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八幕『選ばれた対抗神話』Ⅹ



 すべての銃弾が、すべての砲弾が、すべての術式が、狙い済ましたように――あるいは吸い込まれるようにトバリへと殺到し、爆発する。まるで太陽が発熱したかのような凄まじい光が地下を照らし、その様子を見上げるアリステラが満面の笑みを浮かべた。

「ああ、可哀想な《血塗れの怪物》。自分を英雄か何かと勘違いしていたのかしら? でも残念ね。グレンデル――それは怪物殺しの英雄(ベイオウルフ)に殺される哀れな怪物の名前。英雄でも救世主でもなく、(ヴィラン)を滅ぼす正義(ヒーロー)ではないのよ」

 そう追悼の言葉のように囁き、アリステラは視線を巡らせる。次なる標的――まだ残っているであろう愚かな妹(クオリ)を探そうと《似人偽神》に探させようとした――そのときである。


 ぎちぎちぎちぎち――


 《似人偽神》が奇声を上げるのを聞いたアリステラは、ふと頭上を見上げて――其処に広がっていた光景に目を丸くする。

 鋼鉄の――そう。

鋼鉄の翼を広げた影が、その手に身の丈程ある剣を振り翳して迫って来る。白衣の背中に鋼鉄の翼を広げ、雷光の如く飛来するのは――


「――アリステラ……リーデルシュタインッ!」


 ――アリステラの名を叫ぶクオリの姿!

 その手に握るのは、奇しくもトバリが名付けた《機関戦姫》と同じ、《剣翼機関(ヴァルキュリア)》の副兵装たる長大剣だ。

 頭上はるか高くから急降下し、剣を振り被る妹の姿に、アリステラはにんまりと口元を歪めてクオリを迎え撃つ。

 振り下ろされる剣と、振り上げられた腕に宿る術式が激突し、火花を散らす。

 アリステラが腕に纏わせたのは、光輝の干渉術式。対するクオリの剣は、鋼鉄の長剣である。本来ならば、前者のほうが圧倒的に有利であろう。だが、クオリの振るう剣は、アリステラ自らが最高傑作と言わしめる機関機械の武装である。単純な干渉術式程度ならば、容易に受け止めることも――


「――はぁぁああああああっ!」


 霧散させることすら可能とする!

 アリステラの干渉術式が、硝子が割れるような破砕音を響かせて消滅する。一瞬遅れ、クオリの刃がアリステラへと振り下ろされて――しかし、機関の魔女はそれを紙一重で躱した。まるで達人のような無駄のない精錬された体捌きで回避し、反撃といわんばかりに赤光纏う拳撃がクオリへと叩き込まれる。

 しかし、同時にクオリの背の機関翼が鳴動を始めた。アリステラの拳が届く寸前――逆噴射(バックファイア)とともに大きく距離を開け――そして空中で瞬間静止。同時に翼が再び震えると、一瞬にしてアリステラとの距離をゼロに詰めていく!


