九話 黒羽紗栄子の裏切り
今回で話が一段落します
彩音の視線上に突如ワンボックスカーが現れる。車は猛スピードで現れ停止すると中から警察の機動隊にも似た戦闘服を来た人間達が出てくる。その中の一人、榊佳代子が叫ぶ。
「ようやく見つけたわよ、黒羽彩音!おとなしく我々に投降しなさい!」
「なんだこいつら、お前の仲間か?」
男が背後に現れた集団に驚く。
「そうなんだけどちょっと仲間割れしててね。ちょっと相手お願い出来る?」
先ほどまで自分が戦っていた相手に組織の部隊の相手をさせその場を立ち去る彩音。
「お、おい!」
残される半裸コートの男。
「逃がすな、追え!」
佳代子は部隊に彩音追わせる。
「いえ、その必要はありません」
しかし李梨花がそれを制する。
「李梨花さん、あの人からする魔力って……」
美海は目の前の男からする感覚に覚えがあるようだ。さらに李梨花から驚愕の言葉が出る。
「ええ、分かってる。あんた、その剣で何人殺したた?」
「どういうこと?」
李梨花の言葉に佳代子が反応する。
「黒羽彩音による犯罪は全て勘違いだったてことですよ」
「嘘でしょ!?」
佳代子は衝撃におののく。
「とにかく今は目の前のあいつを倒しましょう」
「ええ」
「へえ分かるのか、いつぞやの魔法使いのお嬢ちゃん」
男が李梨花の言葉に感心を示す。
「だってあんたの目、何人も殺して来ましたって目してるし」
「ほう、そこまで分かるなんてな。そう、俺様はこの剣で恐怖で震える女達も殺して来たのさ、仲間といっしょになぁ。その時の女のビビる顔と声といったらもうたまんないぜ、ヒッヒッヒ」
男が顔歪ませて独白する。
「やっぱあんたまともじゃないわね、問答無用で殺す」
李梨花はペンダントを取り出しボタンを押す。呼吸を整え意識を集中する。勝手が分かってのことか今回は呪文なしで変身する。
「撃て!」
佳代子の命令で李梨花を含めた部隊が特殊な銃から弾丸を発射する。剣で受けるが銃弾の雨を受け徐々に後退していく男。だが銃弾は常に男を襲うわけではない、銃弾を受けてから次の銃弾が来るわずかな間に男は跳躍、上空から仕掛ける。
「李梨花以外の者は退避、李梨花は敵の迎撃を!」
「はっ!」
佳代子は部隊を後退させ李梨花に接近戦をさせる。
「こっからはっ、あたしのターン!」
李梨花は専用銃を剣に変形させ切り込む。剣と剣が接触、弾かれる。それが繰り返されると佳代子の指示が飛ぶ。
「李梨花、伏せて!」
李梨花がしゃがむと背後からさらなる指示が飛ぶ。
「撃て!」
李梨花の背後から再び部隊の弾丸が発射される。男は無防備な状態で銃弾の雨を受け壁に叩きつけられる。
「李梨花、一気にやっちゃって!」
「了解!」
李梨花は剣を上から斜めに構えると気合いと共に魔力を溜める。
「はぁぁぁ……」
そして対象に向け足を加速ら一気に振り抜く。
「やらせるか!」
男は李梨花よりに先に攻撃を当てようと剣を振り上げるが李梨花の剣が男に届く方が先だった。
剣の一撃を受け仰向けに倒れる男、同時に半裸コートから一般的な服装に戻りそばに宝石片と金属片が落ちる。
「うぅ……」
地面に叩きつけられうめき声を上げる早紀絵。
「殺すには惜しいが追いかけられると面倒なんでね、観念しな」
髪の長い男は早紀絵背中に刃物を突き立てようとする。
「悪いけどそれ以上行ったら君の首が飛ぶよ?」
突如背後から鎌が現れ男の首に突きつけられる。組織から逃げるためにこちら側に移動した彩音だ。
「わ、分かった、やめる、やめるから」
男は恐怖し剣を下げる。
「はい、一名様おまちー」
彩音はそのまま男を引きづりだす。
「ちょ、いたいいたい、鎌食い込んでるって!」
鎌で引きづったため相手の首に刃部分が食い込んだのだ。
「大丈夫だよ、魔法使いて基本的に頑丈だから。いきなり出てきた怪獣に頭だけ食べられる機会も滅多にないし」
「なんの話だよ!いやいや、俺このまま首引きづられたら胴体と分かれて死んじゃうから!」
「助けてくれたのはいいけどえげつねえな、おい」
早紀絵が落ち着き起き上がるが彩音の残虐な行動に辟易する。やはり自分の親友は殺人犯なのかと錯覚する。
「あ、早紀絵ちゃん起きた。大丈夫?」
「あ、ああ、なんとか。それよりそっちの相手は?」
「大丈夫、青い魔法使いさんに任せたから」
「あいつも来たのか」
「わたしを追っかけて来たみたいね。そろそろこっちも仕留めるよ」
彩音は鎌先から雷を発射し男に食らわす。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
男はたまらず悲鳴を上げる。その後男はガクリと膝を付く。そこへ彩音は鎌を振り上げ腰のバックルに埋まっている宝石に当てる。宝石が割れ男の服装が一般的なものになる。彩音が鎌を男から話すと男はバタリと倒れる。彩音が脈を取る、命に別状はないようだ。
「そっちも片付いたみたいですね」
「ったく、変なやつあたしのところにけしかけないでよ」
司と李梨花が彩音と早紀絵の元に現れる。
「まあ、いいじゃない。結局片付いたし」
片目を瞑りながら舌を出す彩音。
早紀絵が片腕を背中に、もう片方の手の指で頬をなぞりながら彩音に近づく。
「あ、あのさ彩音、さっきは……ありがとな」
