になぜあるのか、と考えたとき急に思い当った。
家族で唯一、彼だけが立ちションしている。
この家でただ一人、トイレの蓋と向き合っているのだ。小便をしているとき、彼はトイレの豆知識を得ていたのだ。
同時に――私は、「立ちションはトイレが汚れるから止めて」「えーわかった」と(嫌々ながら)誓ったはずの彼が約束を破っていることにも気づいてしまった。問いつめると、やはり図星であった。
夫のテンションがあからさまに落ちていく様子に満足した私は、気分転換にトイレ掃除をすることにした。しゃがんで床を拭いているとき、ふと気づく。私も掃除のときだけは、トイレの蓋と対面する蜜月タイムが存在したのだ。
トイレの蓋には、実にいろいろな注意書きがある。
文末に夫のいう商標登録の件があり、「あいつこんなものを読んでいたのか」とおかしくなる。しかし、とある一文を発見して、私は激しいパニックに襲われた。
【ウォッシュ〇ットの清掃について~トイレ用洗剤を使用しないでください。】
……え?
……ええっ!?
…………うおえええええ!!!
トイレ用洗剤を使わないでくださいって。今思いっきり使っちゃってますけど……!
というか、トイレ掃除にトイレ用洗剤を使うな、とはどういうことか。ちょっと人をバカにしているのではないか。だったら一体どんな洗剤を使えばよいのか。
混乱のまま手元のスマホで検索すると、どうやらプラスチック部分のだけのことであって、しかもすべてのトイレ用洗剤がダメというわけでなく、酸性・アルカリ性をのぞく、中性洗剤であればOKとのこと。我が家で使っている洗剤は――中性! セーフ。トイレの神様は私を見捨てていなかった。
しかし、である。数十分前にトイレの蓋の件で夫をこらしめた私が、同じくトイレの蓋で衝撃を受けるハメになるとは……。清掃を終えた後、私はしばし、ギリギリの闘いを生き残った兵士のように呆然としていた。
トイレの蓋には、トリビアとカオスが溢れている。
下品ですみません^^;フィクションだと思っていただければ…。注意書きの内容は、ざっと調べただけですので、気になるかたはもう一度お調べになることを勧めます。