「あははっ! 凄いじゃないの、クオリ! そこまで《剣翼機関》を使いこなせているなんて! これは予想外だったわ。私も耄碌したかしら?」


「そうですね・・・・・だって貴女は、一度だって、誰かをはっきり見ようとしたことなんか、ないでしょう。だから、この程度のことにも。直面して初めて気づくんです」


「ご指摘ありがとう。そうみたいね。だって、貴女がそんな皮肉を口にすることも、今始めて知ったわ」


 言って、アリステラはにっこりと笑う。口元にー―口元だけに(、、、、、)、綺麗な笑みを浮かべるアリステラ。

  言って、アリステラはにっこりと笑う。口元に~―口元だけに綺麗な笑みを浮かべるアリステラ。

 そしてそんな綺麗な笑みと相反するように、瞳にはなんの感慨も抱いていない――それはなんて、なんて美しく、空虚で壮絶な微笑なことか。


「アリスっ……!」


「どうしたのクオリ? そんな泣きそうな顔をして?」


「貴女が! 貴女がそんな風だから、私はっ!」


 繰り捨てた気持ちが何処かで燻っていて、だけどそれを言葉にすることができなくて。クオリはただ言葉なく叫び、代わりに想いの丈を剣に込めてアリステラに肉薄する。

 上段から、あるいは袈裟に、横一線に振るわれ迫る刃を、舞うように躱し、踊るように捌いて、干渉術式で受け流し――アリステラは楽しそうに笑って。


「凄い、凄いわ。本当に上手になったのね。下らない鉄砲なんかより、貴女は剣のほうがよっぽどお似合いね、クオリ!」


 嬉しそうにアリステラが感嘆と賞賛の声を――万感の思いを込めて上げた。

 こんな科白を今、どうしてこの人は零すのだろう。クオリはなんだか泣きたい気持ちになった。

 そんな言葉はもっと、もっと違う場面で貰えたのなら、どんなに嬉しかったことだろうか。

 剣を交えるような場所じゃなくて。

 命のやり取りをするような場面じゃなくて。

明るくて、眩くて、優しい陽だまりのような場所でだったなら。きっと自分は泣いて、笑って、抱き着いて喜んだだろう。

 だけど、そんな場所には辿り着くことはないのだ。

 クオリとアリステラの道は、完全に別離したのだ。

 だからほら――今、こうして殺し合っている。

 笑うアリステラが齎した、忌々しい機関の翼と剣を振るって相対する道を選んだ。だから――


「――アリス!」


 かつて呼んでいた姉の愛称を叫びながら、クオリは天高くへと舞い上がり、アリステラへと向かって急降下する。


「いいわ、クオリ。《剣翼機関》をそこまで使いこなしたご褒美――全力で、応えてあげる!」


 アリステラは声を上げ、《似人偽神》の胸部へと飛び移り、同時にその全身に廻る《干渉機関》を開放した。

 彼女の身体に走る赤い光帯――それと全く同じものが《似人偽神》の体表にも描かれ、《似人偽神》の動きが、アリステラの挙動と完全に同期する!

 同時に、《似人偽神》の掌に描かれる、巨大な円環の幾何学文様。それは大規模干渉術式の術陣――空間干渉の干渉術式アインシュタイン・コード



 ――ぎちぎちぎち……!



 ――びきびきびき……!



 空間そのものに響き渡る軋轢の音。同時に《似人偽神》の掲げる手の内の空間が歪み――周囲に存在するあらゆる物体が飲み込まれていく。

 多重発生過剰重力場が生み出す圧縮現象――暗黒点(シュヴァルツシルト)。空間干渉によって行使される術式としては最強最悪の類の術式を振り翳し、《似人偽神(アリステラ)》が醜悪に笑う。


「さあおいで、クオリ。素晴らしい世界に、今度こそ連れて行ってあげる!」


 揺らがない機関世界への妄執を叫び、アリステラが干渉術式を放つ。

 そんな彼女を見下ろして、クオリもまた最後の一涙を零し――応えるように、そして彼女の思いを否定するために剣を突き出す!


 機関最大。


 機能開放。


 最大出力――否、過剰起動。


 クオリの意思に応えるように、機関機械の翼が凄まじい鳴動音と共に、眩い蒼い輝きを放った。噴き出す蒸気はまるで闘気の如く広がり――さながら蒼い大翼を羽ばたかせる戦乙女のように少女の身体は音速すら超えて――





 ――巨大な光の矢と化したクオリの剣戟が、アリステラの放った暗黒点を粉砕する!