「え、なんだって?聞こえないんだけど」
「さっきは助けてくれてありがとうって言ったの!」
「なに、そんなこと?わたし達親友だよ、そういうのいいって」
「お、おう」
榊佳代子が彩音の前に現れ頭を下げる。
「申し訳ない!あろうことか魔法使い黒羽彩音殿にを襲おうとするなどという無礼、どうかお許しを!」
「そんないいですよ、誤解は解けましたし」
「それではわたしの気が収まりせん、いいお店を紹介します。ささっ」
彩音の手を引く佳代子。
「ちょっと……」
「仕事終わりのお酒はまだ先ですよ」
司がまるで戦いはまだ終わっていないと宣言するように言う。
「え」
「それってどういう」
周りの人間の疑問に答えるよう続ける。
「そろそろ出て来たらどうです?黒羽紗栄子さん」
「気づいていたのね、流石は天使と言ったところかしら」
闇に紛れて紗栄子が現れる。司達が戦った男達と似た格好だが女性用の形状なのかスカートとアンダーウェアの上に狼肩のコートを纏っている。剣も小型化されて小回りの利くようになっている。
「お母さん……!まさか、でもそんな……ありえない。どうして、どこでそんなものを!」
知らない人が奇妙な格好をしても少しの違和感しかないが知り合い、それも家族がやると衝撃は計り知れない。
「分からない?あなたを殺すためよ」
紗栄子が至って平然な顔のまま答え彩音を睨みつける。
「ひっ」
紗栄子に威圧され怯んでしまう彩音。そして彩音に速いスピードで近づき刃物を横なぎに振るう紗栄子。
「挨拶も早々に娘を殺そうとするなんて犯罪者に手を貸す人って随分とせっかちなのね」
李梨花が紗栄子の前に現れ剣で相手の短剣を防御する。
「わたしの目を見て動けるなんてあなた何者?さっきの目ちょっと魔力の呪い入ってるんだけど」
「さあ?特異体質なんじゃないかしら。ところであなたがさっきの男に魔導システムを売った売人てことでいいのかしら?」
「だったらどうするというの」
「売人はあなただけ?それとも他に仲間がいるの?バックは?」
「意外と冷静ね、そちらの組織の人達は頭の悪い人ばかりだと思っていたけど。そうね、売人はわたしだけじゃないしこちらも組織の一員てところかしら」
「その組織の本拠地てどこにあるのかしら」
「教えろと言われて教えると思って?」
「なら、身体に聞くまでよ!」
先ほどまで鍔迫り合いになっていた李梨花は相手の剣を振り払い切りかかる。衝撃で後退し痛みを堪える紗栄子。
「やっぱりあなた達て乱暴な人ね、エレガントじゃないわ」
顔を歪めながら悪態をつく紗栄子。
「旦那を殺しておいてよく言うわ。あたし達に話した話も犯人を娘の彩音に変えて話しただけで犯行から証拠隠滅まであんたが全部やったんでしょ。 大方魔導システムの売人側に勧誘されて魔法使いだった旦那と現役魔法使いの彩音が邪魔になったってところかしら」
李梨花は紗栄子に夫殺しと魔導システムの売人であることの関係を指摘する。
「ククク、ハーッハッハッハ。よく分かったじゃない、本当にあなた何者?子供にしてはあまりに聡明よ」
高らかに笑う紗栄子。その顔には娘を持つ母親としての一面はもうない。
「ちょっと他のやつより賢いだけよ普通の程度よ。さあ、死にたくなかったらバックの組織を教えなさい」
紗栄子に迫る李梨花。その顔は若干いつもより皺が寄っている。
「あなたの聡明さに免じて一つだけ教えてあげる。組織の名はアンダーウィザーズ、一般人に魔法使いとしての力を与えることから最強の魔法使いを作ることを最終目的にしているわ」
紗栄子がバックにいる組織の話をしだす。
「最強のっ………!それってどういう……」
李梨花が気になる点を見つけるが紗栄子は家屋の屋根に跳ぶ。
「今日はここまでにしてあとはまたの機会にしましょう」
紗栄子はそのまま家屋の屋根を跳びながら逃走する。
「待ちなさい!」
李梨花は追いかけるが途中で見失ってしまう。
路地裏の一角にある焼き鳥屋さへえ、そこに幾人もの男達がいた。佳代子の班のメンバー達である。その男に混じった中に司達男女がいた。
「今回は災難だったわね、あんた」
焼き鳥を串から口に入れながら李梨花が彩音に言う。
「お母さんがお父さん殺しててしかもそのお母さんが犯罪組織の一員とかありえないしショック大きすぎだよ………」
彩音が目の前の焼き鳥に手をつけずに言う。
「彩音……」
そんな彩音に早紀絵は言葉もかけられずにいた。
「ま、家とか学校とか警察とかの事情は組織はなんとかしてくれるから大丈夫でしょ」
「いいんですか李梨花さん、そんな調子で 」
他人事のように言う李梨花に美海がジト目で言う。
「いいって、そんな気にしなくて。わたしそんな落ち込んでないし」
彩音が気を使ってか強がりを言う。
「寂しかったらいつでも言って下さいね。僕達、いつでも駆けつけるんで」
司が彩音を励ます。
「べ、別に寂しくないから!家族が二人も急にいなくなって寂しいとか思ってないから!」
彩音が慌てたように言う。
「無理しなくていいですよ。ほら隣に早紀絵さんいるから」
司が早紀絵を指指しながら言う。
「こ、こうか?」
早紀絵が彩音に向け腕を広げハグ誘う。
「だから違うって、そういうのもいいから!」
さらに困惑する彩音。