六十一話 第三の夢②
前半さなえ視点で後半李梨花視点で行ってます
「いってきます」
家を出て学校へ向かう。
「よっ、さなえ。今日は元気みたいだな」
幼なじみの豊太郎がいつも通り挨拶代わりに手を高く上げてくる。始業式の昨日は夜までゲームしてたから寝坊して通学路で豊太郎と会うことはなかった。
「ん」
いつも通りわたしも手を上げて豊太郎に合わせる。
「さなえ、今日何かあったか?」
豊太郎もわたしの心配をしてきた。わたしってそんなに不安とか悩みが顔に出やすいタイプかな。
「どうして」
「別に熱があるとかじゃなそうだけど何か調子悪そうていうか………」
よかった、顔に出てたとかじゃないんだ。そうだ、彼は元々こういう人だ。目がいいとかよく人を見てるとかじゃなくて人の考えや状態がなんとなくで分かってしまう人だった。お母さんとは違う意味で隠し事出来ない。
「問題ない、ちょっと変な夢見ただけ」
「ふーん、どんな夢見たんだよ?」
「忘れた」
「あれま」
嘘、忘れてはいない。どうせ彼のことだから夢の内容を言えば騒ぎだすに決まっている。それにヴァミラが負けるわけないとも言いそうでもある。わたしはこういううるさいのは苦手だ。
「ふわぁーあ」
その時、何かがわたし達の横を通り過ぎて行った。あまりに眠そうだったのものだからわたし達はそれを目で追ってしまった。
「つ、司?」
「あ、おはよー二人とも」
その人の後ろから名前を呼ぶ。彼の名前は天城司、五年前から近所に引っ越してきた。出会って最初の頃は両親が死んだショックだからか誰も寄せ付けない感じだったけど今じゃ明るい性格になってる。
「おはよう。お前、大丈夫かよ………」
豊太郎がいつになく心配してる。司の方もすごい眠そう。
「今日はねー、すごい夢を見たんだよ。みんなでおっきいクモさんに襲われたんだけど狼が出て助けてくれたんだよ」
司が間延びした声で言う。
「その話詳しく」
わたしは思わず司に詰め寄っていた、似たような夢を見た以上詳しく話を聞かないわけにはいかない。
「いや、だから森で僕達が蜘蛛に囲まれてるのを狼が助けてくれてその後………なんだっけ」
「それじゃ分からない」
「分からないって夢なんだからこれ以上話しようがないっていうか、ちゃんと覚えてないていうか」
がっかり、司なら正夢かもしれない話の内容を詳しく知ってるかもしれないのに。前も悪魔と天使が怪物と戦ってる夢を見てたって言ってたから聞いたのに。
「役立たず」
「役立たずってただの夢なのにそんな詳しい話知らないって」
「豊太郎の夢はただの夢じゃなかった」
豊太郎は夢の中で普通にヴァミラと会話してたし内容もちゃんと覚えてた。
「いっしょにしないで………よ?確か前にもこんなこと………、やっぱりアマツカがいた名残かな」
「アマツカって誰?」
「あ、今日傘持ってないから雨降ったら雨宿りするしかないかなー」
何か適当に誤魔化された感、まあいいや。
「どうしたさなえ、司の夢何か気にして。ひょっとして同じ夢でも見たか?」
「あなたには関係ない」
「関係ないって………」
さっきと同じで豊太郎は無視。
「ちょっと司ー、洗い物わたしに全部任せないでよー。あれから大変だったんだからねー」
後ろの方から女の子の声が聞こえる。声からして彩音だ。事情があって最近司の家に居候してる。豊太郎も司も普通に接してるけどわたしはどことなくあざとい感じがしてて嫌い。
「ごめんごめん、今朝の夢の話を早く二人にも知らせないと思ったらつい………」
「はあ、相変わらず変わってるよね君」
「よっ、彩音。今日も元気か?」
豊太郎が彩音に手を上げる。
「元気ー、いえーい!」
「イエーイ!」
パシンと交わされるハイタッチ。一年の時クラス違うせいでつい最近知り合ったばかりの異性の豊太郎に対して気安く触ってくとかやっぱり気に食わない。
「さなえちゃん、はい」
彩音がわたしにも手を上げてくる。
こいつにくれてやる挨拶なんてない。わたしは軽くでなく出来るだけ力強く相手の手を叩いてやった。
「いっつー。なによもう、愛想ないわねー」
