九十八話 魔王院ありさ改めイービルクイーン!
「なんだあいつ、急に笑い出したぞ」
「壊れたか?」
豊太郎と悠がイービルクイーンの様子を怪しむ。
「あいつ、魔王院ありさじゃなくてイービルクイーンでいいんだよね」
「恐らくは」
司とアマツカは相手の正体を確認する。
「てかあたしら今まであんなバケモノと戦ってたとかありゃしないわよ、どうりで苦戦するはずだわ」
李梨香は相手の恐ろしさを改めて実感する。異世界で伝説とも言われた怪物と既に二度も戦ったのだ、驚くのは当然であろう。
「思いだした、思いだしたぞ!我は魔王院ありさなどという名前ではない、我は悪魔の女王イービルクイーンである!ふははははは!」
イービルクイーンが名乗りを上げる。
「いやわざわざ名乗らなくても知ってたけども、さっき見たし」
司の容赦ない突っ込み。
「たわけ!そういうのは知ってても聞くのが華というものよ」
イービルクイーンが腕を振りながら語る。
「はあ………」
言われた言葉の意味がいまいち分からない司。
「それよりも、さっきの続きじゃ。妙な夢のせいで中断しておったからの」
「やべえな、俺達のモンスターは全員ボロボロだ。戦えるのか?」
豊太郎が不安を口にする。
「大丈夫だよ豊太郎、なぜだが知らないけどさっきから力がみなぎってるんだ」
「マジかよ」
「ああ、だからまだ戦える」
「マスター、ご指示を!」
臨戦態勢を崩さないモンスター達、なんと頼りがいのある仲間達だろうか。
「僕もいるよ!」
「あたしもね」
司と李梨香も声を上げる。
「お前はやめておけ、魔法使いじゃないんだから戦えないだろ」
悠が司を止めようとする。司の格好は青いラインの走った白いシャツに青いズボン、青いマントというオシャレではあるが至って普通の格好だ。李梨香のような魔法少女然とした姿ではない。
「それが違うんだよね」
司が特殊な形状の銃を見せる。
「なんか李梨香さんが使ってたやつに似てね?」
豊太郎が銃の形状に目をつける。
「どう、これで僕も魔法使いだって分かってくれた?」
司が確認をとる。
「いいだろう、だが無茶はするなよ」
悠が承諾する。
「分かってるって」
「覚悟は決まったようじゃの」
イービルクイーンが構えを取り、いざ戦おうとした時青黒い霧が現れ辺り一面に広がる。
「なんじゃ、なんじゃなんじゃ?!」
「何か来る!」
イービルクイーンと司、モンスター達が警戒する。
「ははは、はっはっは」
霧と共に地の底から来るような鈍い笑い声が響く。
「何のようじゃ!これは元々我々の作戦のはず、お主が出る幕ではないぞ!」
声の正体を知ってるのかイービルクイーンが叫ぶ。
「ねえアマツカ、あの声って…………」
「ああ間違いない、博物館の地下で聞いたのと同じだ」
司とアマツカも知ってるのか互いに確認をとる。
司達が謎の青黒い霧に戸惑う中霧がイービルクイーンのところまで増えていき彼女の首を掴む。
「ぐ、お主………なんのつもりだ………?」
イービルクイーンが苦悶の声を上げると霧が晴れその正体が露わになる。するとイービルクイーンの目の前には落ち着いた雰囲気の顔の老人が立っており彼女の首に伸びていた。老人の顔からはとても少女の首を掴んで持ち上げられるほどの力は伺えない、しかしその腕には隆々と筋肉が膨らんでいた。
「間違いない、アンダーウィザードの博物館の地下でテンザて人といっしょにいたえーとえーと………………名前なんだっけ?」
老人の顔を見たことがある司が名前を思い出そうとするがなぜか出てこない。というか顔を見ただけで実際は名前は知らないのである。
「ズコッ、知らないのかよ!」
思わずその場でコケてしまう豊太郎。
「確か名前は………あ、わたしも知らん」
アマツカもお手上げである。
「駄目じゃない!てか二人共知らないの?!あの人の名前」
李梨香まで突っ込む。
「そこのひとー!あのおじいちゃん名前なんて言うのー?」
離れた場所にいる京之助に聞く司。
「首領殿の名は………知らない。私も知らないんだ、そもそも首領殿の名前は組織でも知ってる人間がいるかどうか………。それほど謎の人物なんだ首領殿は」
アンダーウィザーズ首領、その組織の幹部や重要人物達とは何度も戦っているものの首領そのものとはほとんど接触がなく正体も謎のままである。それは組織内部の人間も同じであった。
「おや、そんなに私の名前を知りたいかい?」
老人が声を上げる。
「おい、そんなことより我を助けんか!首締められて死にそうなんじゃぞ!」
イービルクイーンが叫ぶ。一応彼女もモンスターなので首を締められたぐらいでは死なないがそれでも首を締められるという行為はかなり苦しいようだ。
「ええ……」
嫌がる司、流石に何度も死闘を繰り広げた相手を助けるというのは簡単にはいかないようだ。
「ほれ、敵の敵は味方というじゃろ」
「いや、意味分かんないし」
「ふん」
「うっ、ケホッケホッ」
イービルクイーンが煩かったのか彼女を放りなげる老人。首を締められたダメージで咳き込むイービルクイーン。
すると老人の姿が変わる。先ほどよりも遥かに大きい巨体、巨大な牙と角、吊り上がった眉、太い腕に分厚い胸板、蒼い肌に黒い革製ズボンといういかにも人間離れした見た目をしていた。その姿を見た者達は怪物の姿そのものではなくその姿が先ほどMギアから見せられた映像にいたオーガに似ていることに驚いた。
「こいつまさか……」
「ええ、間違いないようね」
「マジかよ……」
「では改めて自己紹介しよう。わたしの名はキングオーガ、オーガ族の王と言ったところかな。君達の敵であるアンダーウィザーズの首領をしている。そこのイービルクイーンを復活させて育てた人と言ってもいいかな」
キングオーガと名乗った人物の言葉にやはりと頷く司達、彼こそがイービルクイーンを復活させた黒幕ということで間違いないようだ。
「かつて世界を滅ぼしかけた女王イービルクイーン、その力を自分のものに出来ればと思って記憶とか力とか色々調整してたんだよ。今回は娘が自分で作戦をやるみたいで心配になって来てみれば肝心の記憶が戻っちゃってね、流石にこれじゃあ操れないから始末しに来たってわけさ」
キングオーガがここに来たわけを語る。先ほどまで魔王院ありさと名乗っていたものに対する愛着や愛情などは微塵も感じさせない冷徹さである。
「ほう。貴様、我を始末出来る気か。我は曲がりなりにもかつて魔界を滅ぼしかけた女じゃぞ?調子に乗るのも甚だしいのではないか」
イービルクイーンが下に見られてるもその実績に矜恃があるのか余裕を持って返す。
「なら、やってみるかい?」
キングオーガの挑発。
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