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手記:ある男の独白
いつ思い返しても、私にとってあの頃は実に眩い時代だったと思う。
偉大なる大英帝国。我が愛する祖国。その首都。巨大となった蒸気機関都市を、上司の指示で奮闘していた時代だ。
私は私が最も敬愛し、尊敬する上司の元で英国のみならず、世界中を駆けずり回った。
キューバに、インドに、時に合衆国にも。
軍人として働いたこともあれば、身分を偽って活動もした。すべてはこの愛すべき大英帝国のためだ。
だが、やはりいつの頃が心躍る時代だったかと振り返れば、やはりあの頃だ。
蒸気機関文明の発展目覚ましき十九世紀末。
まだ獅子などと仰々しい呼ばれ方をしなかった時代。
遊ぼ人の風体でロンドンのあちこちを楽しく歩き回った若き日。
愉快な日々だった。
心が躍る日々だった。
それ以上に苦労もしたが、やはり記憶を振り返って鮮明に思い出せるのはあの頃だ。
そう。
あの頃。
一九九五年の夏。
私が、生涯において友と呼ぶ一人に出会ったのも、その頃だ。