「ふん」
彩音が痛がるがわたしは気にしない。
ー ー ー ー ー ー ー
学校の放課後、あたし達魔法使いは組織の本部に呼び出しを受けていた。なんでも見せたいものがあるとか。
「みんな、よく集まってくれたわね。まずはこれを見てちょうだい」
班長の佳代子さんがプロジェクターを操作しスクリーンに写真を映す。
「うわっ」
「ひうっ」
「なにこれぇ……」
次々上がる悲鳴。 スクリーンに映されたのは住宅街近くの幹線道路、そこにはいくつもの車が破損された状態で放置されていた。うっひゃあひどいいわねぇ、こりゃ。タイヤが切れてたりボンネットが粉砕してたり人間や車同士じゃ無理があるレベルの壊れ方ね。道具使えば出来なくはないけど道路を走ってる車にそれをやるのは無理がある傷ね。
てかこの写真どっから集めてきたのかしら。警察?監視カメラ?後者だったらあたし達やヴァミラまで映ってそうね、あたしが組織に黙って勝手に戦ってたのはともかくヴァミラの存在がバレたらやばそうね。魔獣と間違われて退治されたりして、魔力は出てないから魔獣じゃないのは確かなんだけど。
「これを見てどう思う?」
どう思うって聞いてるけど大抵こういう時は聞いた方は答えをある程度持っているものよね。まあ、敢えて聞くのは戯れってことかしら、会議を仕切る人間てのは変なこと言うわよね。
「どう思うって、人間の仕業じゃないてのは見れば分かるわね」
写真を一番冷静に見てた美羽羅が言う。他の連中と違って五年前から魔法使いやってるだけあって肝が据わってるわねえ。
「人間じゃないなら何の仕業だと思う?」
「魔獣?」
今度は活発な性格の沙紀絵が手を上げる。そういえばこいつは今日始業式だったわね。
「魔獣なら魔力が出てあなた達か組織のレーダーが感知して退治でもしてそうなんだけど」
「じゃあなんだよ、魔法使いか?」
「ざんねーん、魔法使いも魔力出してまーす。今回のとは違いまーす」
彩音が馬鹿にしたように言う。うっざー、何かうっざー。こいつ初めて会った時から他人を馬鹿にした感じだったのよね。なんかムカつく。
「ちぇー、違うのかよ」
沙紀絵が残念そうに口を尖らす。ごめん彩音、あんたよりこっちのが可愛いわ。子供っぽし、愛でたくなる。
「魔獣でもない、魔法使いでもない、ということは魔力を持たない第三の超常的存在てことですか」
美羽羅の妹の美海が答えを言う。てか超常的て何よ、あやふやにも程があるじゃない。せめて新手のモンスターとか新型兵器とかにしなさいよ。
「そういうことになるわね」
ちょっと、何がということになるわねよ。仮にも一部隊の班長のくせに雑過ぎでしょ、せめてもうちょい議論深めなさいよ。
「被害に遭った人達はなんて言ってるのかしら?」
それもそうよね、車が何台も壊れてるんだからその壊された被害者の人に事情聞けばいい話よね。流石美羽羅、クールじゃない!
「ああ、それ?今はまだ地元の警察が聞き込みしてるからそれの待ちね」
「え、自分達の組織でやるんじゃないの?」
美羽羅の驚きも最もね、秘密組織なのに超常現象の調査を警察任せにするとか名前負けするわよ。
「わたし達も面子とか利権とか色々あるのよー、下手に警察が調査してるのに横取りとかしたら大人げないじゃない。だから気使って調査は警察にやらせるの」
佳代子さんがやれやれて言わんばかりに言う。大人の世界て結構大変なのね。てかこの組織てもしかして警察組織とかなり密接な関係になってる?さっきの写真も警察から貰ったの?
「ふーん。まあいいわ、明日になればもっと詳しく分かりそうだし」
美羽羅があっさり引き下がる。いいのかそれで、先輩魔法使い。美羽羅て時折雑になるわよね。
「警察てデカってことか!足で動くのか!刑事ドラマみたいだぜ」
沙紀絵が思わず立ち上がる。本当元気ねえこの子。
「なら、あたし達で行っちゃう?」
あたしは手を沙紀絵に向け誘いをかける。
「駄目よ、わたし達がやったら警察の面子が潰れるじゃない」
「はいはい」
佳代子さんに怒られてしまった。
良かったらブックマークや評価お願いします