 突き進む剣光に穿たれ、掻き消されていくように、アリステラの術式が幻のように霧散していき、その剣戟は術式を掲げていた《似人偽神》すら呑み込んでいき、ロンドンを支える心臓――大機関が、まるで砂のように崩れ散っていく現象に、アリステラが驚愕に目を見開いた。


「嘘! こんなの……こんな機能、私は知らないわ!  これはなに? 砂――いいえ、塩? そんな、まさか!?」


 粉塵と化して崩れ、零れ落ちて来る砂粒上のものが口に入り、塩特有の辛味が味蕾を刺激した瞬間、初めて――アリステラの表情に恐怖の色が浮かんだ。青ざめた顔色で、崩れ去っていく《似人偽神》を、大機関を見やる。

 それは砂状と化しているのではなかった。砂粒上の物質であるのには間違いないが、正確には塩の塊となって崩れ落ちているのである。

 だが、その事実が齎す意味を知ったアリステラにとって、それはただ事ではなかった。

 万物を塩塊と化す力(、、、、、、、、、)なんてものは――思いつく限り一つしかない。そんなものを、まさか自分の妹が手に入れたというのか?

 脳裏に過ぎった可能性をアリステラは信じられず、だが現実に頭に落ちて来る塩の雨を前にしては、信じる以外なくて――

 アリステラは、自分が絶体絶命的状況に陥ったことに気づく。妹の得た力がアリステラの考えた通りのものだとすれば、およそ人の身でそれを防ぐことはできない――それこそ、あの《血塗れの怪物》のような血統でもない限り、絶対に抗うことのできない奇跡そのものなのだ。

 逃れられる可能性としては、干渉術式による転移が唯一の術だが――果たして間に合うだろうか。

そう思考しながらアリステラは術式を展開しようとして――どさりっ、という何かが堕ちてくる音を聞いた。

 アリステラの視線の先――崩れ落ちた地下空間の一角に積もった塩の山の上で、苦悶の表情を浮かべたクオリの姿があった。


「くっ……うぅ」


 立ち上がろうと手足を動かしてはいるが、全く力が入っていないのは誰の目にも明らかだった。

 その姿を注視し、観察し、静観して――ようやく、アリステラは得心が言ったと言う風に口の端を釣り上げた。


「あらあら……どうやら無理をし過ぎたみたいね。力の出し過ぎ。使いすぎ――あの獣の言葉を借りるなら、燃料切れ(エンプティ・ハイ)ってところかしら」


 言いながら、アリステラはくつくつと笑った。ゆっくりと、意識してゆっくりと歩く。そうでないと、嬉しさで足取りが軽くなってしまいそうだったからだ。そうならないように細心の注意を払いながら、アリステラはクオリに歩み寄って、苦しげに顔を歪める妹を見下ろして――


「残念だったわね、クオリ。あと一歩――それだけで貴女の勝利だったかもしれないのに。可哀想に。結果はどうやら私の勝みたいね?」


 そう言って、わざとらしく残念がって――微笑んで見せる。

 クオリはそんなアリステラを見上げ睨み付けた。そんなクオリを、アリステラは嘲笑うように問う。


「そんなに睨んだって駄目よ? だって貴女、今まったく動けないでしょう? だけど私は動けるわ。だから貴女の負けで、私の勝ち――そうでしょう?」


 答えは、

 後ろから。






「――いいや、ミス・クオリの勝ちで、アンタの負けだ。アリステラ・リーデルシュタイン」




 

 

 咄嗟にアリステラが振り返る――それよりも一瞬早く、その胸元を、血のように赤い刃が貫いた。


「油断大敵……こっちでいうなら、|安心は最大の大敵《Security is the greatest enemy》、だったか?」


 視線だけをどうにか振り返らせたアリステラの目に映るのは、全身を血に染めた――そう。あの《心臓喰い(ハート・スナッチャー)》と同じように鱗のような血の結晶を纏った、トバリが立っていた。



