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魔導奏者りりかさん  作者: 兵郎
八章 レオパルド使いの少年
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七十七話 悠と司の出会い、遥香の消失

例によって敵役?の回想話、途中司の突っ込みも入るがお構いなく



幼い頃、よく五十嵐兄妹は公園で遊んでいた。


「おにいちゃん、おままごとしよー」

「いいよー、なにやるー?」

「おにいちゃん、おとうさん役ねー」

「あー、かぞくごっこか」


「ガチャ、ただいまー」

「おとうさーん、おそーい。いままでなにやってたのー、もうよるのじゅうじだよー」

「て、うちじゃないか!いつもいえのかえりがじゅうじごろてうちのとうさんだよ!なんかじみにつらいからやめて……」

「えー、おにいちゃんのとうふめんたるー」

「とうふめんたるてなんだ……」


すると公園のベンチで本を読んでいたと思しき男の子が眉を吊り上げながら本を閉じる。パタンという音がすると男の子は二人を睨む。そして近づくと言った。


「キミたち、面白いことやってるね。僕も混ぜてくれるかい?」

それが五十嵐兄妹と司との出会いだった。それからというもの三人は毎日遊んだ。兄妹は親と遊べず寂しい思いもしたが司が来てからは少しはその寂しさも薄れた気がした。



「うそーん、そんな出会いだった僕ら?!てか僕そんな大層なことしてないし僕!幼稚園でも小学校でもボッチだっただから仕方なく一人で外で本読んでたらたまたま君達見かけただけだから!別に二人が寂しそうだったからじゃないから!」

司が悠の回想に激しく突っ込みを入れる。司から見た兄妹に与えた影響と悠が感じた司の存在感が違い過ぎたのだ。司の方は偶然二人が気になったに過ぎないが悠からは司がある種の救世主に見えてしまっているのだ。


「な、孤独に打ちひしがれる俺達兄妹に救いの手を指しのべてくれたんじゃないのか?」


「いや人間そこまで察しよくないから、パッと見仲のいい兄妹にしか見えないから君ら」


「そ、そうなのか………」


「で、その後どうなったの?僕が家の火事で引っ越した後は?」


「ああ、その後は………」



「司お兄ちゃん、もう来ないのかな」

「あいつの家、火事になったんだってさ。だから、もう来ない」

「死んじゃったの?」

「死んではいないけどもう来ないと思う」

「そう……」


二人はいつも通り遊ぶが以前のような楽しさはなく、哀愁のみが漂っていた。二人にとって司はそれだけ強い存在となっていた。



「なんかごめん」

思わず話の途中で謝る司、司自身の汚点はなくとも自分がいないせいで二人に寂しい思いをさせたのは確かなので謝るしかなかった。


「別にお前が悪いとは思ってないさ、だが問題はこれからなんだ」



「遥香ー!どこにいるんだ、遥香ー!」

ある時、悠の側から遥香が消えた。近くを探すが中々見つからない。


「司お兄ちゃん、どこー?」

遥香はもう会えないであろう司を探し街をさまよっていた。悠からはもう会えないと聞いていても生きているならばどこかできっと会えると信じていた。もっとも、遥香が探す場所に司はいないが。


すると黒い影が地面からにゅっと目の前に現れる。全体的に影のようにぬぺっとしているため細かい形は分からないが全体的にピエロを思わせる姿をしており片目が星型、口元が三日月の形をし不気味な笑みを浮かべている。


「あなた、だれ…………?」

遥香は影に圧されながらもなんとか声を絞り出す。影が人間なのか分からないが人型をしている以上人に近いものと認識したためだ。


「あなた、最近友達がいなくなって悩んでおりますねえ」

影が手を広げる身振りを入れ話しかける。


「え?」

遥香の顔が驚きに変わる、なぜそのことを知っているという顔だ。

「なぜ知っている?という顔ですねぇ、ムフフ」

またもや思考を読まれた、なんなんだこの影は。遥香の募る不安をよそに影は不気味に笑い嘲る。


「ええ、知ってますよぉ、あなたのことはなーんでも。なにしろあなたの小さい頃からずっと見て来ましたから」


「あたしのこと、分かってくれるの?」

「ええ、もちろん。おっと、今その坊やに会うのは叶いませんが」

「やっぱり………」

自分のことを分かってくれると言ったこの影ならひょっとしたら司と会わせてくれるのでは、と思ったがどうやら期待外れなようだ。


「ですが、いずれは会えるかもしれませんよ。いえ、それだけじゃありません。大切な人に会えない、大切な人と別れてしまう、そんな世界とおさらば出来るんです」


「なに、それ……」

「あなただけの理想郷、あなたのための理想郷を差し上げると言ってるんです」

「すごい、そんなことが!いつ?いつならくれるの?その世界?」

遥香は思わず詰め寄る。


「それはまだお伝え出来ません、時期が来たらいずれ………」

「あ、待って………」

遥香は手を伸ばすが影は姿を消してしまう。



遥香が自宅の近くに戻ると兄の悠が遥香を探していた。

「遥香ー!どこ行ってたんだよ、探したんだぞー」

悠はゼェゼェと息を切らしながら駆け寄る。


「ごめん。でも、もう大丈夫、きっといつかいいことがあるから」

遥香は二パッと笑う。

「なんだそりゃ」

悠はその笑顔の意味が分からず首をかしげるしかなかった。



そして現在から少し前、新学期の前の三月末頃になる。ピエロの影が再び現れ遥香の前に現れた。

「かの坊やは天使の力を失った、英雄も現れる気配がない。もう我々の邪魔をする者はいません。さあ、行きましょうか」


「遥香ー!遥香!何をしてるんだ、そいつから離れろ!」

悠が現れ遥香を注意する。


「あ、お兄ちゃん!」

遥香が悠に気づき振り向く。


「大丈夫だよ、司お兄ちゃんも助けるしお兄ちゃんにも寂しい思いはさせないから」


「え………」

ニヒッと笑う遥香の笑顔は五年前いなくなった時の不思議な笑顔を垣間見た。


「では、行きましょうか」

「うん」

「まっ、待て!」

悠が駆け寄るが遥香はピエロの影と共に消え去ってしまった。



「レオパルドと会ったのはあれからちょっと経った後だ、両親にも話して警察に届けてもらったけどまだ見つかる気配はないよ」

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