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手記:彼について
彼はとても不遜だった。
彼はとても慇懃だった。
軽薄で、斜に構え、太々しく、無礼で、口を開けば悪態と皮肉の大売り出し。
身なりがある程度整っていなければ、貧民街出身の悪童か、裏路地で安酒片手に管を巻く破落戸か、よくて闇組織の下っ端――あの鮮烈かつ印象深い邂逅がなければ、私は間違いなくそう彼を印象付けにしたことだろう。
いや、殆どその通りだった。
助けられた事実があってなお、私が彼に抱いた印象はそんなものだった。
彼という存在に利用価値がなければ、関わろうとも思わなかった。
ああ、認めよう。
ああ、認めようじゃないか。
はじめて彼と出会ったとき、私は確かに思ったとも。
私は、彼が嫌いだったさ。