「血浄塵型・纏鱗式(テンリンシキ)――センゲの得意とした技だ」



 ずるり……と、アリステラから刃を引き抜くトバリの手に握られているのは、彼愛用の短剣に血を纏わせて作り上げたような、一振りの刀だ。


「――で、こいつが血浄塵型・装刃式(ソウジンシキ)という。ついでにいうと、俺がさっきまで使っていた腕爪は纏刃式(テンジンシキ)って呼ぶわけだが……さて――」


 パラパラと剥がれ落ちていく血色の鱗を零しながら、トバリは膝をつくアリステラを睥睨し、言い放つ。


「俺たちの勝ちだ。違うか、アリステラ・シャール・リーデルシュタイン。異論があるなら、どうぞご自由に」


 にたりと口の端を釣り上げて、トバリはアリステラの横を通り過ぎ、クオリの元へ向かい、見上げる少女を見下ろし、肩を竦めて言った。


「いやー、上手くいって何よりだ――二重の囮作戦。即興だったがまあ成功だろ?」


「成功なものですか……そもそも、貴方がその血の異能を扱えていなかったらどうなっていたんですか?」


「そこはほら。アンタが頑張ったから結果良しだろ?」


 そう冗談のように言って――そっと視線を逸らす。そのわずかなトバリの機微を見逃さなかったクオリが目を丸くし、続いて怒気の顔に浮かべながら「まさか――」と口を開き、


「――悪い。ついさっきまで気絶してた。攻撃は防げても、脳味噌(アタマ)への衝撃までは防げなくってな」


 トバリは指摘されるよりも先に素直に答えた。

 元々の作戦では、トバリがアリステラの攻撃を纏鱗式で防いで身を隠し、その隙にクオリが注意を引き付けて、とどめをトバリが刺す――という、作戦と呼ぶには余りに杜撰な策だったわけなのだが……こと実行に移した際、術式と砲弾は防げたものの、直撃による衝撃で脳震盪を起こしてしまい、出てくるのが遅れたのである。

 倒れるクオリに手を貸しながら、トバリは悪びれる様子も見せずに言う。


「怒るな、ぎりぎり間に合っただろ?」


「――怒らないと思いますか?」差し出されたトバリの手を摑みながら、クオリは殺気を込めてトバリを睨む。


「まあ、怒るよな。俺がアンタの立場なら、普通に怒る」


 そう言って苦笑を浮かべるトバリの背に、


「随分……楽しそうな……掛け合い……ね?」


 息も絶え絶えと言った様子で、アリステラが言った。

 トバリとクオリは、揃って視線をアリステラに向ける。彼女は仰向けに倒れた姿勢で、此方を仰ぎ見、口の端から一筋血を零しながら――くつくつと笑っていた。


「そんなお粗末な作戦に……してやられたなんて……屈辱だわ」


「そいつぁ最高の感想だな。アンタに少しでも苦渋を味合わせられりゃあ、センゲの奴も少しは気が晴れるだろ」


「そうね……あの子なら、『ざまあみろ』とか言いそう……だわ」


 それにはまったく以て同意見だった。草葉の陰で白い髪を揺らしながらゲラゲラと笑っているのが容易に想像できてしまう。

 トバリはそんなセンゲの姿を想像して肩を竦め――努めて冷徹な眼差しをアリステラに向けながら、世間話を始めた。


「――ロンドンの地下が、どういう場所か知ってるか? 汚濁と汚物と餓えた小動物、他には遺伝子変異物質で変異した奇形生物咎がうようよしてやがる。大機関区画の下にも、それは広がっている」


「……それが……なにか?」


 そんなことは知っていると言う風に、アリステラがうっすらと笑って聞き返してきたので、トバリはこともなげに答えた。


「別に。其処に死体が転がるとどうなるかってぇとな。先ずデカい獣が集まって来て、肉を食う。デカい部分は大抵そこで消える。ボロボロになったところで、次にやって来るのが鼠とかの小さい奴だ。そいつらが骨の髄までしゃぶっていって、腐った個所以外を全部綺麗にしてくれる。そのあとにやって来るのが蟲どもだ。腐った部分に卵を産み付けて、其処で孵化させ、生まれた直後の栄養にするってわけだが……まあ、何が言いたいかって言うとだ」


 そこで一旦言葉を区切って吐息を吐く。「お願いだ」と前置きをし、トバリは自分の中にあるありったけの憎悪と敵意を込めて言葉を口にした。



「ただできるだけ惨たらしく、できるだけ苦しんで、できるだけ後悔して――そして死んでくれ」


 

「俺からは以上だ」その言葉を最後に、トバリは興味を失ったように視線を逸らし――クオリを見た。

 彼女は今まさにトバリが口にした言葉の意味を理解して、またも泣きそうな顔をしながら――


「――さようなら、アリステラ」


 そう、別れの言葉を口にしてトバリと共に彼女の元を離れる。

 その背に向けて、アリステラはくつくつと笑い、笑い、嗤って――

 


 塩が崩れる音共に、その笑い声は――奈落の底へと沈んでいった。



 それが――この世界の中心と言われる大機関都市ロンドンの陰で暗躍していた、蒸気機関の怪物を生み出した魔女、呆気ない最期だった。



「……せめて、安らかに」


 歩きながらクオリが小さくそう零したのを聞いたトバリは、しばし迷った後、視線を頭上に向けながら肩を竦め――ふと、辺りを見回しながら言った。

 アリステラのしたことを思えば、当然許されることではないだろう。むしろことが知られれば多くの人間から恨まれ、非難され続けることだろう。実際、トバリとしてもセンゲの件もあるから、遺恨がないと言えば嘘になるが――それでも、身内であるクオリくらい、そう祈るのは構わないだろうと思った。

 勿論、口にはしないけど。

 代わりに、


「そういや、ヴィンスの奴は何処に行ったんだ? どっかに隠れてんのか、あいつ」


 そうトバリに言われて、クオリは「ああ……」と何かを思い出すように視線を彷徨わせながら答える。


「確か……裏でこそこそすると言っていました。私たちが勝たないと意味がないことだそうですが……」


「そいつぁまた縁起のない科白だ」


「――随分な言い草じゃあないか、トバリよ」


 不意に……いや。あるいは狙っていたかのような機会で現れる声に、トバリたちは足を止めて。声の聞こえてきた方向――今まさにその場を離れつつあった背後を振り返った。

 そして、奈落の底からひょっこりと姿を現した男――ヴィンセント・サン=ジェルマンの姿を目にしたトバリは、盛大な溜め息を込め、万感の思いと共に尋ねることとした。


「……あんまり聞きたくはないが、敢えて問うぞ――ヴィンス、何してんだ?」


「迎えに来たんだ。此処から歩いて帰るには、流石に地上は遠い」


 そう言って微笑むヴィンセントが乗っているのは、ロンドンでは決して珍しくない飛行用機械――|回転羽根付飛行機械《ダ・ヴィンチ=フライト》である。


「――もしかしてこれを用意しに行ったんですか?」


 それを見て、クオリは名状しがたい奇妙な表情を浮かべながらそう訊ねると、ヴィンセントは得意げに口元を綻ばせながら頷いて見せる。


「そうだとも。流石に君たちも長丁場で疲れていると思ってね。帰りの乗り物があってもいいだろうと思って、こうして急ぎ調達してきたわけだ」


 誇らしげに胸を張るヴィンセントの姿に、トバリたちは顔を突き合わせて暫し粥を顰めた後――苦笑いと共に肩を竦めた。


「それじゃあ、運転手さん。乗せて貰えるかな」


「勿論だ、友よ――あ! 勿論、レディファーストからだがね」


 そう言って片目を瞑るヴィンセントに、トバリはやれやれと苦笑し、クオリもくすりと笑いながら回転羽根付飛行機械に乗り込んだ。


「――ですけど、どうやって出る気ですか?」とクオリの問いに、「そ

りゃあれだろ。誰かさんが小細工で爆破してできた穴とかからだろ?」とトバリが適当に答える。

 すると、ヴィンセントは「正解だ」と言わんばかりに口の端を釣り上げて、こともあろうにこう言ったのである。


「そう褒めるな、照れるだろ」


「褒めてない」

「褒めてません」


 二人の呆れ交じりの糾弾に、しかしてヴィンセントは呵々と笑った。


「まったき素晴らしき哉、素晴らしき哉! さあ諸君、勝利の凱旋といこうじゃあないか!」


 錬金術師はそう言ってなお笑い、三人を乗せた回転羽根付飛行機械はゆっくりと地上を目指して浮上したのだった。












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